最新号の内容 | 日本語コラム『モノは言いよう』

梶原しげるの日本語コラム『モノは言いよう』・第6回 「あいまい言葉」の言いよう

梶原しげる
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。

否定なの?肯定なの?

「コーヒーのおかわりの方(ほう)は、大丈夫だったでしょうか?」
ファミレス、コンビニなどで使用されるこの言い方は「バイト語」とも呼ばれます。社会経験の乏しい学生が、いきなり「接客」という高度なコミュニケーションを求められ、苦肉の策で編み出した「客を気遣う素晴らしい発明」と評価する声と「あいまいすぎる言い方で変だ!」と切り捨てる声がかつては拮抗していましたが、今では多くの人が「え?どこかおかしい?」と違和感を覚えないほど浸透しています。
「大丈夫です」は「強くしっかりしている(例:地震の時も大丈夫)」「危なげなくて安全安心(例:君の成績ならあの学校は大丈夫)」という「伝統的な言い方」に加え、「要・不要(いります、いりません)」「可・不可(適切だ、不適切だ)」「否・諾(だめです、いいです)」と万能用語化しています。
スーパーのレジ場面を思い出して下さい。

店員「レジ袋、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

この「大丈夫」は2通りの解釈ができます。
●ケース(1)
店員「うちの店は地球環境を考え、レジ袋はなるべくお渡ししない方針ですが、いいですか?」
「いいです!エコバッグ持参ですから、私にはまるで不要です、いりません」
●ケース(2)
店員「うちの店は地球環境を考え、レジ袋はなるべくお渡ししない方針ですが、いいですか?」
「お宅の方針は問題ないです!レジ袋はゴミ出しに便利だから多めに頂いても大丈夫ですか?」
このように「真逆」な場面も、互いの「忖度力」で軽くクリアー! 「大丈夫です」は大変便利です。
「もう社会人なんだから、あいまいな若者言葉で責任を回避してはならない。ましてや君は若者を教育する立場を目指している。明確に趣旨が通りやすい、大人の言葉で話せ」。
読者の皆様は、近々、そういう立場になるものと思われますが、「あいまい言葉の自由自在さ」を知っておいても損はなさそうです。

 

「あいまい言葉」を上手に活用せよ!

かつて独立行政法人国立国語研究所が「暮らしの中のあいまい表現」と題するビデオを発刊しました。その冒頭部分でこんなことが述べられています。
「〜(あいまい言葉・あいまいは表現)は否定的に捉えられることがあります。その一方で私たちは、断ったり、反論したりするときに、相手の気持ちを配慮し、ハッキリ言わずに、あいまいな表現を使い、それを日本語のよさとして肯定的に評価する場合もあります〜」
対人関係に亀裂が生じないよう、円滑なコミュニケーションを促進するため、我々は伝統的に「あいまい言葉」を活用してきました。
例えば、「微妙」もその一つです。元来は、美しい味わい、繊細な趣を表すポジティブな意味合いだったこの言葉も、近年は、あまり芳しくない、よくない様子を遠回しに言う場面で使われることがあります。
とある中小企業。「どうだ、このネクタイ、娘に買って貰ったんだけど、似合う?」と社長に聞かれた部下。社長の年齢やキャラ、着ているダークスーツにも、まるでフィットしないトンチンカンな代物だと懸念した部下。「よく似合います!」と言ったらウソになる。
とはいえ、真正面から「似合いません」と否定も出来ず、思案のあげく思わず口をついで出たのが「微妙ですね」。「絶妙ないさめの言葉」だと、私は妄想をめぐらしました。
文化庁の調査によれば、今では「微妙」は「本来の肯定的な意味」より「ぼかした否定」を表す場面で活用されています。

 

とりあえず「深いですね」で返す

「大丈夫です」「微妙」に加え、今後使えそうな「あいまい言葉」が見つかりました。
それは、「深いですねえ」。この「あいまい言葉」については、拙著『不適切な日本語』(新潮新書)で一部論じています。
「深い」は「味わい深い、趣のある、思慮のある、重厚な、哲学的な」という、強い共感、感銘を表す言葉である、との辞書的意味とは異なる使われ方がなされています。「難解で、興味が持てない。もうその話題やめてくれ!」と感じた場面で、相手の機嫌を損ねないよう配慮しつつ話題転換を図る。例えばこんな感じ。

ウンチク上司「営業とはだね〜築城の浪漫を読み解く作業に似ていてね、それこそがだねえ〜」
部下「深いっすねえ……。あっ、ちょっとメール1本入れていいすか?」
「配慮のための、あいまいな言葉」をもう一つ思い出しました。テレビのコメンテーターとしてもお馴染み、映画監督の山本晋也さんがかつて流行語にした「すごいですねぇー!」も、「素晴らしいですね」と「あきれちゃいますね」という2つの全く逆の意味で使われました。
「酷いですねえ」と言うよりずっと配慮のきいた「あいまい言葉」のおかげか、言われた側の反発はなく、皆さんもれなく監督との会話を楽しむ様子が伝わってきたものです。
長い前振りはここまで。ここからが本論です。

 

「結構ですね」と「結構です」では意味が逆に!

便利な言葉も、使い方によっては配慮のつもりが、かえって礼を失することになってしまいます。例えば「結構」。
「受け入れる」「受け入れない」の異なる意味を単純に使い分けられるかと言えば、結構はそうはいかないのです。「結構です」の後に「ね」の一言が入るか入らないかで意味が真逆となるのです。
例えば、「週末のゴルフですか?結構ですね!」は「あなたとのゴルフなら是非いっしょに行きたい」と提案への賛意を示す表現です。
ところが「結構ですね」の「ね」をうっかり落としたり、相手が「ね」の部分を聞き損ねたら、こちらの意図に関わらず、相手に伝わる内容は逆転します。
「週末のゴルフですか?結構です!」は自動的に「断固拒否」の表明となってしまいます。
では、 結構に「ね」さえ明瞭に加えておけば「共感、賛同を伝えるポジティブ表現を演出できるか?」といえば、そうもいかないから厄介なのです。
「結構上手ですね」は肯定的に話す相手を持ち上げる表現とは受け取られず、「下手くそだなあと思っていたほどは下手ではない」と、あらかじめ「下手」を「予測」し「前提」とした言い方だと、お相手は気分をひどく害される恐れがあります。
学校現場に入った後、先輩だらけの職場では要注意ですね。な〜んて、読者の感想が「言葉って、奥が深いですね」だったら、どうしよう……。

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