レポート教育最前線

教科の枠を越え、全教職員で取り組む「防災教育」

東京都立足立工業高校

東日本大震災を契機に、各地で防災教育の取り組みが本格化しています。新指導要領は、特設した指導の時間は設けられていないものの、学校安全計画に関連付けて各教科・領域等で「安全に関する指導」を適切に行うよう求めています。防災教育・安全教育を推進していく上でのヒントを、東京都教育委員会の防災教育推進校に指定され、国の「防災教育チャレンジプラン」でも優秀賞を受賞した東京都立足立工業高校の事例に学んでいきましょう。

文・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

創意工夫を出し合い
工業高校らしさも発揮

2011年3月11日の東日本大震災では、東京23区でも震度5弱以上を観測し、交通機関もほぼ全面ストップ。一時避難所となった学校も少なくありませんでした。都内には、多くの生徒が校舎内に宿泊した高校もありました。

今後30年以内にマグニチュード7クラスで発生する確率が70%とされる、首都直下地震への備えも急務です。東京都のすべての都立高校は、2012年度から年4回以上の避難訓練を実施し、全日制高校では1泊2日の校内宿泊訓練も実施しています。東京都教育委員会による「防災教育推進校」の指定(1年間)も行われ、①高校生による防災活動支援隊の結成、②消防署など関係諸機関との連携による防災教育の実施、③宿泊防災訓練など防災体験活動の実施、④防災教育担当教員による被災地の視察、⑤防災教育発表会への参加――などの取り組みが行われています。

同校では2012年度から毎年、1年生全員が宿泊防災訓練を行っており、2013年度は防災教育推進校の指定を受けました。近隣地域6町会の避難所運営訓練(会場には同校と近隣小学校を交互に使用)にも毎年、防災活動支援隊が運営スタッフとして参加しています。

数学の授業で、備蓄倉庫の飲料水や食料の配分を計算する1年生の生徒たち。

こうした取り組みをさらに一歩を進めようと、2015年の秋には堀切哲弥校長(2017年度より都立本所高校校長)が、工業高校の特性を生かしつつ、普通教科も含めて防災教育に取り組むことを提案。国の「防災教育チャレンジプラン」にも応募し、採択されました。その後、各教科の教員からアイデアを募ったところ、以下のような多彩な取り組みが上がってきました。

【国語】防災に関する標語を考え、文化祭で発表する。
【数学】災害時の食料・水の必要量や使い方を、具体的な数値を基に考える。
【英語】災害時に必要な表現のアイデアを練り、絵やイラストを考え、標識を作製する。
【理科】色素増感太陽電池の製作と、それを用いたエネルギー環境教育、東日本大震災から学ぶ防災教育を行う。
【公民】新聞などを使用した、防災に関する調べ学習や発表会を実施する。
【保健体育】災害時のテーピングの基礎知識を学ぶ。
【家庭】電気を使わず、常温保存のできる食材を使った調理を行う。
【総合技術】災害時にスターリングエンジンを活用する(機械系)、アマチュア無線を活用して災害時の通信手段を確保する(電気系)

 

2016年度からの実践プラン名を「災害時に工業高校生として何ができるか? 自助・共助の精神を育成する教育」と銘打ち、実践方法を①基本的に通常の教育活動内で工夫をし、全教職員で防災教育を行う、②生徒、教職員の創意工夫により、生徒一人一人の自助・共助の精神や防災に関する興味・関心、知識や技術を育成する──としました。

例えば1年生の数学では、校内にある備蓄倉庫の中身と数量を確認し、飲料水や食料をどう配分すればよいか、人数や日数を変えて計算するとともに、結果から読み取れるものについて話し合いました。英語では全学年で、災害時に外国人の避難者を案内する校内英語表示を作り、文化祭で発表しました。こうした取り組みを通じて、生徒の防災意識はもとより、学習意欲も高まっていきました。

災害時に外国人の避難者を案内する校内英語表示を作る生徒たち。

 

工業高校ならではの取り組みの一つが、ロケットのように音を立てて効率良く燃やせる「ロケットストーブ」や、東京理科大学と連携した太陽光発電の製作です。こうした製作物を毎年次改良するなどして、学習を発展させていけるのも工業高校の強みです。

2017年1月には、小池百合子東京都知事が視察に訪れる機会がありました。その際、携帯電話に含まれる金属の「都市鉱山」から東京五輪・パラリンピックのメダルを作ることが話題に上り、数日後には都から回収ボックスを作ってもらえないかとの依頼がありました。同校では、依頼から1週間も経たないうちに回収ボックスを完成させ、2月のセレモニーに間に合わせたと言います。こうしたエピソードからも、工業高校の底力を感じることができます。

この他、宿泊防災訓練では上級救命講習を実施し、参加した164人全員が資格を取得。夕食時には、非常食の試食も行いました。

2016年8月には、東京都教育委員会が実施する宮城県内での合同防災キャンプにも8人の生徒と1人の教員が参加。被災地の視察やボランティア活動などに加わり、さらには参加した全員が防災士の資格を取得してきました。

同校は、「防災教育チャレンジプラン」以外に、「ぼうさい甲子園」(毎日新聞社などが主催)にも参加し、教科アイデア賞を受賞しています。生徒たちはこの授賞式に参加して他校の生徒と交流し、取材を受けるなどの経験を通じて自信をつけたといいます。堀切校長は、他の生徒たちにも「みんなの総合力で受賞したんだよ」と呼び掛けたそうです。

宿泊防災訓練の様子。

 

