学校不祥事の顛末

体罰で骨折,中学教諭を減給

【今月の事例】
体罰で骨折、中学教諭を減給
A 県教育委員会は、男子生徒に体罰を加えて左手首に骨折のけがをさせたB 市立中学校の男性教諭(49)を減給1カ月(10分の1)の懲戒処分にしたと発表した。県教委などによると、男性教諭が生徒指導を務める1年生全体の朝礼前に、男子生徒の頭髪について注意した際、胸ぐらをつかんで押し倒し、全治3~4週間のけがをさせたという。県教委は「体罰の根絶に向けて取り組んでいる中に起こり、極めて遺憾。信頼回復に全力を尽くす」と話した。

 

【法律家の眼】

懲戒行為を逸脱した体罰
刑事責任が問われる可能性も

弁護士 樋口 千鶴
(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

1 体罰事案における法的責任の種類

本事例は、「胸ぐらをつかんで押し倒す」という暴行により、生徒の「左手首に全治3~4週間の骨折」という傷害を負わせた事案です。この暴行行為は、生徒の身体に対する直接的な有形力の行使にあたり、当時の状況からしても懲戒行為を逸脱した体罰と評価されることは明らかです。

体罰は学校教育法第11 条で明確に禁止されており、体罰を行えば懲戒処分の対象となります。本事例では減給処分がなされましたが、これは行政上の懲戒処分になります。しかし、体罰をした教員に問われるのは行政上の責任だけにとどまりません。刑事罰を受ける可能性、あるいは民事上の損害賠償を請求される可能性もあるのです。

今回は、このうち刑事上の責任について見ていきましょう。


2 体罰事案と刑事責任

(1)人の身体に対する罪
刑法の条文に沿って、体罰に関連する罪について概観しましょう。

・傷害罪(刑法第204 条)
「人の身体を傷害した者は、15 年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
例: 生徒の顔を平手打ちし、これにより鼓膜が破れた

・傷害致死罪(刑法第205 条)
「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。」
例: 生徒の足を蹴って転倒させ、これにより頭を打って脳内出血し、結果生徒が死亡した

・暴行罪(刑法第208 条)
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30 万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
例:胸ぐらをつかんで揺さぶる 物を投げつける


(2)本事例の検討

「胸ぐらをつかんで押し倒す」行為は、相手を立った姿勢から床へ転倒させることになるため、危険な態様の暴行と評価できます。そして、暴行による転倒で手首骨折という傷害結果が発生しています。よって、正当防衛といった違法性阻却事由もない本事例は「傷害罪」が成立する事案であると言えます。なお、立った状態から転倒して頭を打てば、さらに重篤な傷害が発生した可能性も十分ありますし、場合によっては死に至る結果を招くことも予見されます。

最悪の場合、傷害致死罪が成立する可能性がある危険な暴行行為であることを認識すべきでしょう。

(3)懲役刑に処せられた場合

地方公務員法には、禁固以上の刑に処せられた場合、失職するという規定があります(第28 条4項、第16条2号)。また、教育職員免許法によれば、禁固刑以上の刑に処せられた場合、教員免許は失効するという規定があります(第10 条1項1号、第5条1項4号)。

罰金刑は「禁固以上の刑」に当たりませんが、懲役刑はこれに当たります。そのため、たとえ執行猶予がついたとしても、懲役刑の判決を受ければこれらの規定に該当することになります。

例えば「傷害罪で起訴されて、執行猶予付きの懲役刑という有罪判決を受けた」という場合、刑務所へ収監されるという実刑は避けられたとしても、失職や教員免許失効という厳しい結果が待っていることになるのです。

 

3 総括

示談が成立して起訴猶予となる場合もあるため、あらゆる体罰事案について常に刑事責任が問われるわけではありません。しかし、刑事責任を問われる事態はコンプライアンス違反の最たるものです。被害者となる児童生徒のためにも、常日頃から体罰によらない指導について研鑽を重ねる必要があると思います

 

【教育者の眼】

一つの体罰事件が多方面に及ぼす多大なる影響

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

今回の体罰事例も、まさしく指導とは言いがたいものです。ましてや生徒にけがをさせてしまったとなれば、体罰禁止に抵触するどころか傷害罪に当たる可能性も考えられます。こうした信用失墜行為が発生した場合、各方面にどのような影響が生じるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

 

■ 学校への影響 →教育力の低下

◯ 一人の教諭が起こした体罰事件により、誠実に勤務している教職員までもが、児童生徒・保護者・地域住民からの信頼を失う。そして、学校の秩序や規律の維持が難しくなる。
◯ 教職員が児童生徒に対する指導に自信を失ったり、萎縮したりして、課題のある児童生徒への指導が適切に行われない状況を生むことになる。さらには教師間の不和が生じ、組織的な指導ができなくなることもある。
◯ 体罰を起こすと、保護者や地域住民、さらには全国の人々から学校に苦情や問い合わせが殺到する。学校はその対応に追われ、教育活動に支障が出る。
◯ 緊急の保護者会等を開催し、経緯や状況、今後の取り組みなどについて説明責任を果たす必要性が出てくる。
◯ 報道やマスコミ関係への取材対応、場合によって記者会見をする必要性が出てくるなど、学校が落ち着かない状況となる。

 

■ 児童生徒への影響 →不安感

◯ 心理的に動揺し、教職員に対して不信感を抱き、学校生活への意欲を失ったり、学習意欲を低下させたりする。
◯ 自分の学校に誇りを持てなくなる。
◯ 正常な倫理観を養うことができず、暴力による解決を助長し、いじめや暴力行為などが増える。
◯ 体罰を受けた児童生徒は、人間としての尊厳を傷つけられ、他人への不信感を強める。
◯ 体罰を受けた児童生徒はもちろん、関係する他の児童生徒にとっても心のケアが必要な状況となる。中には不登校になったり、精神的な痛手から自殺を図ろうとすることも考えられる。

 

■ 保護者・地域への影響 →不信感 

◯ 長年にわたり築き上げてきた学校への信頼が一瞬で崩れる。
◯ 不信感によって、学校の教育活動への理解や協力が難しくなる。

このように、体罰行為が発生すると、多方面にさまざまな影響が生まれますが、最も影響・被害を受けるのは児童生徒であることを忘れてはいけません。

 

■ 信頼回復のためにどう取り組むか

失った学校・教師への信頼を回復するためには、これまで以上の地道な努力が必要です。信頼を回復するためにも、教師として次のようなことに取り組んでいくことが求められます。

◯ 教職員として人間性や専門性を高め、児童生徒一人一人の個性や長所を生かす生徒指導を推進する。
◯ 教育相談的な関わり方を大切にし、児童生徒の不安や悩み、喜びなど、心情を共感的に受け止める。学校としては、体罰防止に向けた開かれた学校づくり、風通しの良い学校づくり、チームで取り組む職場づくりなどに取り組んでいくことが求められます。

次号では、処分を受けた教員がどうなるかについて、述べていくことにします。

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