レポート教育最前線

小中の新指導要領にも登場 注目を集める「夜間中学」

東京都葛飾区立双葉中学校(夜間学級)

2016年12月に成立した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)では、不登校児童生徒への対応とともに、「夜間等において授業を行う学校における就学の機会の提供等」(いわゆる夜間中学)の充実も求めています。これを受けて文部科学省は、未整備の道県にも1校は設置するよう促しています。何かと話題に上っている夜間中学とは、具体的にどのような学校なのでしょうか。東京都にある葛飾区立双葉中学校の「夜間学級」を訪ねました。

文・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

少人数の柔軟なクラス編制で
日本語力は急速に伸びる

午後5時30分。葛飾区立双葉中学校のある教室では、先生と8人の生徒が、大きな机を囲んでいました。「日本語学級」の中でも最も初歩的な日本語を学ぶクラスの1時間目の授業です。

先生「(ゆっくりとプリントを読みながら)美術の授業で使う道具の名前を覚えましょう。さあ、みんなで。『びじゅつの』」
生徒「(声をそろえて)びじゅつの」
先生「授業で」
生徒「じゅぎょうで」
先生「使う」
生徒「つかう」
先生「道具の」
生徒「どうぐの」
先生「名前を」
生徒「なまえを」
先生「覚えましょう」
生徒「おぼえましょう!」

続いて、プリントに書かれた「えんぴつ」「がようし」「のり」「じょうぎ」などの言葉について、実物と照らし合わせながら、一つ一つ確認していきます。8名いる生徒の国籍は、中国、フィリピン、ネパールの3カ国。どの生徒も、来日して間もないといいます。

日本語学級の授業の様子。日本語が片言しか話せない生徒も、半年もすれば驚くほど流暢になるといいます。

 

一方、別の教室では「通常学級」の英語の授業で、暦の月名をどう分類するかについて、日本語で活発なやりとりが行われていました。教員と共に授業をリードするのは、70代と60代の在日韓国人夫婦(生徒)です。

先生「共通点は何でしょうか?」
夫「(頭文字に)Jが3つあります。」
妻「-erが共通点です。」

双葉中学校夜間学級に在籍する生徒数は55名(2017年5月現在)。うち15〜19歳が35名を占めるものの、20代10名、30代5名など、幅広い年齢の生徒で構成されています。国籍別に見ると、ネパール19名、中国13名、フィリピン7名、タイ・韓国各2名、エチオピア・インド各1名で、日本が10名。ただし、日本国籍でも外国育ちで日本語がうまく話せない生徒もいれば、外国籍でも日本語に不自由がない生徒もいるなど、状況は一人一人違います。

以前は、母国で義務教育を受けられなかった人が対象でしたが、昨年度からは文部科学省の方針等も考慮し、日本の中学校を卒業していても不登校などで十分に学習できなかった生徒も受け入れています。

同校の夜間学級では、そんな55名の生徒を通常学級4クラス、日本語学級4クラスに分けて編制しています。日本語学級は年2回の募集(4月と9月)で、通常学級を含めた学級編制も年2回行います。日本語能力や学力の近い生徒を一緒にしたり、年齢構成を考慮したりした学級編制を行うことで、生徒の能力を最大限に伸長させるよう配慮しています。在籍年限は最長4年ですが、ほとんどの生徒は2年間で卒業していくそうです。

「昼間は仕事をしている生徒も少なくありません。入学当初は日本語がほとんどできなくても、学校で習ったことを職場で生かせることもあって、習得は早いですね」と、夜間学級担当の森橋利和副校長は目を細めます。

日本語学級は日本語習得のための授業が中心ですが、通常学級の方は、昼間学級と同じく9教科を学びます。ただし、生徒の実態に合わせて、柔軟な教育課程を実施します。この点は、特別支援学級と同じだと考えればよいでしょう。時間割は1日4時間で、2時間目と3時間目の間に給食が入ります。

