学校不祥事の顛末

体罰で男子生徒が骨折 全治約10週間のけが

【今月の事例】
体罰で男子生徒が骨折 全治約10週間のけが
県教育委員会は、男子生徒に体罰を加えて骨折させた30 代男性の中学校教諭を停職1カ月の懲戒処分にした。教諭は校内でけんかをしていた生徒2人のうち1人から事情を聞いたところ、素直に答えなかったため、生徒の顔を殴ったり、左肩を蹴ったりするなどの体罰を加え、左肩の一部骨折など全治約10 週間のけがを負わせた。県教委は、教諭が以前にも体罰行為により厳重注意を受けていた点を重視し、減給処分ではなく停職処分とした。

 

【法律家の眼】

学校にも求められる「コンプライアンス」の視点

弁護士 樋口 千鶴
(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

■ コンプライアンスとは?
企業の不祥事が発覚すると必ず耳にする「コンプライアンス」という言葉。どういう意味か、皆さんは説明できますか?
企業が存続発展していくためには、社会的信用を維持することが必要不可欠です。そのためには、単に「法律に違反しなければよい」というだけでなく、社会から求められる企業倫理を遵守することが重要です。このような観点から、コンプライアンスとは広い意味で法令等を遵守することを言い、企業において広く浸透していると言ってよいでしょう。

■ 学校におけるコンプライアンス
学校も社会的責任を負う組織である以上、企業と同じくコンプライアンスが求められます。また、公務員の場合は「服務上の義務」として、法令遵守義務(地方公務員法第32 条)や信用失墜行為の禁止(同法第33 条)などの定めがあります。昨今の学校不祥事を受け、学校現場においてもコンプライアンスの重要性はより一層認識されるようになっています。

■ 事例の検討
それでは、本事例の内容について検討していきます。生徒指導中に、殴る蹴るの暴行を加え傷害を負わせたとなると、さすがに「やっていけない体罰」だというのが一般的な感覚でしょう。もう一歩踏み込んで、体罰が禁止される法的根拠について確認しておきましょう。学校教育法第11 条に次のように記載されています。

校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

それでは、懲戒と区別される「体罰」とは何でしょう。「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」(平成25 年3 月13 日)に「懲戒と体罰の区別」に関する、次のような記述があります。

(1)教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒、保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである」

(2)(1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、①身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、②児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座、直立等特定の姿勢を長時間に渡って保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。

体罰に該当する行為とは何かを整理すると

① 児童生徒の身体に対する有形力の行使(注:身体に対し物理的に力を加えること)
② 有形力の行使以外の方法であって児童生徒に肉体的苦痛を与える行為

となります。これを念頭に置きつつ、自分だったらどうするかを考えながら、この通知の別紙「学校教育法第11 条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する参考事例」を読んでみてください。

本事例の殴る・蹴るなどの行為は、明らかに学校教育法第11 条が禁止する体罰であり、これを行えば服務事故として処分を受けることは免れません。体罰は学校におけるコンプライアンス違反行為であり、学校不祥事として社会から極めて厳しい評価を受けることを肝に銘じる必要があるでしょう。

 

【教育者の眼】

体罰事件、処分の重さはどのように決まるか

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

■ 体罰に対する認識の甘さ

本事例では、けんかの事情を聴取する際に、生徒の態度に教師が腹を立て、殴る・蹴るなどの行為を行い、全治約10 週間のけがを負わせました。こうした行為に対し、よく「行き過ぎた指導」や「情熱からの指導」などと言及されることがありますが、体罰は決して“指導”ではないことを肝に銘じておくべきです。

本事例の教諭が以前に厳重注意を受けた際には、体罰行為について猛省をし、当該生徒やその保護者に謝罪し、二度と同様の行為を起こさないことを誓ったはずです。にもかかわらず、再び体罰行為を行い、学校教育の信頼を損ねました。その影響は、極めて大きいと言えます。

この教諭には、心のどこかに体罰を容認する隙が見え隠れします。また、学校にも体罰を容認する雰囲気があったのではないかと推測されます。学校教育における“指導”とは何か、基本的人権の尊重をどのように考えているのか、教育に携わる者として残念でなりません。

本事例は、学校教育法第11 条に抵触し、懲戒処分の対象となることは明確です。教育公務員は「全体の奉仕者」であり、児童生徒の教育を司る者として基本的人権の尊重に努める義務がありますが、この点でも看過できない行為と言えます。

■ 体罰に対する行政罰

体罰は信用失墜行為の禁止(地方公務員法第33 条)にも抵触し、「戒告」「減給」「停職」「免職」のいずれかの「懲戒処分」となります。処分は、任命権者である都道府県または政令都市教育委員会が、その教員が所属する学校の校長、区市町村教育委員会からの事故報告書等を受けて行われます。

処分の“重さ”は、体罰の内容はもちろん、次のようなことを詳細に調査した上で、決定されます。

○ その教諭のこれまでの勤務実績
○ 体罰をした児童生徒への指導の経緯や人間関係、信頼関係等
○ 以前も体罰行為で厳重注意を受けていた場合は、その後の指導改善等は図られていたのか
○ 学校が体罰を容認するような雰囲気ではなかったか
○ 体罰を受けた生徒と保護者の意見

懲戒処分の重さについては多くの場合、自治体ごとに基準等を定め、決定しています。本事例の教員は、厳重注意を受けたことがあったにもかかわらず体罰行為に及んだことから、反省の意がないとして「停職」というより重い処分が下されたものと考えられます。

■ 体罰をなくすために
では、体罰をなくすためにどうすればよいかについて、考えてみましょう。

○ 体罰は法に違反する行為であることを心得る
○ 児童生徒の性格や個性を把握し、一人一人のよさを伸ばす指導を心がける
○ 児童生徒の話によく耳を傾け、心に染み入る説諭、指導を冷静に行う
○ 威圧的な指導等に頼らず、児童生徒との信頼関係を作る
○ 教員の権威を振りかざし、自分の思い通りに生徒を動かそうとしない
○ 人権を無視した指導をしない

体罰事件が起きた学校にはどのような影響が出るのか、そしてどのように対応すればよいのか、さらに処分を受けた教員はその後どうなるのか。これらの点については、次号以降で詳しく述べていくことにします。

教育データ対策 これ一冊でいっき解決! 3ステップ過去問分析の進め方 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご案内