学校不祥事の顛末

女性教諭にセクハラとパワハラ

【今月の事例】
女性教諭にセクハラとパワハラ
A県教育委員会は、同僚の女性教諭に暴言を吐いたり、キスをしたりするなどのパワハラやセクハラをしたとして、B市立中学校の男性教諭(40)を同日付で懲戒免職にしたと発表した。県教委によると、教諭は当時勤務していたB市内の中学校で、女性教諭に対して、頻繁に肩や頬を触ったり、「教師が嫌になったら、やめちまえ」などと罵倒を繰り返したりしていたという。女性教諭が学校に被害を打ち明け、発覚した。教諭は、「大変申し訳ないことをした」と女性教諭に謝罪したという。

 

【法律家の眼】

後を絶たない職場のハラスメント
特徴の一つは「加害意識の欠如」

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 ハラスメント被害の特徴〜加害意識の欠如

「セクハラ」「パワハラ」といった言葉そのものは、既に社会へ浸透していると言ってもよいと思います。しかし、その被害は後を絶ちません。何故なのでしょうか。
本事例では、40歳の男性教諭が、同僚の女性教諭に暴言罵倒のほか、キスのような性的行為などを繰り返していました。
この男性教諭も「セクハラ」「パワハラ」という言葉は知っていたはずです。ただ、自分のしていることがこれらに該当するかどうか、客観的に判断できなかったのではないでしょうか。こうした加害意識の欠如は、ハラスメントにおける一つの特徴です。

 

2 セクハラに関する処分量定の例

加害者が自分の行為一つ一つにそれぞれ理由があると主張しても、ハラスメント被害の有無は客観的に判断されます。
東京都教育委員会による「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」のうち「職場におけるセクシュアル・ハラスメント等」の部分を次に引用します(東京都教育委員会Web サイト参照)。

・ 地位を利用して強いて性的関係を結び又はわいせつな行為を行った場合
・ わいせつな内容のメール送信・電話等、身体接触、つきまとい等の性的な言動を繰り返して相手が強度の心的ストレスにより精神疾患にり患した場合
免職
停職
・ わいせつな内容のメール送信・電話等、身体接触、つきまとい等の性的な言動を繰り返した場合
・ 相手の意に反することを知りながらわいせつな言辞等の性的な言動を行った場合
停職
減給
・ 職場等において相手に性的な冗談・からかい、食事・デートへの執ような誘い等の言動を行い性的不快感を与えた場合 減給
戒告

本件の場合、キスのほか、肩や頬など身体的接触が頻繁に行われていたところ、これに恫喝といったパワハラも加わっていることから、「懲戒免職」という最も重い懲戒処分が相当と判断されたものであり、これは上記量定基準に鑑みても妥当と考えられます。

 

3 被害者の声

本件の女性教諭は、勇気を持って学校に被害を打ち明けました。しかし、一般的には、以下のように悩んでしまう被害者もいるのではないでしょうか。当事者の気持ちに寄り添うつもりで、一読してみてください。

・ 相談したことが分かったら、もっとひどい目に遭いそうで怖いから言えない。
・ 恥ずかしくて誰にも相談できない。なかったことにしたい。
・ 自分にも隙があったのかもしれないから仕方ない。忘れたい。
・ 相手(または自分)の異動まで我慢しさえすれば済む。
・ 相手は仕事ができて管理職の信頼も厚いから、自分が管理職に相談しても信じてもらえないかもしれない。
・ 管理職が相手をかばえば、自分だけが悪者になってしまう。
・ このような問題を解決できないのは自分が悪いからではないか。「嫌になったらやめてしまえ」と言われても仕方ないのではないか。

 

4 相談窓口

被害に遭ったら、追い詰められるまで抱え込んではいけません。できるだけ早く信頼できる人を見つけ、相談することが大切です。また、加害者になってはいけないのは当然として、同僚が被害に遭っていることに気付いたら、見て見ぬふりをしないことも大切です。管理職に相談するほか、自治体のセクハラ相談窓口やパワハラ相談窓口など学校外の相談窓口を利用するなども選択肢の一つです。

 

【教育者の眼】

同僚教師は「かけがえのない仲間」
という意識を持ってほしい

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■身勝手からくる「人権意識の欠如」

本事例は、男性教諭が同僚の女性教諭に対してパワハラやセクハラを繰り返したというものです。地方公務員法第33 条が定める「信用失墜行為の禁止」に抵触する行為で、内容から見ても懲戒免職処分は当然と言えるでしょう。
パワハやセクハラは、それを受けた人の心の痛みを自らの問題として受け止めていく意識、個人の尊厳を守ることなどの人権意識が欠如することに起因して起こります。子供を教育する立場にある教師には、そうした意識が強く求められるわけで、教職を目指す皆さんは、しっかりと自覚してほしいと思います。
仮にこの女性教諭が、教員採用試験に合格したばかりで、職務を全力で全うしようと考えている新任教員であったら、その後の教職人生に暗い影を落とすことでしょう。まして、この男性教諭の残忍な行為が子供たちに向き、その心を傷つけつるようなことがあったらと思うと、背筋の凍る思いがします。

 

■日頃から「風通しのよい職場づくり」を

この男性教諭は、日頃から何ら罪悪感を覚えることなく、パワハラやセクハラを行っていたのでしょう。もし、こうした行為が黙認され続けていたら、その矛先が子供たちに向かっていた可能性もあります。この学校では、日頃からそうした行為が見逃される職場環境があったのではないか、そう思わせる節もあります。
この男性教諭は、40歳という年齢からすれば、中堅のミドルリーダーとして、学校の教育活動全体をまとめていく立場にあった可能性もあります。そうした立場から、自分の指導等にうぬぼれ、思い上がり、自分より立場が弱い同僚の女性教諭にハラスメント行為を繰り返していたのかもしれません。一方の女性教諭は、キャリアの違いや職務上の上下関係、「人間関係を崩したくない」との思いなどから、何も言えなかったのでしょう。
学校においては、職員一人一人が身近な言動を見直し、互いの言動について指摘し合うなど、互いが気軽に意思表示できる雰囲気づくりを心掛ける必要があります。

 

■ 意識してほしい「チーム学校」の視点

新指導要領には新たに「前文」が加わり、その冒頭に教育基本法第1条と第2条が示され、改めて教育の目的と目標が明示されました。ここに記されている原点、すなわち誰のための教育なのか、教育とは何なのか、そのためにはどのように指導をしていくのかを教師がしっかりと理解し、自覚していれば、パワハラやセクハラは起こりません。
組織の不祥事防止という点で、もう一つ意識したいのは「チーム学校」の視点です。教職員が互いを認め合い、互いの良さと可能性を見いだし、伸ばし、組織体として子供の指導に携わることは、教育活動の充実はもちろん、不祥事の防止にも寄与します。
教職を目指す皆さんは、特に次の点に留意してほしいと思います。

○ 指導のつもりであっても、適正レベルを超えると相手を傷つけてしまうこと。
○「 言葉が乱暴なのは愛情の裏返し」「毒舌も個性の一つ」などの思い上がりはしないこと。
○ 同僚や児童生徒と信頼関係ができているので「この程度はハラスメントにならない」と過信しないこと。

子供たちは「かけがえのない存在」、教職員は「かけがえのない仲間」、そして保護者や地域の方々は「かけがえのない協力者」です。そうした意識を忘れることなく、自らの人間性や教職への使命感を高めていただきたいと思います。

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