カリスマ教師の履歴書

File.27 沼田 晶弘先生(東京学芸大学附属世田谷小学校)

「大人も答えられないような授業」が子供の冒険心を育てる

子供たちのやる気を最大限に引き出す教育法で,今,さまざまなメディアから注目を浴びる沼田晶弘先生。他に類のないユニークな授業実践は,どのような発想から生み出されているのでしょうか。教育に対する想いについて,お話を伺いました。

 

文・澤田 憲

 

「努力は大切です」と言っても子供の心には響かない

黒板に書かれたのは,たった3つの言葉でした。

「やる気→練習→成功」。

沼田先生は,子供たちに問い掛けます。

「成功するためには,人より練習しなきゃダメだよね。でもさ,練習ってめんどくさくない? サボりたくなったら,どうすればいいの?」

子供たちは一斉に手を挙げて答え始めます。

「人に見ててもらう!」「上手な人と一緒にやればいいんじゃない?」「成功したらごほうびをもらえるようにするとか…」「先に遊べば,練習もやる気になると思う!」

驚くのはテンポの速さです。子供たちは発言するときも座ったまま。沼田先生は,まるでテレビ番組のMC のように次々と子供の意見を引き出し,突っ込みも入れながら,授業を盛り上げていきます。

「さっき『先に遊んでからやる』って意見が出たけど,どう思う?」「あんまりよくないと思う」「どうして?」「疲れて寝ちゃうでしょ」「でもさ,皆もお母さんから『勉強しなさい』って言われたとき,これ言ってない?」

ここでタイムアップ。授業終了間際,沼田先生は再び子供たちに向かって,問い掛けました。

「不思議じゃない? ここまで分かってるのに,なんでサボりたくなっちゃうんだろうね?」

 

「答えを与えることが目的ではないんですよ。」

授業後のインタビューで,沼田先生は先ほどの授業の狙いについて語ってくれました。

「『努力しろ』とだけ言われて努力できる人間なんていません。僕たち大人だってそうですよね。やる意味が分からないものを一方的に教えたって,子供たちの心には響かないんです。」

一般化された“きれいな答え”はいらない。問題を通じて「自分ならどうする?」と考えること,そして「自分が楽しめる方法」を見つけることの方が大切だと,沼田先生は語ります。

「逆説的ですけど,プロセスを考えることで,結果的に自分なりの答えに辿り着くことが多いんです。」

実は,先ほどの授業も子供たちの方から「こんな授業がやりたい」と提案があったのだそうです。最初はまっさらだった黒板も,いつの間にか子供たちの答えで埋め尽くされていました。

 

誰も知らないことを考えるから本気になれる

「子供たちが自ら進んでやりたくなるようにすること」を常に考えているという沼田先生。これまで,ダンスミュージックと掃除を組み合わせた「ダンシング掃除」や,自分が調べた都道府県の良いところをパワーポイントでまとめ,そのプレゼン資料を実際に知事に送って見てもらう「勝手に観光大使」など,ユニークな実践をいくつも生み出してきました。

そこに通底しているのは,「誰もやったことのない方法で,誰も考えたことのない答えに辿り着く」というフロンティア(開拓者)精神です。

「例えば,国語の授業で『モチモチの木』の物語を取り上げたときは,読み方を一切指定しませんでした。『モチモチの木』は,臆病な主人公・豆太が,腹痛になった祖父のために夜道を走って医者を呼んでくるという話なのですが,『歩きやすい月明かりの夜に腹痛になるのは出来過ぎてるから,仮病だったんじゃないか』とか,『翌日あっさり治まった腹痛だから,ただの便秘なんじゃないか』とか,いろんな仮説が子供たちから出てきて,すごく盛り上がりましたね。」

一見,奇抜にも思える方法ですが,あらかじめ教師がレールを敷くような教え方では,学びの効果は得られないと語る沼田先生。「これが問題だから答えを考えましょう」ではなく,「なんでそれが問題なんだろう?」というところから始めることが大切だと言います。

「要は,問題に対して主体性を持てるかどうか。“勇気や優しさの大切さを学びましょう”と言っても,ただ読むだけでは子供のモチベーションは上がりません。自分で考えなくても,いずれ誰かが正解を出してくれますからね。主体的に考えるから,登場人物に対して感情移入できる。『いろいろあったけど,豆太はよく頑張ったよな』と,心から思えるようになるわけです。」

教師が用意するのは,道ではなく場所。すると野山を冒険するときのように,授業を受ける子供たちの目が生き生きと輝いてくる。沼田先生の授業は,まるでRPG の世界を探検するときのような自由さと好奇心に満ちています。

全員がスペシャリストになればクラスの「総合力」は劇的に上がる

沼田先生の,教師としての目標は2つ。1つは「世界一楽しいクラスをつくること」,もう1つは「子供たちが何でも自分でできる人になること」です。こう言うと,全員がスーパーマンのようなクラスを目指しているようにも聞こえますが,そうではないと言います。

「ここ,勘違いされやすい部分なんですけど,僕は何でも自分一人で頑張る必要はないと思うんです。苦手なことは,それを得意な人に任せて,自分がやりたいこと,できることを頑張った方がいいと思いませんか?」

その考えは,「プロジェクト」という形で表れています。沼田先生のクラスでは,朝の会のときに「自分がやりたいこと」を自由に発案でき,1人でも賛同者がいればプロジェクトとして承認されます。

その活動内容は,実にさまざま。「EBT(江戸文化ティーチャー)」といって,江戸文化の面白さを広めるものもあれば,「KDO(“恋ダンス”教える)」や「PFP(プロジェクトを増やすプロジェクト)」といったプロジェクトまであります。プロジェクト名を3文字のアルファベットで表現することも,子供たちから生まれたアイデアなのだそうです。

「自発性を育てるというと大げさですが,やりたいことなら放っておいても子供はやります。僕がしているのは,そのきっかけをつくることと,やったことをしっかりほめてあげること。するといろんな方面のスペシャリストが増えていって,自然と子供たち同士で教え合う環境が生まれるんです。」

“全員が同じこと”が平等だとは思わない。人それぞれ得意・不得意があって当たり前。大切なのは,個性の違いを認め,それを補い合えるクラスにすることだと沼田先生は語ります。

「子供同士だけでなく教師と子供の間でも同じことが言えます。自分一人で考えているとやはり限界があるんです。だから僕は,子供たちをどんどん頼る。クラス全体で考えれば,2倍,3倍とできることが増えていくでしょう。教師である僕は,クラスにおいてはスペシャリストではなく,子供たちを見守るゼネラリストであろうと思っています。」

 

Profile
沼田 晶弘
1975年9月19日生

1999年3月 東京学芸大学卒業
2002年5月 アメリカBall State University 大学院修了
2006年12月 東京学芸大学附属世田谷小学校赴任
現在に至る

”MC 型”教師,東京学芸大学教育学部卒業後,インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び,アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後,同大学職員などを経て,児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネッサンス」に取り上げられて話題に。

著 書
『「やる気」を引き出す黄金ルール—働く人を育てる35の戦略』(幻冬舎),『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社),『子どもが伸びる「声かけ」の正体』(角川新書),『変なクラスが世界を変える(仮)』(7月25日発刊予定,中央公論新社)ストであろうと思っています。」

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