最新号の内容 | 日本語コラム『モノは言いよう』

梶原しげるの日本語コラム『モノは言いよう』・第4回 しゃべりを引き出す言いよう

梶原しげる
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。

A先生の失敗談

先日、こんな話を聞きました。
現在、某公立中学校に勤務する、生徒にも保護者の方にも人望の厚い40代男性教師です。憧れの教員免許を手にしたバリバリの新人教師時代、そのA先生は誓ったのだそうです。
良き教師は常に生徒一人一人の声に耳を傾けるべきだ。生徒との対話の機会を増やし、生徒に寄り添う、生徒達から愛され親しまれる教師を目指したい!理想に燃える新人教師は、業務多忙にもかかわらず、努めて生徒達と話す機会を作った、というわけですが、思わぬ展開が待っていました。新人先生の「思い」は、いきなり「からぶる」ことになりました。
A先生「○○さん、ちょっと時間ある?」
「生徒との対人関係を近づけるための声かけ」のつもりの一言が、生徒の防衛本能を刺激し、生徒の緊張を一気に高め、かえって両者の関係をぎくしゃくさせてしまいました。ベテラン教師から見れば「そりゃあそうさなあ(笑)」ですが、うぶな新人にはショックでした。
声かけされた生徒の反応はこうでした。
「(…ヤバ! オレ、なんかやっちまったのか?怒られる…)今は、ちょっと…」
手のひらを横に振りながら、露骨な拒否モードで、スーッと後ずさりするように教室から消えていきました。
彼だけでなく、他の多くも、ほぼ皆同じように戸惑いながらこう言ったんだそうです。
「オレっすか? いや、いいっす、いいっす」
「え? やっ、ちょっと…」
「あ、やっぱ、今日は…すいません」
とっさにこんな上手な断りフレーズを口に出来ない生徒もたまにいて、教室の端っこで対面するところまでは成功に到った、なんてケースがいくつかあったそうです。ところがその後の会話が、いっこうに弾まないのだそうです。

A先生 「今、大丈夫?」
生徒 「ええ? ええ…」
A先生 「時間は?」
生徒 「や、厳しいかもですね…」
A先生 「勉強とか、分からないこと、難しいこと何でも言っていいんだよ?」
生徒 「…ま、何とか…うーっ、特には…」

しおらしく先生に答えるその口で、部活に行こうとする友人に声をかけます。
「おおい、待てよ! 今。行く行く! 先生、すみません、部活行っていいすか?」

 

 

相手から話題を引き出すコツ

生徒の反応が思わしくないと感じたA先生は、話題を変えて、巻き返しを図ろうと、焦りに焦り、気が付けば、あらかじめ練りに練ってつくった「生徒対話用質問項目」を次つぎ繰り出し、結果として生徒たちに嫌なプレッシャーをかけまくり、それが彼らの会話意欲を損ねていた。そんな自分の新人時代を、A先生は苦笑いしながら思い出していました。

A先生 「梶原さんも新人アナウンサー時代、ゲストの話を引き出すため苦労したことなんてありました?」
梶原 「私は先生以上に酷かった。新人のころは台本に書いてあることをそのまま順番に質問する形でインタビューしたりして。そりゃあ悲惨でした。マニュアルチックな話しかけは人の心を閉ざすばかりです。おざなりなコメントしか引き出せません。リスナーもうんざり。『ゲストの話を聞き出せないダメアナ』の烙印を押され、番組も降ろされました」
A先生 「でも私その後、梶原さんの番組聴いてましたよ。アイドルだけでなく、著名役者、作家、政治家、経営者、元犯罪者、普通のおじさん、ママさんなど、まあ、あらゆるジャンルの人と丁々発止で盛り上がっていたじゃないですか!」
梶原 「でもそうなるまで20年かかってるんです。先輩や著名なインタビュアーを必死に観察したら、彼らに共通するのは、聞かれる側が『私に興味関心を持って話を聞いていてくれる!』と思わせるキーワードを何度か繰り出すことに気が付いたんです」
A先生 「たとえば?」
梶原 「アイドルが、スタジオに大事そうにビーズで飾った小物入れなんかを持って入ってきたら、まずそれに触れますね。『わあ、かわいい! 大きさもちょうど良くていろんなもの入りそうだね?』。この一言で、彼女の宝物やこだわりへのうんちくなどが聞けると同時に『このおじさん、私のことに関心持って話を聞いてくれそうかも』という気持ちになってもらえ、その後の会話が順調に進む可能性が高まります」
A先生 「話の聞き手が『本気で自分に好奇心を持って聞いてくれそうだ』と感じさせるのが対話の第一歩ということですね」
梶原 「本番前に、急いで保温パックに入っていたおにぎりとみそ汁のセットを召し上がっていた政治家さんに『美味しそうでしたね』と軽く触れたら、ご主人の健康をしっかり管理する奥さんとのほほえましいエピソードが聞けて、政治的な問題をこえた会話の広がりにリスナーさんも喜んでくれたようです」
A先生 「大いに納得です。生徒に声をかけるときも、いきなり質問を繰り出して得ることは何もない。彼らの話を引き出すには、『先生は、君のことをいつも気に留めているんだよ』というメッセージにつながる一言を投げかけるのが大切です」
梶原 「先生にも共通するんですね」
A先生 「こないだも、最近ちょっと元気のない生徒がいて声をかけたいなと思ったら、たまたま彼が背番号7の黄色いサッカーTシャツを着ていたんです」
梶原 「ラッキーセブンだね、とか声かけたとか?」
A先生 「私みたいなサッカー好きが、役に立ちました。『よ! 香川の背番号!』」
梶原 「ああ、サッカーの香川選手ですよね」
A先生 「ええ、ドルトムントです。いつもなら話をしたがらない彼が即答してきました。『今は23番だけど、7番時代の香川の方が好きなんです』」
梶原 「自分の趣味の話をしてくれる先生って親近感湧きますねえ」
A先生 「そのあと学内の問題にも少し触れてみる。『うちのサッカー部はどうなってんだっけ?』すると『こないだの予選勝ててから、調子は上向きです』と、思いのほか前向きな声が聞けました」
梶原 「先生が自分の興味や関心を知っていてくれると分かれば、距離もグッと近づきますね」
A先生 「日ごろの生徒たちの動きを気にしながら、何が共通の話題になり得るか? その話題が生徒との関係を深める。これが思春期の若者のしゃべりを自然に引き出すポイントなのかなあと、今は思いますね」

しゃべりを引き出すにはけっこうな修行が必要なんですね。

教育データ対策 これ一冊でいっき解決! 3ステップ過去問分析の進め方 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご紹介