最新号の内容 | 日本語コラム『モノは言いよう』

梶原しげるの日本語コラム『モノは言いよう』・第5回 保護者との関係を左右する電話での言いよう

梶原しげる
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。

 

シーン1:電話が怖い!

「電話って、怖い!」
この数年、社会人デビューした人の多くが、電話で痛い目を見ています。本論の前に、話を一旦横道へ。
例えば、日常会話において「あり得ない」という言葉は、本来の「あるはずがない」「あってはならない」とは少しニュアンスの異なる、「あら、ビックリ」という軽い驚きの場面でも使われ始めています。
「やばい」が「怖い、危ない」という本来の意味とは別に「すごい、素敵」という反対の意味にも使われたり、「微妙」が「美しさ、味わい深さ」を意味する一方で「あまりよくない様子」と逆の意味で使われたりするのと似ていなくもありません。
「異なるニュアンスで使用される言葉」を峻別するには、その言葉を発している人物の表情や仕草、見た目で判断するのがいちばんです。そうした話し手の姿が見えないのが「電話」。相手の音声だけで聞き分けるのは、集中力と文脈解読力が求められます。
そう!誤解はしばしば「電話」で生じるというわけです。ある夜、新人教師Aさんが一人残業中の職員室に電話がかかってきました。
「?」
仕事疲れのボンヤリとした頭のまま受話器を取るとただならぬ気配です。

保護者「○○の母親ですが、A先生いますか?!」
A先生「あ、ハイ私がAですが、何か?」
保護者「何か?とは何ですか!無責任な!うちの娘が先生の指導がキツくて、もう学校に行きたくないといっているんです!」

 お叱りを受けながら、○○さんの最近の様子を思い浮かべていました。○○さんは勉強熱心な頑張り屋で、先生としては最も問題の少ない生徒の一人だと思っていた子でした。一体どうしたことだろう? A先生にとっては大変意外なことでした。そこで思わず、つぶやくように口にしてしまったのです。

A先生「……あり得ないですね……」
保護者「あり得ない? あったんですよ! そういう決めつけで、うちの娘は追い詰められたんですよ」
A先生「あの、でも、あのですね」
保護者「でも、とか、あの、とか、そういう、言い訳から入るの止めてください!」

 お母さんは先生の煮え切らない受け答えに態度を硬化させ「校長を出せ!」と叫び始めました〜。なんてことが、あったら、大変ですね。どうしたらこんな事故を防止できるのでしょうか?話はいよいよ本論へ。

 

シーン2:若者は知らない!
固定電話のマナーとは?

 現在20代半ば過ぎまでの世代は、電話と言えば、携帯かスマホ。自宅にも固定電話がないという人も結構います。
携帯やスマホは、通常特定の人からの電話を受信することが多く、発信者通知機能で、相手の名前が分かり、顔が即浮かぶので大変便利です。ところが、便利すぎて声で相手の微妙なニュアンスを推し量る力をそぎ落としてしまいました。
一方、昔ながらの固定電話では、受信者が最初に行うべきは、次のような手順になります。

①丁寧に、自分の名や組織を名乗り、相手先の名前や所属を聞き出す。その際、相手にふさわしい丁重で気の利いたあいさつを申し述べる。

②要件を聞き取り、相手先が目指す人物の所在を確認し、いれば引き継ぎ、不在であれば、不在についての謝罪を述べた上で、その後、相手先が何を求めているかを尋ねる。

③さらに、その要望を叶えるため自分に何が出来るかを伝え、叶えられそうもないときは、相手の悲しさ苦しさに共感し、その上で、さらに、相手に資するため「お恐れながら」といくつかの提案を行い、条件、都合などを余さず聞き出す。

④伝言という手段で納得してもらえるなら、その内容を正確に聞き取りメモに記し、数々の無礼につき謝罪し、最後に電話をくれた礼を述べ、そっと受話器を置く。

 これらをすべて、失礼のない敬語を駆使し、万端遺漏なく会話を終えるころには、脇の下に冷や汗を1Lほどかくのが普通でした。

 

シーン3:某テレビ局のAD君の不幸

 こういうキャリアを持たない世代の不幸な例を一つだけ。某テレビ局のAD君。憧れのタレントさんたちと朝から晩まで「現場で汗を流したい」と希望して就いた仕事なのに、思いのほか資料集めなど事務仕事が多いのに驚きました。
何より彼を悩ませたのは、事務仕事の最中にひっきりなしにかかってくる外部からの電話対応でした。相手はプロダクションの社長から、広告代理店、スポンサー筋から、取材者、一般視聴者等々。予想外の人から、予測不能な電話が、次々かかり、それを誰にどうつなげるのか途方に暮れるうち「知らない人の電話に出るストレスに耐えられない」と、そっと会社をあとにした、なんて話を聞きました。

 

シーン4:鏡を一つ電話の横に

 かくも面倒くさい固定電話。新人の先生が最初に越えるべき難関は、ひょっとして職員室の固定電話、かも知れません。
「いやだなあ〜」と思って出た電話での会話。相手に「自信なさげな先生だけど大丈夫?」「何てやる気のない先生なんだろう」「こんな先生に子供たちを託していいのか?」と誤解されかねません。
そう思われないための秘訣がありました!
某、一流ホテルの電話問い合わせ係の皆さんは、電話横にハガキより小さな鏡を置いておくのだそうです。「電話で、ミスをしたくない、正確に聞き取らねば!」。そう思えば思うほど険しくなる表情からは、素敵なホテルライフをイメージできる弾んだ会話がうまれない!まずは鏡でとびっきりの笑顔をつくりながらお客様の電話に対応しよう。
そうやって始めた「鏡作戦」が、功を奏し、電話をかけてきたお客様の多くがそのまま予約を入れてくれて、ホテルは大繁盛!実際にあった有名なお話です。
皆様、合格したら、赴任先の学校に小さな鏡を忘れずに持っていきましょう!
鏡は、その前の面接試験にも、役に立ちそうですね。

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