教師の本棚 | おすすめ書籍

おすすめ書籍紹介〜今月のテーマ「笑」

遠江 久美子(町田市立鶴川第二中学校主任教諭)

教師の裏技と生徒の笑顔

『空中ブランコ』
奥田英朗=著/2008年/文春文庫/¥560+税

主人公は精神科医の伊良部一郎。やたらビタミン注射を打ちたがる、もうじき40になろうかという歳とはおよそかけ離れた子供みたいな男である。彼の元へは、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症で刃物が怖いヤクザ、イップスのせいで上手く投げられないプロ野球選手などが治療に来る。そんな患者の相談を軽い調子で受け流すも、伊良部は病院を抜け出しては患者の所に出向き、およそ想像もつかない行動に出る。いつしか読者もはまってしまう1冊だ。
この本を読み終えて、今まで出会った強烈な同僚たちの顔が浮かんだ。
「体育祭」で大人げなく生徒と走り競って肉離れを起こし転倒した男性英語科教師。なぜか松葉杖姿も爽やかだった。「3年生を送る会」でバレエの衣装を着て“白鳥の湖”を踊った男性社会科教師。顔まで真っ白で志村けんにしか見えなかった。「合唱コンクール」の先生合唱でギターをかついで登場した体育科教師。いつものドスのきいた声はどこへやら、気付くと彼1人のコンサートになっていた。「離任式」の吹奏楽部演奏で颯爽とタクトを振る女性数学科教師。普段のクールな彼女と結び付かない圧巻の指揮に楽器を奏でたい気持ちにさせられた。
先生の恐るべし裏技とセットなのは、生徒の心からはじける笑顔。生徒の笑顔が大好きな私は、これからの若き先生たちが教科指導だけでない裏技パワーを生徒にぶつけられるように、裏技を楽しむくらいの魅力的な人間臭い教師であってほしいと願う。そして、教師にとって裏技とは生徒に見せつける教師のプライドの一部だと付け加えておこう。

 

笑顔の写真は幸せのにおい

『明日の子供たち』
有川浩=著/2018年/幻冬舎文庫/¥770+税

主人公、三田村慎平は大学卒業後、営業職に就職するも、テレビで児童養護施設の番組を視聴したことをきっかけに転職を決意し、児童養護施設「あしたの家」へやって来る。かわいそうな子供たちが暮らすところと思っていた慎平だが、共に暮らす子供や働く職員たち、さらに施設を取り巻く環境や社会を知ることにより、少しずつ成長していく。そんな姿を応援しながら、いかに自分が児童養護施設への理解に乏しかったかを恥ずかしく重く感じた。教師として、施設の現実を知る機会を与えてくれた1冊だ。
15年ほど前、私のクラスに母子家庭で母1人、子1人のK君という生徒がいた。母が癌で入院し、家に1人きりになった彼は、地域の方や支援員の方に協力頂いていたが、気力が萎えて不登校ぎみになっていった。やがて、離婚した父が彼を引き取ることになり、ホッとしたのも束の間、今度は父が脳梗塞で入院してしまう。当時の私には「かわいそうな子」という思いしかなく、彼を病院に連れて行ったり、部屋の掃除をしに行ったりしたこともあった。そして自分のしていることに自己満足していた。そんなある日、学年主任に「あなたは同じような生徒全員に同じことが出来ますか?」と言われた一言が突き刺さった。教師としてすべきこと、やれることは何なのかと悩んだ。その後、K君は児童養護施設に入所した。
この本を読むまで、K君は私の中でずっとかわいそうな子だった。しかし、高校生の彼から送られて来た笑顔の写真に幸せのにおいがしたことを、ふと思い出した。

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