レポート教育最前線

3年間の計画的・系統的な「キャリア教育」の実践

千葉県立船橋二和高校

児童生徒の社会的・職業的自立に向けて、基盤となる資質・能力を育成する「キャリア教育」。未だに「進路指導」と混同されることもありますが、新学習指導要領では小学校段階から「キャリア教育の充実を図る」ことが総則に明記されました。とは言え、独自の教科や科目があるわけではありません。どう取り組めばよいのでしょうか。キャリア教育の実践に多面的に取り組む千葉県立船橋二和高校の実践をレポートします。

文・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

「キャリア教育」の実践で
文部科学大臣表彰を受ける

2015年度の「キャリア教育優良教育委員会、学校及びPTA団体等」文部科学大臣表彰を受けた千葉県立船橋二和高校。JR船橋駅からバスで20分、さらに徒歩10分の台地にあり、生徒の多くは市内や隣接自治体から自転車で通学してきます。卒業生の進路は、大学や短期大学、専門学校、就職などさまざまです。

同じような条件下にある高校の中には、生徒数の減少等により、再編の荒波にさらされる所も珍しくありませんが、同校の生徒数はむしろ増加傾向にあります。2017年度は3学年合わせて26学級、生徒数1,047人に上る大規模校となっています。

進路決定率も年々上昇し、2015年度は95%に達しました。「入学して良かった」と回答した生徒の割合も86%に上り、学区内の中学校からは「落ち着いた校風で、安心して通える高校」として評判が高いといいます。

もともと進路に関わる行事は多い方でしたが、2014年度に手川慎也校長が着任してからは「夢実現プロジェクト」と銘打ち、3年間の計画的・系統的なキャリア教育が進められています。プロジェクト名は、同校がモットーとする「夢・挑戦・感動」に由来します。実践の特徴は「今ある教育活動」を十分に生かすこと。背景には、手川校長自身の経験があったといいます。

2005年度、千葉県教育委員会の指導主事となった手川校長は、各高校を回って「キャリア教育」の実施を勧めました。しかし、当時はまだ文部科学省の「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議」の報告書(2004年1月)が出されて間もない頃。「キャリア教育=就職指導」というイメージが根強く、理解を求めるのに苦労したと振り返ります。

「そうではないんです。社会に出た時に、一定の役割を果たすための教育です。新しいことを始める必要はなく、今ある行事などをキャリア教育の視点で見直せばいいんです。」

そう言いながら、手川校長は説いて回ったそうです。その後、校長として現場に戻った手川校長は、前任の市立松戸高校(2012 〜 13 年度)でもキャリア教育に取り組み、大臣表彰を受けました。

身体障害者福祉作業所「太陽」での書道部の書道パフォーマンス

4領域の基礎的・汎用的能力を
幼児期から高等教育まで体系的に

ここで改めて、キャリア教育とは何かを整理しておきましょう。

2011年1月に出された中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」によると、キャリアとは「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」であり、キャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」のことです。幼児期の教育(幼稚園教育、保育所保育など)から高等教育(大学など)に至るまで、発達の段階に応じて系統的に実施することが求められています。

キャリア教育で育成すべき力は、かつては「4領域8能力」に整理されていましたが、2011年の答申では、①人間関係形成・社会形成能力(他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーション・スキル、チームワーク、リーダーシップ等)②自己理解・自己管理能力(自己の役割の理解、前向きに考える力、自己の動機付け、忍耐力、ストレスマネジメント、主体的行動等)③課題対応能力(情報の理解・選択・処理等、本質の理解、原因の追究、課題発見、計画立案、実行力、評価・改善等)④キャリアプランニング能力(学ぶこと・働くことの意義や役割の理解、多様性の理解、将来設計、選択、行動と改善等)という、包括的な4領域の「基礎的・汎用的能力」に整理されました。

国立教育政策研究所によると、各教科を含めた学校の教育活動には、既に「キャリア教育の断片」が埋め込まれています。そうした断片を「宝」として、キャリア教育の視点から教育活動を振り返り、とらえ直すことで、既にある教育活動を通してキャリア発達が促される、というわけです。

この説明に、何かが思い浮かぶ読者は多いのではないでしょうか。新学習指導要領が求める、教科横断的な「資質・能力の三つの柱」の育成と、同じ発想です。今、改めて「キャリア教育」に着目することは、カリキュラム・マネジメント(教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと)の試金石にもなるのです。

さらに新学習指導要領では、総則において「学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること」(発達の支援)と記載されたことも注目されます。「キャリア教育」という言葉が学習指導要領に明記されたのは初めてのことです。

