編集長コラム

義務教育の“無償” 範囲はどこまで?

20150625.jpg

佐藤 明彦(時事通信出版局『教員養成セミナー』編集長)

国が負担してくれる範囲

前回コラムで書いたように、日本の保護者は子供に「普通教育を受けさせる義務」を負っています。この「義務」と表裏一体の関係にあるのが、「無償性」です。

「学校には必ず行かせなさいよ。その代わり、お金はいただきませんからね」というのが、日本の公立学校の基本的なあり方なのです。

しかし、完全にタダなのかと言われれば、そうとも言えません。例えば、授業で使うノートや筆記用具、制服や上靴、ランドセルなどの学用品。これらは、保護者が自費で購入する必要があります。音楽で使う楽器や体育で着る体操着、図工で使う絵の具セットなどもそうです。他に、遠足や修学旅行に係る費用などもあります。「義務教育だから、1円もかからない」なんて考えて子供を小学校に入学させると、結構大変な思いをするわけです。

そうした誤解から、トラブルが勃発することもあります。その典型とも言えるのが、給食費をめぐるトラブル。学校に納入する費用としては比較的額が大きいだけに、何かと理由をつけて支払いを免れようとする保護者が少なくありません。

「別に好きで子供を学校に行かせているわけじゃない。義務教育だから行かせているんだ。なのに、どうして給食代を払う必要がある?」

そんな風に言われたら、若い先生は困惑してしまうかもしれません。でも、心配はご無用。そのときは、毅然とした態度でこう返せばよいのです。

「給食費は保護者負担です。法律でそう決まっています。」

 

悪質化が著しい給食費の未納問題

学校給食が保護者負担であることを定めているのは、学校給食法です。第11条に「学校給食に要する経費(中略)は、(中略)保護者の負担とする」と規定されています。

これにて一件落着・・・といきそうですが、そうは問屋が卸しません。学校給食法に、給食費未払いの罰則がないのをよいことに、支払を拒み続ける人がいるのです。

もちろん、経済的な理由で支払えない場合は別です。どの自治体にも、家庭の所得等に応じて、給食費や学用品費を補助してくれる制度があるので、その活用を勧めればよいでしょう。問題は、それ以外の悪質な“確信犯”です。中には、「金がなくて払えない」と言いながら、高級車を乗り回しているような例もあります。

「そんな輩、許しておけん!」ということで、最近は法的措置に出る自治体も少なくありません。中には、保護者の勤務先に連絡し、給料を差し押さえたケースもあります。そこまでしなくても・・・と言う人がいるかもしれませんが、自治体がそうした強攻策に出るほど、最近の未納事例は目に余るものがあるのです。

「いっそ、給食費を支払わない家の子には、給食を出さなければいい」

そう言う人もいるでしょう。支払わざる者食うべからず。一理あるようにも聞こえますが、実際にそんなことをしたら、クラス内でその子の立場がありません。それが発端で、いじめられる可能性だってあるでしょう。学校教育において、子供の問題と保護者の問題は、ある程度切り離して考える必要があるのです。

 

教科書も昔から無償だったわけではない

では、義務教育の「無償」とは、一体どこからどこまでを指すのでしょうか。教育基本法第5条は、その範囲を次のように規定しています。

「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない」

無償の範囲=授業料というわけです。でも、勘の鋭い人は、こう突っ込みを入れることでしょう。

「そんなはずはない。教科書はただで配られているはずだ」

その通りで、小・中学校の教科書は現状、無償で全児童生徒に配布されています。

でも、最初からそうだったわけではありません。無償配布が始まったのは1963(昭和38)年。それ以前は有償でした。

教科書が有償だった時代、その代金が工面できず、近所などから古い教科書を譲ってもらう家庭が少なくありませんでした。新年度、周囲の友達がまっさらな教科書を使っているのに、自分だけ落書きだらけでボロボロの教科書を使い、悲しい思いをした子供もいたことでしょう。

そうした状況を改善しようと、教科書を無償にする運動が全国的に広がり、「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」が1962(昭和37)年に成立するに至りました。晴れて、すべての児童生徒に、ピカピカの教科書が配られるようになったわけです。

こうして見ると、義務教育における無償の基本スペックは授業料であり、教科書は“オプション”であることが分かります。オプションですから、国の財政事情が悪化すれば、教科書が再び有償となる可能性も、決してゼロではありません。

逆に、国家財政が豊かになれば、給食費や修学旅行費もタダになるのかというと…悲しいかな、国の借金が1,000兆円を超えている現状を考えれば、その可能性は限りなくゼロに近いと考えるのが妥当でしょう。

教育データ対策 これ一冊でいっき解決! 3ステップ過去問分析の進め方 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご案内