教職感動エピソード

Vol.5 “一番の先生”と過ごした貴重な日々

安藤 友子(元小学校長)

201510P123

イラスト・佐藤百合子

 

異動した年度に6年生の担任を仰せつかったときのことです。

子供たちは、着任したての私より、その学校の5年間の先輩。始業式の前日は、4月から6年生になる子供たちが、入学式の準備や教室移動の手伝いをするために登校してきます。まだ正式に担任発表をしていないので、お互いに名乗るわけにもいかず、なんとなく気恥ずかしい、それでも明日になればという思いでポケットに名簿をしのばせて、子供たちの動きを見ながら仕事をしていました。指示を受けて、実によく働く気持ちの良い子供たちです。そして翌日、担任発表の後、新6年1組の子供の名前を呼びながら一人一人と握手をしました。そして、学級通信の名称も「握手」としました。本稿では、この「握手」を懐かしい思いで繰りながら綴らせていただきます。

始業式前日と当日の2日間で子供の名前を覚えて、学級通信「握手」で一人一人に語りかけました。1日か2日で学級の子供の名前を覚えることは、担任時代、ずっと自分に課してきたことです。名前を呼ばれた子供は、ちょっと驚いた様子を見せたり、嬉しそうにしたりと反応はさまざまですが、学級経営の基本だと思ってやってきました。

 

〈6人×8+5人×4〉「握手」No.14

4月半ばのある日、数日後に登山遠足を控えて、「班作り」をすることにしました。体育館に6年生を集め、3つの条件のもと、自分たちで班作りをします。

1 男女で協力する班を作る。
2 6人班を8つと5人班を4つ作る。
3 1組、2組がまざった班でもよい。

1回目の制限時間は20 分としました。ここまでにできた班はわずかに2つでした。明るく素直で物事にまじめに取り組む子供たちですが、指示を待って動くことが多いことが気になっていました。今回の班作りは自分たちの力で作らせてみようと、学年で話し合い、投げ掛けました。制限時間を延長し、「もうひとがんばりしよう」と声を掛け、子供たちを信じて担任は我慢です。ようやく出来上がるまでに70 分かかりました。子供たちの感想です。

・ 今日はすごく時間がかかったが、このことでみんなの心がパーッと開いた感じがした。私は成長した。
・ うろうろしていた僕をK 君が一緒の班になろうと言って、仲間にしてくれた。ありがとうK 君。
・ 初めてだったので大変だった。1時間10 分かかったけど、苦労して作ったかいがあったと思います。

子供たちが、自分たちの力で進んで取り組めばできるんだという意欲を持つことができた記念日でした。

 

〈ムラサキ&地層の見学〉「握手」No.47

着任した学校の校歌に「むらさきにおう」という歌詞があります。この歌詞の意味が分からず、子供たちに聞いてみましたが、知らないと言います。「私より5年間もこの学校の先輩なのに、知らないで歌っていたの?」と、ちょっと意地悪ばあさんの発言をしました。

1週間ほどしたある日の放課後、「先生、分かったよ」と数人の子供たちが息せき切ってやって来ました。みんなで近くの「野草園」に行ったら、「ムラサキ」があったというのです。「ムラサキ」は白い小さな花をつける植物で、その根が紫色です。古代から織物を紫色に染め上げる染料として貴重なものでした。私がちょっと投げ掛けた課題を、子供たちが地域を駆け回って解決してくれたのです。遠足の班作りから1カ月後の変身です。

数日後、学年全員で「野草園」の見学をさせていただき、ついでの発見でしたが、すぐそばに切通しがあり、地層の学習もすることができました。

 

〈ドキュメント・ザ・造形砂場〉「握手」No.69

児童朝会で、生活指導主任の先生が「造形砂場の使い方がよろしくない」と注意をしていらっしゃいました。4時間目が図工だったその日の給食配膳の時間、教室へ行ってみると、給食当番しかいません。「みんなはまだ図工をしているの?」と聞くと、給食当番以外は造形砂場に行ったというのです。急いで行ってみると、流しをつまらせている砂をかき出したり、スコップで掃除をしたりと汗だくになっています。給食当番が呼びにきて、仕事は中断。給食を食べ終わると「昼休みに低学年が遊ぶと危ない」と言い、またすっ飛んで行きました。全員、晴れ晴れとした表情でした。

 

〈ことわざ2101〉「握手」No.173

9月から、「ことわざ遊び」を始めていました。私が職員朝会に出ている朝の時間を利用して、毎日1人1つのことわざを短冊カードに書いていきます。カードは教室に貼っていきました。すっかりことわざ遊びに興味を持った子供たちは、教室中がカードで埋め尽くされても続けると言います。どうするのかと思っていたら、廊下の壁にも貼り始め、とうとう廊下の天井にもカードを貼って、「えへへ、ことわざのトンネル」などと言って楽しんでいます。12 月中旬、学級会で話し合い、2学期でひとまず終了することにしました。

ここまでに集めたことわざは、2,101 個。ことわざの面白さを知った子供たちは、自分たちでことわざの創作にも挑戦していました。

「ドンマイは心のゆとり」
「努力のかたまりは成功のもと」

なかなかの傑作です。今も、私の座右の銘になっています。
彼らと出会ってから卒業までの1年間は、私の“一番の先生”と過ごした貴重な日々でした。

教育者であり哲学者の 森信三氏の言葉です。

教育とは、流れる水に文字を書くようなはかない仕事なのです。しかし、それをあたかも岩壁にのみで刻みつけるほどの真剣さで取り組まなければならないのです。教師が己自身、あかあかと生命の火を燃やさずして、どうして生徒の心に点火できますか。教育とはそれほどに厳粛で崇高な仕事なのです。
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