ICTが創る新しい学び

家庭学習でのICT活用で子供の“やる気”と“学力”を高める

201510P132福生市立福生第五小学校

子供たちの学力を高めるには、分かりやすい授業を行うだけでなく、家庭学習の習慣を定着させることが大切です。その一方策としてICTを活用する新たな試みが東京都福生市で行われ、注目を集めています。モデル校の一つ、福生市立福生第五小学校の実践を取材しました。
(文・編集部)

やり始めると“どんどん” 解きたくなる

2015 年6月、福生市立福生第五小学校の3年生の児童に、1人1台ずつタブレット端末が渡されました。使い方について一通り説明がなされた後、先生が「今日の宿題は、タブレットを使って出します」と言うと、子供たちは「やった!」と歓声を上げました。真新しいタブレット端末を手にしたわくわく感が止まらない様子です。

宿題として出されたのは、タブレット端末内にインストールされた『算数マスタードリル』。「割り算」と「小数」の問題が多数収録されたアプリです。「宿題」とは言っても、どこからどこまでやるか、決まっているわけではありません。プリントにして約500枚分あるドリルから、子供たちはやりたい問題をやりたいだけ解いていきます。「教師の側から、『やりなさい』とは言いません。このドリルについては、子供たちの自主性に任せています」と、3年1組担任の拝原奈穂実先生は話します。

「やり始めると、どんどんやりたくなってしまう。前は割り算が苦手だったけど、これを使うようになってからスラスラと解けるようになった。」

「紙のドリルと違って、すぐに採点をしてくれる。そばに先生がいるみたい。」

使ってみた子供からはそうした声が上がるなど、タブレット端末の利用が学習意欲の向上につながっている様子が伺えます。

 

目標は学力向上。ICT は“手段”

今回の実証研究は、凸版印刷株式会社と福生市教育委員会、慶應義塾大学の“産官学”連携により、2015 年6月にスタートしたものです。研究の主たる目的は学力向上。ICT の活用は、そのための“手段”という位置付けです。

実証研究を進めるにあたり、研究チームが着目したのは“家庭学習”でした。「子供の生活を24 時間単位で捉えると、家庭でどのように学習するかがとても大切。その様子を学校側から可視化できるこの仕組みは、学校教育のニーズに合致するものだと思いました」と、福生市教育委員会の川越孝洋教育長は研究の意義を語ります。

研究の基盤となるシステムは、凸版印刷が開発した『やるKey』という学習支援ツールです。その名の通り、子供たちのやる気を引き出し、家庭学習の質と量を高め、学力向上を図ることを目的としたICT ソリューションです。今回の実証研究では、福生市内4校の小学3年生が、このソリューションを活用して『算数マスタードリル』に取り組みました。

利用の大まかな流れは、次のとおりです。まず、タブレット端末の『算数マスタードリル』アイコンをタップすると、「1 − 1」から「6 − 4」まで、小単元、めあて別に整理された算数ドリルの一覧が表示されます。そして、子供たちは、この中からやりたいドリルを選択します。

続いて、表示された問題に解答を入力し、「答え合わせをする」をタップすると、瞬時に「○」「×」の正誤が表示されます。その記録はすべてサーバに蓄積され、担任の先生がモニタリングできるようになっています。

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子供たちに渡されたタブレット端末は、iPad のセルラーモデル。端末自体に通信機能を備えていることから、子供たちはLAN 環境の有無にかかわらず、使用できます。タブレット端末は、家庭学習だけでなく、学校の授業などで活用することもありますが、LAN 環境のない教室でも、不自由なく活用できるようになっています。

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『やるKey』の『算数マスタードリル』で朝学習に励む子供たち。

 

先生が家庭学習の様子をモニタリング
学校での声かけや指導に生かせる

ICT ツールの活用において、常に問われるのは「なぜ、ICT なのか」です。子供たちが計算問題に取り組むだけならば、紙のプリントでも十分ではないかとの指摘をする人もいることでしょう。この点について、同校の実践には、ICT を活用する3つのメリットと必然性があります。

1つ目は、学習の様子を教員がリアルタイムに把握できる点です。一人一人の子供がどのドリルに、どう取り組んだのか、学習時間や学習量、正答率、前日との増減などを、担任が教師用の端末からいつでも確認できます。

