カリスマ教師の履歴書

File.26 久保 昭夫先生(東京都国立市立国立第二小学校)

  一片の色紙の集まりが、巨大な物語を生み出す

東京都国立市立国立第二小学校では、毎年5~6年生の共同作業によって、巨大な貼り絵の作品を制作しています。そこにはどのような狙いや苦労があるのでしょうか。図画工作を担当する久保昭夫先生にお話を伺いました。

文・澤田 憲

自分を変えた恩師、そして美術との出会い

入学式前日に訪れた体育館に設置されていたのは、高さ4メートル、幅8メートルにも及ぶ、巨大な“貼り絵”。描かれているのは、狩野永徳作「唐獅子図屏風」。金色の雲が立ち昇る岩間を、雌雄2匹の獅子が互いに顔を見合わせながら歩く様子が、何万枚と貼られた色鮮やかな紙片によって見事に表現されています。

「単体ではただの紙切れにすぎないものが、重ね合わせていくことで立派な一枚の作品になる。それが貼り絵の大きな魅力です。」

同校で図画工作を教える久保昭夫先生は、そう語ります。

「私が美術の面白さに目覚めたのは、高校生のときです。教師の道を目指したのも、そのときに出会った美術部の恩師の影響が大きいですね。人前で話をするのは苦手な方ではありましたが、同級生や先輩方と一緒に貼り絵で一枚の作品をつくっていく中で、生涯の友情を築くことができました。」

言葉を交わさずとも、一緒に作品を作ることで、感動を共有し、絆が深まる。美術には、そんな「人と人をつなげる力」があると久保先生は感じたそうです。

「せっかく教師になるなら、自分と同じように学ぶことの純粋な喜びや感動を子供たちに伝えたい。そう思って、図画工作の『共同でつくりだす活動』の一環として“貼り絵”を始めました。」

久保先生の“貼り絵”の授業実践は、初任の年から始まり、今年で13 年目。その活動が認められ、2016年度には文部科学大臣優秀教員表彰を受賞しました。

「毎回、試行錯誤の連続ですが、貼り絵の良さは、“どこまでもアナログなところ”です。何でもインスタントにできてしまうデジタル化の進んだ現代だからこそ、手で紙をちぎって糊で貼るという生の体験が、子供たちに新鮮な感動を与えてくれている気がします。」

一人ひとりの力が合わさって心を動かす作品が生まれる

貼り絵は、毎年1枚、5年生と6年生の共同作業によって制作されます。制作期間は3~4カ月間。それぞれの図画工作の時間を毎回20 分ほど使って、少しずつ作っていくそうです。

「テーマとなる絵を決めたら、まずはカラーコピーしたものに線を引いて数十個のブロックに分けます。その後、ブロックの数だけベニヤ板を用意して、見本を見ながらそれに下書きをしていくのです。それができたら、後は1ブロックを1班が担当する形で色紙を貼っていき、最後に組み合わせて完成です。」

今までに制作したのは、葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」や俵屋宗達の「風神雷神図」など、日本の古典作品が中心。テーマとなる絵は、その時代の庶民の文化や歴史が色濃く表れているもの、そして見た人が幸せな気持ちになれるものを中心に選んでいるそうです。

完成した貼り絵に心を奪われるのは、作品の巨大さだけが理由ではありません。近づいて見てみると、同じ山や波の表現でも、ブロックによって表現の仕方が微妙に異なっていることが分かります。ただ原画に忠実に模写するのではなく、子供たちなりに作者の意図を解釈し、作品を子供たち自身の眼で見えるとおりに再現した結果が、作品に複雑さと奥行きを与えるのだと、久保先生は話します。

「最近は、図画工作の授業内で完結させるのではなく、他教科と連携することにも重点を置いています。例えば『唐獅子図屏風』では、国語の『この絵、私はこう見る』という単元において、自分ならどのようなタイトルをつけるか、話し合いを行ってもらいました。画面の中にいる2匹の獅子は、どういう関係で、どこへ向かっているのかなど、子供たち同士が意見をぶつけ合うことで、絵の背景にある物語を読み取ることも大切な学びの一つです。」

こうして出来上がった作品は、2年に一度、展覧会を開いて地域の人たちにお披露目しているほか、卒業式や入学式などの式典行事でも飾っているそうです。

「貼り絵の良いところは、『一人一人の力は小さくても、協力すればこんなにすごい作品ができるんだ』ということが分かりやすく実感できることです。最近は、自己肯定感の低い子供が少なくありませんが、貼り絵では、どの作業も一つとして無駄にはなりません。自分が行動した結果が、一つの作品として実を結んだと
きの達成感は、他には代えがたい大きな喜びになると思います。」

 

 

日常の中に「美しさ」を発見できる眼と心を育む

教師をしながら、放課後や休日を使って、今でも自分の作品を描いているという久保先生。自分がそうであったように、子供たちにも美術を通して、“現実の中に美しさを見出せる目”を養ってほしいと考えています。

「東日本大震災があった翌年に、宮城県の気仙沼市立大谷小学校と合同の展覧会をしたことがあります。そのとき大谷小学校の児童が描いた絵を送ってもらったのですが、それらは私の予想を裏切るものでした。私はてっきり復興後の町の様子が描かれていたりするんだろうなと思っていたのですが、子供たちが描いていたのは給食を食べている様子やプールで泳いでいる姿の絵など、普段私が接している子供たちの絵と少しも変わらないものだったのです。そのとき日常生活の中にこそ、かけがえのない美しさや心をとらえる感動があるのだと、改めて思い知らされた気がしました。」

登下校の道端に咲いている花や、夕日を背にして校庭に伸びる木々の影。歳月を経るごとに、そうした自然の美しさを忘れ、慣れてしまうのは仕方のないことですが、一枚の絵には感動を通して見る人にそれを気が付かせることができ、特に子供たちにはそれを再発見できる柔軟な生命があると久保先生は語ります。

「上手い下手は、まったく重要ではありません。命の美しさや尊さは、名の知れた画家の作品だけではなく、日常の1コマからも見出すことができる。それを自分の眼で見て、自分の見えるとおりに表現できるようにしてあげることが、本当の意味で個性の開花であり、そうした美術を教えることが私の教師としての使命であると確信しています」

 

Profile
久保 昭夫
1978年9月5日生
2001年3月 創価大学文学部社会学科卒業
2001~03年 京都造形芸術大学通信教育部にて単位取得
2005年4月 東京都あきる野市立屋城小学校に赴任
2008年4月 東京都国立市立国立第二小学校に異動(現職)

座右の銘
「英知を磨くは何のため 君よそれを忘るるな」

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