カリスマ教師の履歴書

File.25 小金丸 倫隆先生(神奈川県立光陵高等学校)

大切なことは目の前の生徒に寄り添うこと。
生徒のニーズに合わせた授業でやる気を引き出す

初任時に「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」(以下,SELHi)で実力のある先生方に揉まれ,神奈川県の「優秀授業実践教員表彰」を受賞した経歴を持つ小金丸倫隆先生。しかし自身は,大学まで英語学習者として“失敗者”だったと言います。そんな先生がどのようにして指導力を磨いていったのか,お話を伺いました。

 

文・平野 多美恵

目指すのは「英語を勉強しよう」という生徒の動機を引き出す授業

2年生最後の授業は,ゲームを通して接辞を知り,英単語数を増やすというもの。ゲームの前に小金丸先生は,今日のゴールは接辞で単語数を増やすことだと生徒たちに話しました。

「大学入試には英単語数約4,000 語が必要だと言われていますが,接辞を知ることで効率良く単語数を増やしていくことができます。」

ゲームは2人でチームを組み,4チームあるいは3チームがグループになって対戦。「dis-」や「sub-」,「pre-」,「-able」,「-ness」,「-logy」などの接辞とその意味,ポイントが書かれたカードが5枚配られ,自分たちの番が来たらその中の2つをつなげて単語を作るというものです。単語が作れなければ手持ちのカード1枚を捨て,もう1枚を引く。「steal」と書かれたカードは,他のチームが作った単語の中から,必要なカードを取ることができます。

生徒たちは,15 分間で作れた単語のポイントを競い,チームごとに集計。トップのチームを決めるとともに,各グループの中の1チームが,自分たちが作った単語から1語を使って英文を作成・発表しました。最もポイントの多いチームを発表したところ,生徒から「対戦するチームの数がグループごとに違うから,チーム数の少ないグループでは回転率が多くなり,単語数が多くなったのではないか」との指摘がありました。小金丸先生はすかさず,「どうしたらもっと良いゲームになるかな?」と投げ掛けます。より良いゲームにするにはどうしたらよいか,考えをめぐらせることで,生徒は先生と同じ視点を持つことになります。生徒たちの「主体的な学び」が引き出された瞬間でした。

授業の最後,小金丸先生は生徒たちに言いました。

「高3の夏までに発音記号と接辞を身に付けてほしいと思います。先生自身,高3の夏までにそれができていれば,英語の偏差値が10 違っていただろうと後悔しています。」

英語学習の“失敗者”としての経験を授業に活かす

子供の頃,小金丸先生が目指していたのは,音楽の先生でした。小学生当時,「自分に自信が持てなかった」と言う小金丸先生にとって,励まし,褒め,また悩みなどを聞いてくれた音楽の先生は,特別な存在だったそうです。その先生への憧れから,自分も音楽の先生になろうと決めていた小金丸先生でしたが,大学時代
に副専攻として英語を選択し,塾講師のアルバイトで英語を教えたことがきっかけで,英語の楽しさに目覚めたそうです。

「とはいえ,大学入学までは英語学習者としては“失敗者”で,英語に対するコンプレックスを持っていました。」

大学4年生の時に受けた中学校英語科の教員採用試験は惨敗。悔しさに包まれたと振り返ります。どうせやるならとことん高みを目指したい。そう思った小金丸先生は,英語教授法の修士学位を取るためにアメリカの大学院に留学します。

「それまでの自分は,基礎を疎かにしたまま難しい長文問題に向き合っていました。現在は,そうした自分の失敗体験を生徒に還元することを考え,授業を行っています。」

大学院を卒業後,晴れて高校の英語教師となった小金丸先生。初任校はSELHi の指定を受けている,英語教育の先進校でした。県内から実力のある先生が集まっており,週に1 度の英語科の会議は全て英語。初任者研修の時間以外にも他の先生の授業を見学したり,自分の授業に厳しい指摘を受けたりと「刺激的だけれど苦しい1年目」を過ごしたと振り返ります。

教職2年目,担任を持った小金丸先生は,自身にある“変化”が現れたと言います。それは,「生徒の方を向く」という視点ができたこと。目の前の生徒にとって良い授業であれば,特別なことをする必要はないと考えるようになり,生徒が「英語を学びたい」と思えるような授業,モチベーションを高める授業を目指すようになったのです。3年目には,パワーポイントで資料を作り,生徒と一体となった授業づくりが評価され,「優秀授業実践教員表彰」を受賞。授業も生徒指導も部活動も事務作業も,全てに120%の力を注いで,初任校での5年間を走り抜けました。

人生観すらも変える定時制高校での3年間

次に赴任したのは定時制高校。異動が決まったとき,小金丸先生はどこかでほっとしていたと言います。

「初任校では,教師として加速し続けなければと焦っていた自分がいました。その一方で,もっとゆっくり見るべきことがあるのではないかとも感じていたのです。」

定時制高校では,生徒の英語に対する姿勢が初任校とは全く違いました。英語に興味がない,中学校で習った文法が理解できていない生徒も多く,小金丸先生は英語の映画やパンフレットを使って授業を行い,生徒の興味関心を引き出すところから始めました。少しずつ分からなかった文法が理解できるようになった生徒
たちは,「映画が面白かった」「アメリカの文化に興味を持てた」と,目を輝かせるようになっていきます。そんな姿を見て,小金丸先生は「生徒のモチベーションを高める授業」という方向性が間違っていなかったことを再確認します。

「定時制高校に通う生徒の中には,将来やりたいことも特に無く,狭い世界の中で生きている者も少なくありませんでした。そんな生徒たちに,外にはとても広い世界があるのだと教えてあげるのが,英語科の教師の務めだと思いました」と小金丸先生は言います。

定時制高校に赴任した最初の年,3年生を担任した小金丸先生は,「やりたいことは特にない」と話す一人の生徒と向き合ううちに,興味を持っているものがあることに気付きました。「やってみたら?」と背中を押したところ,専門学校へ進学することが決定。卒業式ではその生徒から「私の人生を変えてくれてありがとう」とお礼を言われたそうです。

「特別なことをしたわけではありません。今思えば,生徒たちには身近な大人が味方になってくれる経験,自分の人生について考えてくれる大人と接する経験が不足していたのでしょう。忘れられない出来事です。」

定時制高校での3年間は,自身にとっても人生の転機になったと小金丸先生は言います。その後,現任校に赴任し,4年目を迎えます。現在は,初任時のように忙しい毎日を過ごしていますが,当時のように120%の力で走り続けることはできないと感じているそうです。

「初任校で120%の力で走ることができたのは,周りの先生たちが一緒に走りながら,荒削りの自分をフォローしてくれていたからだと気付きました。教師として経験を重ねた今は,自分が誰かをフォローする番です。初任者,2~3年目の若手教員には,その時にしかできないことがあります。失敗しても,怒られても,やりたいことに挑戦して,若手教員だからこそ許される経験を大切に積み重ねてほしいと思います。」

Profile
小金丸 倫隆

1979年9月23日生

2006年3月 Temple University 大学院 英語教授法修士課程(TESOL)修了
2006年4月 神奈川県立大和西高等学校に赴任
2011年4月 神奈川県立厚木清南高等学校に赴任
2014年4月 神奈川県立光陵高等学校に赴任(現職)

座右の銘
終わりよければ全て良し
趣味
SAX演奏

 

 

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