編集長コラム

義務教育の「義務」が示す本当の意味

20150617

佐藤 明彦(時事通信出版局『教員養成セミナー』編集長)

“義務”を負っているのは子供ではない

「なんで、学校に行かなきゃダメなの?」
子供にそう聞かれたら、大人はどう返せばいいのでしょうか。ある人は、次のように答えるかもしれません。
「学校はね、みんな行かなきゃダメなんだ。それが“義務”なんだよ」
国民の3大義務の一つ、いわゆる「義務教育」というやつです。学校に通うことは、「働くこと」や「税金を納めること」と同じく、憲法で定められた国民の義務。だから、有無を言わさず守らねばならない。それが回答の趣旨です。

しかし、この回答、厳密に言えば間違っています。もっと言えば、子供が学校に通う義務なんて、日本の憲法のどこを探しても書かれていません。
ならば、「義務教育」とは一体何者なのでしょうか。日本国憲法第26条第2項にはこう記されています。

「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」

そうです。義務を負っているのは「子供」ではなく、「保護者」なのです。教育を「受ける義務」ではなく,子供に教育を「受けさせる義務」。よって、子供に「なぜ、学校に行かなきゃダメなの?」と聞かれたら、こう答えなければいけません。

「それはね、お父さん(お母さん)に、子供を学校に通わせる義務があるからなんだ。お前が学校へ行ってくれないと、憲法違反になるんだよ」

子供への回答としては、どうにも歯切れが悪く、説得力に欠ける感があります。しかし、「義務教育」の意味を正確に引用する限り、これが正しい回答となります。

“義務”に違反したらどうなるのか

このように、義務を負っているのは保護者ですから、学校に行かなかったからといって、子供が罰せられることはありません。一方で保護者は、罰せられます。

「そんなはずはない。不登校の子供の親はどうなるのか?」

そんな声が聞こえてきそうですが、不登校の場合は、保護者が通わせないよう仕向けているわけではないので、法的な問題はありません。罰せられるのは、子供が学校に行きたいと言っているのに、保護者が意図的にそれを阻んでいる場合です。

例えば,子供自身が「学校に行きたい」と言っているのに、その意に反して自宅で勉強をさせ続けた親がいたとします。「ホームスクーリング」と呼ばれる教育的手法ですが、現状の日本においてこれは,憲法が謳う「普通教育」とは認められていません。そのため、間もなくすると教育委員会から「出席督促書」が届きます。

これを無視し続けた場合、どうなるのでしょうか。「教育を受けさせる義務」に違反したとして、罰金が科されます。金額は「10万円以下」(学校教育法第144条)。毎年の支払いを求められるわけではないので、これを「高い」と見るか、「安い」と見るかは微妙なところでしょう。ただ、これを支払ったからといって、出席の督促が行われなくなるという話ではありません。

義務を果たす場は「学校」でないとダメ?

保護者の中には、現状の公立学校に強い不

この一件は、義務教育のあり方に一石を投じる出来事だったと思います。保護者が背負っている「教育を受けさせる義務」の履行は、学校以外ではダメなのか、と。

義務教育を規定した憲法第26条第2項は、もともと子供の「学習権」を保障するために作られたものです。戦前の日本では、子供を学校に行かさず、家業を手伝わせる家庭が少なくありませんでした。まだ日本が貧しかった時代の話です。こうした「児童労働」とフリースクールやホームスクーリングを同列に論じることは、できないでしょう。

現在、「義務教育=学校教育」という構図に、大きな変化をもたらす動きが出てきています。フリースクールや家庭での学習も、一定の条件を満たせば「義務教育」として認める法案が、提出される見通しとなったのです。

不登校状態にある児童生徒は全国で約12万人。中学生に限れば、約37人に1人(1クラスに1人)という状況です。果たしてこの数字を「学校嫌い」「不適応」という言葉で片付けられるのでしょうか。

子供たちの能力や個性、成長発達が多様化する中で、社会がどのような教育的受け皿を用意するべきなのか。本質的な議論が今、始まったと言えるのかもしれません。

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