専任の教職員は26名で、内訳は副校長1名、教諭10名、非常勤教諭2名(うち1名は養護教諭)、非常勤講師6名、用務主事2名、栄養士1名、給食主事3名、臨時調理員1名(他に通訳が巡回)。さながら高校定時制課程の中学校版とも言える布陣です。

同校の夜間学級の場合、昼間学級とは校舎も別(ただし廊下がつながっていて行き来は可能)になっていて、給食調理場も独立しています。そのため、生徒たちは恵まれた環境で伸び伸びと学ぶことができます。

日本語学級の教室の掲示。

 

多様な教育機会の確保に向け
各県に1校は整備へ

ここで、夜間中学とは何なのか、どういう経緯で法整備に至ったのか、確認しておきましょう。

「夜間中学」というのは通称で、正式には「中学校夜間学級」ですが、文部科学省自身も「いわゆる夜間中学」と呼んでいます。もともとは戦後、新制中学校が発足したものの、さまざまな事情で学校に通えない「長欠児」対策の一環として、一部の大都市に設置されたものでした。当時は家計を助けるため昼間に働いていた生徒が多くいた他、保護者の無理解、本人の病気などを理由とする生徒もいました。

ピーク時の1953年には、全国で71校、生徒数は3000人を超えました。しかし、その後は徐々に減少傾向を辿り、1966年には当時の行政管理庁(現在の総務省行政管理局・行政評価局)が廃止を勧告したこともあり、1971年2月時点の生徒数に占める学齢生徒の割合は9%だったといいます(以上、文部科学省「学制百年史」参照)。そんな流れの中にあっても、夜間中学はさまざまな形で時代のニーズをとらえ、一部地域で存続し続けました。

夜間中学が始まった頃、学齢を過ぎて在籍していたのは、戦後混乱期の中で中学校に通えなかった方たちでした。また、在日韓国人など、戦前・戦中から教育の機会に恵まれなかった人たちの識字学級としても機能し、高齢の人も少なくありませんでした。その後、中国残留孤児やその子供、不登校生徒なども通うようになり、現在最も多いのは「ニューカマー」と呼ばれる外国にルーツを持つ人たちです。

文部科学省の「中学校夜間学級等に関する実態調査」の結果(2014年)によると、夜間学級を設置する公立中学校は8都府県25市区の31校(2014年5月現在)。内訳は、大阪府11校、東京都8校、兵庫県・奈良県各3校、神奈川県・広島県各2校、千葉県・京都府各1校となっています。

在籍する生徒数は計1,849名。性別を見ると、女子が68.5%を占めています。学年は第1学年16.8%、第2学年29.9%、第3学年53.4%。年代別では、15〜19歳15.0%、20代14.7%、30代13.1%、40代14.3%、50代14.4%、60代以上28.5%となっています。

入学理由別では、「読み書きの習得」(27.1%)と「日本語会話の習得」(26.9%)で合わせて半数を超え、これに「中学校教育の修了」(17.7%)、「中学校程度の学力の習得」(13.6%)などが続きます。また、これら公立中学校の夜間学級とは別にボランティア団体などが主宰する「自主夜間中学」も各地にあります。夜間中学をめぐっては、省庁再編で文部科学省となった後も、廃止勧告を受けた文部省以来の政策が継続され、自然消滅を静観しているような状態が続いていました。

潮目が変わったのは2012年12月以降、文部科学大臣に、フリースクールをはじめとする教育機会の促進に高い関心を持った下村博文氏(〜2015年10月)と、元高校教員でフリースクールや夜間中学を支援する超党派議員連盟の中軸を担っていた馳浩氏(〜2016年8月)が相次いで就任してからです。

文部科学省は2015年7月、不登校などで実質的に十分な教育を受けられないまま中学校を卒業したものの、学び直しを希望する者を、夜間中学で受け入れ可能とすることが適当だとする通知を出しました。

