教師の本棚 | おすすめ書籍

おすすめ書籍紹介〜今月のテーマ「縁」

遠江 久美子(町田市立鶴川第二中学校主任教諭)

出会いの縁はあなたを変える

『太陽のパスタ,豆のスープ』
宮下奈都=著/2013年/集英社文庫/¥500+税

突然の婚約破棄に傷ついた主人公の明日羽(あすわ)は、叔母のロッカさん、家族、友人、周りの人に少しずつヒントを貰って自分の中で消化し、確固たる答えを出して立ち直っていく。そんな彼女の成長は人との縁がなかったらあり得ないと思わせてくれる温かい物語である。
私は50歳にして、柔道教室の門を絶望的な気持ちで叩いた。「なぜ、今なのですか?」と受付の方に質問された私はムッとして「やりたくないことでもやらなくてはいけない時があるのです」と答えていた。保健体育科の私は新学習指導要領の中で「武道」が必修となり指導を迫られた。焦っていた私は、一大決心したものの、練習で捻挫、打撲に襲われ、とうとうギックリ腰でまったく動けない酷い状況にもなった。もう無理だと諦めかけた私を柔道教室の師匠は、粘り強く稽古をして下さった。「君が実験台なんだから、生徒の気持ちや陥るであろうこともよく分かってよいではないか。予習だと思えばよい」と言われたときは、自分のやっていることが間違っていないと分かり、鳥肌が立った。失敗を繰り返しながらも自分の授業形態を追求した。生徒の上達する姿に励まされ、柔道の好きな生徒が増えたことが私の意欲を駆り立てた。師匠との「出会い」という縁で、私は黒帯を取ることができ、生徒に「1本背負い」まで指導できるようになった。後から知ったことだが、師匠は数年前、主人の指導するテニス部の部員の父親であった。この縁の不思議さを柔道着に袖を通す度に思う。明日羽の途方に暮れた気持ちと自分が重なり、彼女のもがきながらの変化に勇気と励ましを貰った1冊だ。

 

自分の心が丸裸にされた本との縁

『キラキラ共和国』
小川糸=著/2017年/幻冬社/¥1400+税

本書を読むと、人間同士が認め合い、愛し合うことがなんて素敵なのかと感じる。代書屋の鳩子が家族と作っていく自分の中の「キラキラ」がとても心地良く感じる1冊。私はこの本との出会いで自分の中で忘れかけていたさまざまな出来事や思いが一気にひっくり返されたような気持ちになった。鳩子の育ての親の祖母との確執は自分と母との確執をチクッと思い出させる。取っ組み合って、互いの洋服を破いたこともあった。生後8カ月で亡くなった赤ちゃんの両親から周りの方々への代書を頼まれるシーンには、自分が流産したときの悲しみが私のしまっていた場所からヒョッコリ押し寄せる。鳩子が結婚したからこそ1人でいる時間が欲しいと鎌倉のお気に入りの場所をトボトボ歩き回るシーンは、お腹が大きかった自分が近くの公園にプチ家出をし、ブランコをこいだ、あのときの揺れの心地よさが蘇る。鳩子の友人の男爵が病気となり、彼が鳩子に自分の病気のことは家族に秘密にして欲しいと頼むシーンは、難病で亡くなった父のことを思い出す。家族を残して行く父の辛さがひりひりと伝わって来た。鳩子がミツローさんと結婚し、連れ子のはるちゃんとの関わりで、突っ張っていた気持ちがどんどん溶けて素敵なお母さんになって行く様は娘に母親にして貰った自分と重なる。こんなにも気持ちを丸裸にされたこの本との縁にブラボーと言いたい。

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