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梶原しげるの日本語コラム『モノは言いよう』・第12回 「敬語・美化語」を駆使した言いよう

梶原しげる
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。

新たに敬語に加わった言葉

「え? 美化語??」
?マークが頭に浮かんだ方がいらっしゃるかも知れません。かつて敬語は「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」と三分類で説明されていました。それが2007年、文化審議会が答申した「新しい敬語の指針」が示されて以来、学校でも「謙譲語Ⅱ(丁重語)」「美化語」の2つを加えた5分類で語られる機会が増えたようです。
「新たな敬語」のうち「丁重語」とは、ザックリ言えば「かしこまった気遣いを話の相手先に伝える言葉」をいいます。「参る」「申す」「いたす」「おる」「存じる」の5つを使い、「丁重な雰囲気を醸し出す言い方」です。
「雨が降って『参りました』ね。試合は一時中断と『いたしましょう』か?」「詳しくは『存じません』が、確かにそういう決まりになって『おりました』ね。慎重の上にも慎重をと『申します』から、そう『いたします』か!」
校内球技大会で空を見上げる2人の先生が「丁重語」で会話すると、こんなに「厳かな感じ」になる、という一例です。
一見面倒くさそうですが「丁重語」は上に掲げた、「参る」「申す」「いたす」「おる」「存じる」の「5つの言葉」だけを覚えておけば、何とかなります。

 

「美化語」の正体

さて、新たに加わったもう一つの敬語、「美化語」はどうでしょうか?
「美化語」は「丁重語」に比べると、使用頻度が高く、しかも、使った方が良いのか、使わない方が良いのか、そのたびごとに選択を迫られる「意外に難解な敬語」とも言えます。それだけに「しっかり身につけて、確実に使いこなせるようにしておくこと」が強く求められます。
あらためて美化語とは何か、辞書で確認しておきましょう。

三省堂国語辞典第7版
「敬語の一種。物事を美化して、上品にていねいに述べるときの言葉。例、お水、お花、ご本、お暑い、おいしい」
明鏡国語辞典第2版
「敬語の一つ。物事を上品にいう語」。

明鏡国語辞典第2版では、「お菓子」「お天気」「お昼」など、一般的な解説に加え、別途巻末の「敬語解説」で詳細な説明を記しています。

「美化語は『お菓子』『お天気』『(色とりどりの)お手紙』など、接頭語の『お』や『ご』をつけて物事を美しく上品に言う語である。使うことによって相手(=話の聞き手や文章の読み手)や話題の中の人物を高めることは無いが、相手に対して品良くあらたまった感じを与える」

要するに、尊敬語は話の「相手を直接高め」、謙譲語は自分側を低めることで相対的に「相手を高める」と、いずれも「相手方を高める目的」で使われるのに対し、美化語は主として「自分を上品に見せるために演出する言葉」と説明しているのです。

 

美化語の使用は「時と場合」を考えて!

「そういうことなら、面接で、教育実習で、美化語を使いまくるぞ!!」
ところがここで私は「ちょっと待った」と言わなければなりません。全国のアナウンサーの「バイブル」とも言われる『NHK・言葉のハンドブック』は「(美化語の)「お」は出来るだけ省いた方が、すっきりしとした表現になる」との「基本精神」を説いています。
先日拝聴した、NHK放送文化研究所、滝島雅子研究員の「放送の中の美化語を考える」という講演では「美化語を効果的に使った例」と「あえて使わない例」が紹介されました。後者の代表として、ニュースを読むアナウンサーが、美化語を避けるケースがこの3つ。
●「低価格で『すし』を食べることの出来る回転寿司は家族連れを中心に人気を集め〜」
●「昨日の地震で食堂の『皿』など食器が割れたということです〜」
●「〜断水の続く地域で『風呂』が開放され〜避難生活者の疲れを癒やしました〜」
日常会話では「おすし」「お皿」「お風呂」と美化語で言う方が普通です。「お」を抜くと「ぞんざい」な感じがして、特に女性の場合は違和感を持たれる言い方です。しかし、客観性を優先するニュースにおいては「話し手が、上品さで自己演出するための美化語」が、男女を問わず「不適切」とされます。
そう言えば、こんなニュースを耳にしたことを思い出しました。
●「警察では『カネ』の流れを追っています」
●「宴席では『酒』とともに『雑煮や汁粉』が振る舞われました」
●「『米・味噌』の値上げが食卓を直撃です」
「お金」という「美化語表現」を廃してストレートに「カネ」と、これまた特に女性が言い切るのは「乱暴」にも聞こえますが、ここには「美化語の抑制」という「原則」が貫かれています。
ところが、ニュースでは美化語ゼロだったアナウンサーが、バラエティーに出演すると、一転こんな風に言ったりします。
「お料理のお時間でーす!今日は、お誕生日のお子さんのお弁当にお勧め、お宝メニューのご紹介です。お肉とお野菜をお醤油とお砂糖で絡めたとびっきりのお品がこちらでーす!」
美化語を使った「自己演出効果」をフルに活用していますね。つまり、美化語は、場面を心得て、使用、不使用を判断することが大事だということです。日常のカジュアルな場面では美化語の有効活用が「お役に立ちそう」です。例えばこんな場面は、いかがでしょうか。部活の憧れの先輩に声をかけられた後輩の女子学生。

先輩:「休みの日とか、どうしてる?」
後輩:「お休みの日はお友達とお出かけしたりします。お気に入りのお洒落なお店でお食事とかお茶とか、お値打ち品のお買い物とかです」

こんな風に「美化語満載」で、上品さ、かわいらしさを存分にアピール出来ます。
しかし「公的場面」、例えば面接で「休みの日は何を?」と不意を突いたような質問を笑顔でされた場合は、惑わされず、毅然とした態度で美化語を抑制し返答すべきでしょうね。

受験生:「只今は、卒論の最後の確認作業のため図書館に詰めております」
面接官:「ほお、卒論、テーマは?」
受験生:「青年期の消費における自己実現欲求といたしました」
面接官:「面白そうですね」

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