2016年12月に議員立法で成立した教育機会確保法では、夜間中学に関して、①地方公共団体は、夜間等において授業を行う学校における就学の機会の提供等を講ずること(第14条)、②都道府県および区域内の市町村は、都道府県知事や民間団体などと事務の役割分担等を協議する協議会を組織することができること(第15条)を規定しています。
また、不登校児童生徒の教育機会確保を含めた基本方針を文部科学大臣が策定・公表することも定めており(第7条)、これを受けて2017年3月に初めて策定された基本方針では、▽すべての都道府県に少なくとも一つは夜間中学等が設置されるよう推進する▽都道府県が夜間中学を設置する場合でも、教職員給与費の3分の1を国庫負担する▽小学校段階の内容を含め実情に応じて教育課程の編成ができる▽自主夜間中学にも地域の実情に応じて適切な措置が検討されるよう促す▽不登校の学齢生徒を受け入れることもできる――などとしています。

通常学級の授業。単元は数学の「因数分解」。

 

一人一人を把握し関わる
「教育の原点」がある場

双葉中学校を含めた東京都内8校の場合、複数の夜間中学を歴任するベテラン教員が数多く在籍しています。しかしながら、双葉中学校の夜間学級には昨年度、新任教員が配属されました(1年後、別の中学校に異動)。これはレアケースだとしても、今後、全国で夜間中学の設置が促進されていけば、中学校枠で採用された公立学校教員が、早い段階で夜間学級に異動となる可能性もあります。

森橋副校長が夜間学級の担当になったのは2016年度、双葉中に異動してからです。ただ、日本語ができない、日本文化が分からないといった違いはさておき、一人一人の状況を見ながら成長・発達を助けるよう指導していくことは、昼間の学級と基本的には変わらないと言います。

「昼間学級と違って、ここでは時間がゆっくり流れています。昼間の時間の流れに着いていけない生徒一人一人に、教員もじっくりと関わることができます。特別支援学級の担当もそうですが、他にはない教育の醍醐味を感じることができるのです。」

森橋副校長がそう話せば、やはり夜間中学は初めてという江田真朗統括校長も「夜間学級で学んだことは、昼間学級でも必ず役に立ちます」と言います。

授業はT・T で行われるケースも多く、一人一人の習熟度等に応じたきめ細やかな指導が行われます。

 

夜間学級ほどではないにせよ、今や外国をルーツに持つ日本語指導が必要な児童生徒がクラスにいるのが当たり前の時代です。文部科学省の調査によると、公立学校に在籍する外国人児童生徒は近年、7万人前後で推移し、そのうち4割が日本語指導を必要としています。また、そうした生徒が一部自治体に集中する一方で、市区町村の約半数に広がるなど「集住化」と「散在化」が同時進行しています。

そうした状況を受け、2017年3月に告示された小・中学校の新指導要領でも、「第1章 総則」に特別な配慮を必要とする児童生徒への指導として「海外から帰国した児童などの学校生活への適応や、日本語の習得に困難のある児童に対する日本語指導」が明記されました。今後、個別の指導計画など、きめ細かな指導が求められます。

そんな時代の教育を担う教員志望者に対して、江田統括校長は「一斉授業を行うにしても、児童生徒の理解や学習の進度、能力、発達課題は、皆違います。これからの教員には、一人一人の違いを把握する力が必要。そのためには、自分から子供の近くへ飛び込んでいく姿勢が求められます」と助言を送ります。森橋副校長は、夜間学級に関して「ここは、学ぶこと・教えることの原点がある場所だと思います。昼間の教育に理想を求めて壁にぶち当たり、悩んだ時には、夜間学級に来れば見えてくるものが必ずあります」と言います。

時代とともに、ニーズを変える形で再び注目を集めるようになった夜間学級の動向には、今後も注視していきたいところです。

2校時終了後は給食の時間。全生徒がランチルームに集まって食べます。

教育データ対策 これ一冊でいっき解決! 3ステップ過去問分析の進め方 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご案内