日本語コラム『モノは言いよう』

梶原しげるの日本語コラム『モノは言いよう』・第11回 「敬語」での言いよう

梶原しげる
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。

自分の日本語能力をチェックしたことはありますか?

小学校での英語必修化、教科化という話題を耳にし、目にする度に「自分の英語力はどのくらいだろう?」と不安になってさまざまな英語の資格試験を受けたという先生方もいらっしゃることでしょう。「英語力」を把握することはとても大事なことです。ところで皆さん。ご自分の「日本語力がどのレベルか?」チェックしたことがありますか?
もちろん、受験で古典を含む文学作品、評論、エッセーなど、難解な文章を読み解くテストは嫌というほどお受けになったことでしょう。
しかしどうでしょう?日々の生活に必要なコミュニケーションツールとしての日本語の力を客観的に評価する機会はありましたか?
日本語検定は、職場で、取引先で、ご近所付き合いで、何気なく、当たり前に使う日本語に潜む自分の「思わぬ穴」を知るうえで、極めて有効です。
「日本語に不自由などしていない!」とおっしゃる方も、たとえばこんな感じの出題に「あれ?どうだったっけなあ??」と戸惑うことがありそうです。

①「流れに棹さす、って流れを止めるんだっけ?進めるんだっけ?」
②「盛大なパーティーにお招きに(     )りって、何だっけ?」
③「灰汁」の意味?
④「割り箸はご必要ですか?」は正しい?
⑤訪問先の受付で「その件でしたら、担当者に伺ってください」と言われたが、この言い方、適切?
※正解は本文の最後に記しておきます。

私たちは案外「思わぬ勘違い」に気付かぬまま「へっちゃらちゃあ」で過ごしているのかも知れません。
子供の頃ならいざ知らず、大人になれば「それ変だ」と指摘してももらえず「意外に教養無いよね」「いい年してみっともないよね」「あれが先生だと思うと情けないね」と嘲笑されている恐れがあります。
そんな「悲劇」を避けるためにも是非「日本語検定」で、自らの日本語能力を点検して頂きたいのです。

 

「敬語」においては「目は口ほどにものを言う」は通じない

「日本語能力」の「高い低い」が最も顕著に表れる領域の一つが「敬語」です。敬語は「日本語力のバロメーター」とも言われます。
そのせいかどうか知りませんが、日本語検定では主として小学生が受験する7級から日本語の達人が挑戦する1級まで、第一問はほぼ「敬語問題」です。
漢字の読み書きや慣用句などを差し置いて、なぜ「敬語」なのかと言えば、それだけ敬語は「奥深い」「克服しがたい」ということでしょうか。
今から11年前、2007年2月、文化庁が「敬語の指針」を出しました。その中心となって活躍された国立国語研究所杉戸清樹さんはじめ多くの方にお話を伺い、私が『すべらない敬語』(新潮新書)を出版したのはその年の暮れのことでした。
それまで敬語は「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3分類とされていたものが「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ (丁重語)・丁寧語・美化語」と5分類とした「画期的な指針」をベースに書いたこの本は、その後に記した『敬語力の基本』(日本実業出版)とともに多くの読者に読まれています。
執筆時、私が心に決めたのが「敬語は敬う心です」「敬う気持ちがあれば自ずとその思いは相手に伝わります」という「迷信」を断ち切ろう、でした。
人を敬い尊ぶこころの大切さを否定する気持ちは毛頭ありません。ですが、敬う心さえあれば「敬語」が使えるか? といえば、N O です。敬語を使うには、敬語の「向かう先」や「使用される場面」を理解する「論理的な力」が必要です。
「私のお話をしっかり拝聴してくださいね」
「敬う心」を込めたとしても、こんな頓珍漢な敬語から「敬意」など伝わることはありません。
「尊敬語は話の向かう先を立てる、謙譲語は自分側の行為を下げて相対的に相手側を高める」という「構造」を心得ておかない限り、いくら「尊敬してます・あなたが大切です」と念じ続けても、あなたの真意はくみ取ってもらえないのです。
「敬意」は「仕草」「まなざし」という「態度・非言語」で伝えることも十分可能ですが、「敬語」という「言語」は「論理的な構造・仕組み」を理解しないと誤解の元となりかねません。

 

敬語はときには「ケンカ」の武器にもなる!

一方で「敬語」は「敬うためだけに使う」というのも「よくある誤解」です。
先日もネットで、こんな意見を目にして、「こういう考え、まだあるんだ」と感じたことがあります。
「どうして私たちは、尊敬もしていない人に敬語を使うんでしょう。敬意を感じない人に敬語なんて使いたくないじゃないですか」
こうした意見を述べる人を、「純粋」な人のように感じる方がいるのかも知れませんが、ちょっと違います。
例えば、ドラマでよく見るような「強面さん」が難癖を付けて、とあるお店に押しかけてきたとしましょう(「昭和」な例で恐縮です)。店主はどう対応するでしょうか。
「冗談じゃない!チン○ラは出ていけ!」
考えがある場合は別として、何の戦略もなく、こんなことを言えば「売り言葉に買い言葉」。どんどんこじれていくでしょう。
賢い店主はこう言います。
「恐れ入りますが、そちら様がおっしゃる(尊敬語)ようなことは、手前ども(謙譲表現)では出来かねます。大変恐縮ですが、お引き取り頂けませんでしょうか(謙譲語)? ご無理だとおっしゃるなら(尊敬語)、しかるべき所へ通報させて頂く(謙譲)ことになりますが、よろしいでしょうか?」
尊敬したくない相手に「尊敬語」を、へりくだりたくない自分に「謙譲語」を、丁寧な場面じゃないのに「丁寧語」を山のように使って対処しています。「敬語」を武器に、「乱暴で無法な要求をする相手」と対峙していたのです。
敬語は、採用面接、保護者面接で、ポジティブ場面でも、ネガティブな場面でも「使用法」を学んでおけば実に頼りになる「最強のツール」となります。
そう思えば、勉強のしがいがありませんか?

 

■問題の解答
①本来は「流れを進める」が正解。国語世論調査によれば多くの人が逆の、「流れを止める」と答えているが、誤用。
②あづか
③あく。魚や肉を煮た際に出る、苦みなどを引き起こし、また食用としては不要な成分のこと。
④「ご入り用ですか?」
⑤不適切。「伺う」は謙譲語で、お客様の動作には使わない。「お聞きになってください」と「お〜なる」の「尊敬語」を用いるべき。正解は「その件でしたら、担当者にお聞きになってください」「担当者にお尋ねください」と、話す相手に尊敬表現を使うこと。

 

 

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