「家庭学習の様子が手に取るように分かるので、いつも『◯◯くん、頑張っているな』などと思いながら、その様子を見守っています。多くの問題を解いた子や長時間学習した子には、翌朝『昨日、頑張っていたね!』と声をかけます。そうすることで、子供はさらにやる気を出します」と、拝原先生は言います。

2つ目は、子供のつまずきに対し、ICT が独自のアルゴリズムで適切にフォローをしてくれる点です。
例えば、ある子供が「32÷4」の割り算で誤答したとします。その場合、「4の段」の掛け算(九九)に問題があると判断し、ICT が「つまずき見直しドリル」として「4の段」の掛け算問題を表示します。これを数題繰り返し解くことで、子供は「4の段」の九九をマスターし、先に誤答した「32÷ 4」の問題も正答できるようになっていきます。同様に、足し算の「繰り上がり」がうまくできない場合も、つまずきのパターンをICT が分析し、その克服に向けた「つまずき見直しドリル」を出題して、正答できるようにしていきます。

これと同じことをアナログで行うには、教師が子供一人一人の学習状況を緻密に分析し、支援していく必要がありますが、多忙化が進む昨今の学校教育の場において、容易なことではありません。しかし、この「レコメンド機能」を使えば、その手間は大幅に省力化され、子供が自主学習を通じてつまずきを解消していけます。

3つ目は、子供自身が学習目標を設定し、その達成に向けて主体的に取り組める点です。目標を立てること自体は、紙のプリントでもできますが、タブレット端末を使うことで、より明確な到達度が可視化され、子供たちはやる気を高められます。

「このシステムの特長の一つは、子供一人一人が自分の目標を立てられるところ。この機能がないと、友達同士との競争になってしまいます」と、『やるKey』の開発に携わった東北学院大学の稲垣忠准教授は指摘します。

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『やるKey』の活用で明らかになった子供たちが苦手な領域(「引き算」をしてか
ら「割り算」をする文章題)については、授業で重点的に補います。

 

“個”と“全体”の両面で、指導の充実が図れる

6月19 日、同校で実証研究の公開授業が行われました。公開されたのは、拝原先生が担任を務める3年1組の朝学習と算数の授業。朝学習では、子供たちが普段、家庭でしている『算数マスタードリル』の自主学習に取り組みました。

「それでは、いつも通り目標を立ててみましょう。時間は最大10 分。ページ数は自分で好きな分だけ、設定してくださいね。」

拝原先生がそう指示すると、子供たちはすぐさま、“目標”となるページ数を入力。その後は、黙々と
ドリルに取り組み、表示される問題を解いていきます。その慣れた手つきからも、端末の使い方をマスターしている様子が伺えます。

子供たちがドリルに取り組んでいる間、拝原先生は机間支援を行います。この日は、一人の女子児童に対し、やや時間を取って指導を行いました。授業終了後、この点について聞くと「日頃、子供たちの学習状況を職員室で確認していますが、中には学習時間は多いのに、正答率が悪かったり、実施したページ数が少ない子供もいます。そうした子は、何かにつまずいているはずなので、翌日にしっかりとフォローするようにしています」と答えてくれました。

児童一人一人の学習状況をモニタリングできるだけでなく、『やるKey』では、学級全体の“傾向”を把握することもできます。例えば、拝原先生のクラスでは、「引き算」をしてから「割り算」をするような、式を2つ立てて答えを求める構成の文章題の正答率が、他の問題に比べて低い傾向にありました。そうした状況を踏まえ、朝学習の後に行われた算数の授業では、このタイプの問題への理解を深める授業が行われました。こうして、個々の学習意欲を高めるだけでなく、授業や指導の充実に生かせる点も、『やるKey』の大きな特色と言えます。

*    *    *

実証実験は、6月から11 月にかけて福生市立内の5つの小学校で行われ、実施前後の学力調査を通じて、効果検証が行われる予定です。実証研究のメンバーである慶應義塾大学の中室牧子准教授は、「昨今は、どの自治体の財源も厳しいものがあります。

そうした状況の中、学力向上のためにICT が有効であることを定量的に示すことで、教育予算の獲得につなげていければと考えています」と話します。現在は、小学校3年生の算数において行われている実証研究。その効果が検証され、実践が他学年や他校種、他教科へと広がっていく日はそう遠くなさそうです。

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