レポート教育最前線

生徒の意欲と学力を引き出す教科教室型システムの取り組み

東京都渋谷区立上原中学校

質の高い授業を行うには、教室環境を整えることも重要です。近年では校舎の新設などに伴って特色ある学校施設を整備し、多様な教育活動を引き出そうという動きも盛んになってきました。その中に、「教科教室制」「教科センター方式」「教科教室型システム」などと呼ばれる一連の取り組みがあります。今号では10年以上も前から教科教室型システムの実践に取り組み、今新たなステップを踏み出そうとしている東京都渋谷区立上原中学校の実践をレポートします。

文・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

狭い校地を逆手に取った
大胆な校舎設計

校門をくぐり、左手に地上2階・地下2階の体育館棟を見ながらエントランスへの階段を上ると、施設・設備の広さと立派さに圧倒されます。廊下や教室には温もりのある木材が多用され、大きなガラス窓からは明るい光が差し込んできます。よほど大事に使われてきたらしく、2006年3月の完成から11年が経ったとは思えないほど、校舎は新築のような美しさを保っています。

東京23区の場合、敷地的な事情もあり、広い校地を確保できない学校が少なくありません。1947年に開校した同校も、代々木公園のすぐ近くにありながら、住宅街の中、崖のある場所に立地を余儀なくされました。そうした状況の中、新校舎建設にあたっては、狭い校地を逆手に取った大胆なデザイン設計が採用され、温水プール(地下1階)のほか、旧校舎時代よりも広い人工芝のグラウンドが体育館の屋上に整備されました。これと時を同じくして導入されたのが、「教科教室型システム」と呼ばれる仕組みです。

体育館の屋上にある人工芝のグラウンド

教科教室型システムとは、教科単位で教室が決まっていて、授業ごとに生徒が移動して授業を受ける方式のことです。同校の場合、1・2階に実技系教科、3階に国語と英語、4階に数学と理科といった形で、教科教室が配置されています。

同様のシステムを取る学校の中には、教科教室とは別にホームルーム用の教室を用意している所もあります。しかし、同校はもともと校地が狭く、教室スペースを確保できなかったことから、ホームルーム用の教室と教科教室は共用する形になっています。そのため、例えば2年1組は数学教室で、ホームルームや道徳の時間、総合的な学習の時間などが行われます。

各教科教室は、学級活動や道徳の時間などが行われるホームルーム教室と兼ねています。

教科教室型システムの場合、教室に生徒の荷物を置いておくことができません。そのため、生徒たちは廊下の一角にある「ホームベース」のロッカーに、各々の荷物を保管します。
生徒用のロッカーが置かれた「ホームベース」。生徒たちはここを起点に、教科書等を持って、授業が行われる教科教室へと向かいます。

教科教室型システムでは、掲示物などをどう工夫するかも、教員の腕の見せ所です。同校の場合、ホームルーム教室と兼用のため、前面には教科用の掲示物が、背面にはクラス用の掲示物が、それぞれ張られています。

同校は、各学年3クラス(他に特別支援学級2クラス)なので、休み時間には300人近い生徒たちが、校内を行き交うことになります。そのため、廊下は5メートル以上の広さを確保しています。3・4階部分は上空から見ると台形状に1周できる構造になっており、狭い校地からは想像できないほど、空間的にゆったりとしています。

教科書を持って、授業が行われる教科教室へと移動する生徒たち。

学校教育目標を実現する
建築コンセプトと創意工夫

全国のどの学校も「学校教育目標」なるものを定めています。「学校教育目標」は、単なるスローガンとして掲げているだけでは意味がありません。達成に向けて基本方針を策定し、教育計画を練り上げることが必要になります。

同校の学校教育目標は「自主・自律」「敬愛」「共生」です。ユニークなのは、それら目標となる言葉が施設・設備の特色と関連付けられている点です。

当初、新校舎は「自主性」「透明性」「専門性」をコンセプトに建築されました。現在は、「ガラス張り」「オープンスペース」「教科教室型・メディアセンター」というキーワードに整理されていると、同校の大坂崇副校長は説明します。

「ガラス張り」は、文字通りガラスを多用するというだけでなく、教室の様子が廊下からよく見えるようにすることで、教育活動自体をガラス張り(=透明)にしようという意図が込められています。「地域に開かれた学校づくり」が求められる中、学校の責任説明を果たす上でも、「透明性」はキーワードの一つだと言えます。