新指導要領でもカリキュラム・マネジメントで
実施が求められる

防災教育を含む学校安全をめぐっては、学校保健安全法第27条で、学校安全計画を策定・実施することが各学校に義務付けられています。そのために国も学校安全の推進に関する計画を策定することとされており(同法第3条第2項)、2017年3月に閣議決定された第2次学校安全の推進に関する計画(2017〜21年度)では「全ての学校において、学校安全計画に安全教育の目標を位置付け、これに基づいて、カリキュラム・マネジメントの確立と主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点からの授業改善により、系統的・体系的で実践的な安全教育を実施する」とした上で、12の施策目標のうち2つを割いて、「全ての学校において、学校教育活動全体を通じた安全教育を実施する」(施策目標5)、「全ての学校において、自校の安全教育の充実の観点から、その取組を評価・検証し、学校安全計画(安全管理、研修等の組織活動を含む)の改善を行う」(施策目標6)としています。

一方、2016年12月の中央教育審議会答申では、新指導要領の「現代的な諸課題」の一つとして「健康・安全・食に関する力」が示されました。これに基づき、2017年3月に告示された小・中学校の新指導要領の総則では、安全に関する指導について「体育科、家庭科及び特別活動の時間はもとより、各教科、道徳科、外国語活動及び総合的な学習の時間などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めること(中学校は一部表記が異なる)」と明記されました。東日本大震災では、児童生徒等600人以上、教職員40人以上を含む約2万人の死者・行方不明者が出ました。それ以降も、各地で地震や風水害が相次ぎ、多くの被害が発生しています。

もちろん、自然災害をめぐる状況は地域によっても違います。しかし、「4つのプレートがひしめき合い、温帯モンスーン地帯にある我が国」(第2次学校安全推進計画)では、全国どこにいても、災害の被害に遭うリスクを背負っています。

児童生徒が自らの判断で自他の命を守った「釜石の奇跡」で知られる岩手県釜石市の小・中学校でも、以前から算数で長さを教える時に津波の高さを扱うなど、各教科等で防災を意識した教育が展開されており、決して「奇跡」ではなかったことが注目を集めました。自らの命を守り、他者を助けるためにも、学校教育で「自助、共助、公助の視点を適切に取り入れながら、地域の特性や児童生徒等の実情に応じて、各教科等の安全に関する内容のつながりを整理し教育課程を編成することが必要」(同計画)です。すなわち、カリキュラム・マネジメント(カリマネ)により、地域や生徒の特質に応じて、教科横断的に実施していくことが求められているのです。

ただ、高校の場合は教科の専門性が高いこともあり、教科の枠を越えたカリマネは難しいという声も、学校現場には根強くあります。一方で、新指導要領は「社会に開かれた教育課程」を目標として掲げ、実社会と関連付けた教育活動も求めています。

児童生徒にとっても、社会にとっても喫緊の課題である防災教育は、まさにカリマネの好例であることを、同校の実践は教えてくれています。

 

防災教育とアクティブ・ラーニングに
対する堀切校長の思い

堀切校長が防災教育に関心を持ったのは、三宅島の噴火(2000年)による全島避難が解除された翌年の2006 年度、都立三宅高校に副校長として着任した時だったと言います。島内で防災関連の学会が開かれた際には、当時50 人ほどだった生徒が島外の方々と交流する姿を見て、防災教育への思いを強めていったそうです。

そうした日々を送る中、 2002年度から「環境防災科」を設置している兵庫県立舞子高校(神戸市)を視察で訪れ、1995年に起きた阪神・淡路大震災の経験を生かした体系的な防災教育を目の当たりにします。「防災を切り口にして、生徒のさまざまな力を育成していることに感銘を受けました」と、堀切校長は振り返ります。それを契機として、三宅高校で「防災教育チャレンジプラン」や「ぼうさい甲子園」に参加します。その後、都立目黒高校の副校長を経て、校長として着任したのが足立工業高校でした。その間も、環境教育を通した防災教育を行うチャンスをうかがっていたといいます。

一方で、普通科系とはいえ専門学科を持つ舞子高校のように、学校設定科目を中心に防災教育を展開することは難しそうだとも感じていたそうです。工業高校という特性を生かしつつ、各教科の中で実施するというアイデアは「全校一丸となって取り組みたいと知恵をしぼる中で思いついたものでした」と堀切校長は言います。

その頃、奇しくも中央教育審議会では学習指導要領改訂の審議が本格化するとともに、第2次学校安全推進計画の策定に向けた検討も進むなど、安全教育をどう位置付けるかが課題となっていました。最終的には、先述した通り、現代的課題の一つとしてカリマネで行う方向が固まっていきますが、同校の取り組みはそうした中央の動きと結果として軌を一にしたものとなりました。

堀切校長自身、東京都立大学(現・首都大学東京)に学生として在籍していた頃から、サークル活動で仮説実験授業を研究するなど、主体的な授業の研究をライフワークとしてきました。そんな堀切校長が2017年4月、東京都教育委員会から3年間の「アクティブ・ラーニング推進校」に指定された都立本所高校に、偶然にも着任することになりました。素直で社会貢献への意識を持っている一方で、学習に対して受け身の傾向があり、主体的に取り組む生徒が比較的少ないため「型だけではない、学力の3要素を育てる授業を作っていきたい」と意気込みます。

最後に、そんな堀切校長がこれから教員を目指す人たちにアドバイスを送ってくれました。「今まで受けてきた授業はアクティブではなかったかもしれませんが、今後は児童生徒に求められる資質・能力も変わり、高大接続改革も始まります。どんな場面でアクティブ・ラーニングを取り入れるのが有効なのか、それを考えるコーディネート能力も問われます。『社会に開かれた教育課程』を担うためにも、知識注入型ではない、資質・能力の育成に正対する先生になってほしいと思います。」

合同防災キャンプで被災地の視察をする生徒たち。

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