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おすすめ書籍紹介〜今月のテーマ 「一」

遠江 久美子(町田市立鶴川第二中学校主任教諭)

生徒の一途さにノックアウト

『聖の青春』
大崎善生=著/2002年/講談社文庫/¥695+税

本書の主人公、村山聖(さとし)は5歳で腎ネフローゼを発症し、入退院を繰り返した。病気に苦しむ日々の中で、将棋に興味を持ち、のめり込み、みるみるうちに腕を上げていく。聖が奨励会に入会しA級棋士に登りつめるまでの活躍と、29歳で逝去するまで闘病の日々が綴られている。自分の体を這いずっても将棋と向き合い、意識がなくなるまで指す姿に怖さをも感じた。聖の生き様が強烈に心に響いたが、彼を支えた周りの人々の生き方も心に静かに響く。人間の一途さがこれでもかと迫ってくる1冊だ。
私は読み終えると、数年前の中3の三者面談の教室に心が飛んだ。ある生徒と母親のことを思い出したのである。親子で進路のことで大喧嘩をしたA子。原因は、彼女が高校に行かず「パティシエ専門学校」に行くの一点張りだったからだ。母親も負けておらず、何としても「高校進学」をさせたい気持ちが強く、母娘の押し問答が1時間は続いた。その後、A子が家出したり、母が家事を拒否したりと沢山のバトルが繰り広げられた。担任の私の一言で彼女の高校進学が決まった。彼女は進学校に進み、卒業後はパティシエの道を究めようと専門学校に進んで、フランスで修業し、現在は自分の店を持つことを目標に働いている。A子の一途さに励まされながら、人が一途に生きるためにはそばに「支えて一緒に戦う」人がいるのだと感じている。A子の両親の苦悶と決断にも拍手を送りたい。彼女への私の一言は、これから教師になるみなさんへの宿題としよう。

 

走りに走った1年目

『君が夏を走らせる』
瀬尾まいこ=著/2017年/新潮社/¥1,500+税

金髪ピアスでろくに高校も行かずふらふらしている主人公の太田は、先輩の小さな子ども鈴香の面倒をみる羽目になった。泣きわめいたり、ご飯を食べなかったりの鈴香に、最初は振り回されっぱなしだったけれど、いつしか、あの子を笑わせたい、何かをしてあげたいという気持ちに変わっていく。
その姿は、教員1年目の自分の姿とピッタリ重なった。
あのころを思い出すと、恥ずかしさで顔も熱いが、身体も熱くなってくる。だって私はいつも走っていたから。掃除をさぼる子を追いかけ、合唱練習で歌が嫌いと脱走する子を追いかけ、マラソン大会の練習では毎時間6キロの山道を走った。私の下駄箱に粘土で作られたウンチが入っていたときは、開いた口が塞がらなかった。登校途中に川に入ってザリガニを取って遅刻したり、下校途中に人の家の柿を取って食べたり、今では考えられないようなことを生徒が起こす度に、「自分は何ができるの?」と悩んでいた。
あれから30年。追いかけっこから始まり、やがて背中を押したり、並んで話をしたり、ときには先回りをして生徒を待つことも覚えた。鍛えられた今の私には生徒が何をしても、笑い飛ばせるパワーがある。昔は、ただ生徒の傍にいたかった。今は、生徒の心の傍にいられる自分になりたいと思っている。
教師を目指しているあなたにぜひ読んでほしい1冊だ。

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