「オープンスペース」については、廊下の広い空きスペースに、各教科のプリント教材や都立高校の入試問題などを置き、生徒が自由に取って自習できるようにしています。廊下には、辞書や事典などを備えた教科別の「メディアセンター」も配置されています。各教科スペースの柱には、学習関連の掲示物が貼られています。生徒たちは、移動の間に気持ちを切り替え、掲示物などを眺めながらその教科への意識を高めた後、教科教室へと入っていきます。そのため、授業の入りが非常にスムーズで、導入にさほど時間を掛けることなく、展開へと移行することができます。

広めの廊下には各教科スペースが配置されていて、生徒たちが自由に持って行けるプリントなどが置かれています。

「教科教室型システム」については、生徒指導の面でも効果を発揮しています。旧来型の「南向き・片側廊下・4階建て」の校舎では、生徒指導上の問題等が深刻化すると、他学年の階には立ち入らないよう指導されるケースがかつてはありました。しかし同校では、異学年の触れ合いが日常的に行われる環境があり、そのことが生徒指導上の諸問題を減らすことにつながっているといいます。上級生は下級生の範となるように振る舞い、下級生はガラス越しに上級生の授業を見て、学習の見通しを持つ。オープンスペースと移動による教育効果は、学習指導と生徒指導の両面で、効果を発揮しているのです。

教科教室なら、教材・教具が揃っているのはもとより、同じ学年の授業が続くなら、必要な板書を残しておくこともできます。そうして授業準備の負担が軽減されれば、その分の労力を教材研究や授業展開の工夫改善に割くことができます。

このように教科教室型システムは、専門性を高める仕掛けとして、多様な可能性を秘めているのです。教科教室型という仕組み自体は、最近になってできたものではありません。戦後間もない1950年頃から、教科教室型の建設事例があったといいます。その後、愛知県東浦町立緒川小学校(1978年)などに「オープンスペース」ができた頃から、学校建築と教育活動の関係に注目が集まるようになっていきます。教科教室型システムについては、福島県三春町が1983年度から4校の中学校に順次整備していったことで、広く学校関係者に知られるようになりました。

近年、「カリキュラムデザイン」という言葉が注目されています。これを考える上では、校舎デザインに合わせて教育環境のデザイン、授業のデザインを考えることが重要となります。そうした視点の重要性は、特色ある学校建築だけでなく、旧来型の校舎であっても同じことでしょう。

新指導要領の総則にある「カリキュラム・マネジメント」が、「教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保」することも含むものであるならば、これからの学校・教師にはますます、教育環境・授業環境の整備に意を用いる必要があります。

各教科教室には生徒たちの荷物がないため、すっきりした印象を受けます。

10年間の成果を基に
新たな10年の実践へ

教科教室型システムの導入から10年の節目を迎えた同校では、2016年度に着任した豊岡弘敏統括校長(統括校長は一般の校長の上級職で、先進的な取り組みを推進して成果を全体に還元するなどの役割を持った学校に配置される東京都独自の職)の下、これまでの取り組みを検証することにしました。そして、教科教室型システムの良い点について、個々の教員にアンケートを実施。その結果を「フィッシュボーン」(魚骨図)と呼ばれる思考ツールでまとめ、①教科教室型、②学力調査結果、③新学習指導要領の3つの円が交差する部分に授業改善があるとして、下図のような研究構想図を練り上げました。これに基づき、2017年度からはいよいよ新学習指導要領を踏まえた今後10年間の授業改善に乗り出していく予定です。

新学習指導要領に基づく新たな教育実践にチャレンジすることが、同校にとどまらない全国的な課題であることは言うまでもありません。とりわけ、これから教職に就こうとする人は、新しいことに意欲的に取り組む姿勢が求められます。

豊岡統括校長は「新任教師は、ともすれば従来の学校文化や教え方に流されてしまいがちです。常に将来を見据え、新しい考え方を持って、21世紀の未来に生きる子供たちのためにどういった教育をすべきかを考え、積極的に提案してほしいと思います」と語ります。大坂副校長は「何より大切にしてほしいのは、子供とコミュニケーションを取ること。そのためには、積極的に子供たちの中へ入って行こうとする意識を持ってほしいと思います」と期待を寄せます。

※記事内の肩書は、取材時(2017年3月)のものです。

 

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