「探る」「定める」「挑む」で
スパイラルに能力を伸ばす

具体的に、同校のキャリア教育は、どのような形で実施されているのでしょうか。

2014年度に手川校長が着任すると、まず、指導計画の作成に着手しました。第1学年を「探る」、第2学年を「定める」、第3学年を「挑む」と位置付け、総合的な学習の時間と特別活動で行っていたキャリア教育関連の諸活動について、かつての4領域8能力と対応させ、一覧できるようにしました(下表参照)。これにより、どの活動でどの能力を付けさせるのかが明確になり、3年間を見通して指導することが可能となりました。

規模が大きい高校の場合、教育活動は学年に所属する教員の「学年団」を中心に進められることが多いため、他学年とのつながりが意識されないこともしばしばあります。計画づくりの中心を担った兒玉健司教頭は「学年が上がるに従って、資質・能力がスパイラルに上昇していくよう、共通理解を図ることが重要です。各学年の教員がそれを意識すれば、3年間で生徒たちの力を着実に伸ばすことができます」と話します。

さらには、実践後の反省を生かし、次年度に向けてより良いものにしていく“手がかり”としても、3年間の指導計画は活用できます。教員一人一人が役割を担う「カリキュラム・マネジメント」の先駆けと言っていいでしょう。

2013年度から、千葉県内の県立高校では、本来は高校の教育課程にない「道徳の時間」を第1学年で年35時間、特活や総合などを活用しながら行っています。そのため、同校の「夢実現プロジェクト」を見ると、第1学年は、道徳に関連した活動が多くなっています。2016年度はNPO法人カタリバ(東京都杉並区)が実施するキャリア学習プログラム「カタリ場」を実施。生徒たちは大学生ボランティアと語らい、本音が十分に引き出された後、福沢諭吉作とされる「福沢心訓」を基に「私の心訓」を作り、自身のキャリアに対する意識を育みました。

また、キャリア教育の一環として位置付けられる主権者教育は公民科、ボランティア活動は家庭科と関連を図りながら進めています。とりわけボランティア活動は「船橋二和高校ボランティアチャレンジ」と銘打って、商店会の夏祭りや近隣の老人ホーム、福祉作業所に出向くなど、内容は多彩です。参加は任意ですが、書道部が書道パフォーマンスを行うなど、部活動単位での参加も行われています。「生徒の自己有用感を育む上でも絶好の機会となっています」と、手川校長は言います。

就職が内定した生徒を集めての「決意表明式」

一つの活動で多様な能力を伸ばす
面白がって取り組める先生へ

兒玉教頭はもともと中学校の教員でしたが、八千代市教育委員会の指導主事を経て、同校に教頭として赴任しました。

「高校の先生は良い意味でプライドを持っています。そうした先生たちに、キャリア教育の視点を『面白い』と思ってもらい、『もっと生徒の能力を伸ばそう』と考えてもらえるようにし、そうした視点からのカリキュラム・マネジメントで推進していくのが理想です。」

手川校長は着任後、グローバル時代を見据えて海外修学旅行を企画し、今年度から3泊4日の台湾旅行を実現しました。海外どころか飛行機に乗るのも初めてという生徒が少なくない中、現地学生ガイドとの班別研修は、コミュニケーション能力の重要性を痛感させる体験になったといいます。2017年3月で定年退職を迎えますが、「海外修学旅行をキャリア教育にどう位置付けるか、次年度以降の課題です」と期待を寄せます。

これから教員になろうとする人たちに対し、手川校長は「本校のキャリア教育のように、一つの教育活動をさまざまな形で意味付けしていかないと、パンクしてしまいます。日々の活動をただ消化するのではなく、子供たちの能力を伸ばすことを目標として一つ一つの活動に取り組める先生を目指してほしいですね」と話します。兒玉教頭は、「若手の頃、当時の上司から『学校にはロマン、スタッフ、カリキュラムが必要だ』と教えられました。その中でも、重要なのが“ロマン”であるような気がします。教育に“ロマン”を持ち、面白がって仕事をすれば、こんなに素晴らしい職業はありません」と話します。

教科なりの見方・考え方を働かせながら、カリキュラム・マネジメントとアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)を両輪として、「資質・能力の三つの柱」を育成する――新学習指導要領が目指す教育を実現していく上で、教員が担う課題のハードルは高いものがあります。しかし、そうした課題を解決する“宝”は、キャリア教育をはじめとする従来の教育活動の中にあり、日々の実践の中に埋め込まれています。そんな教師としての知見を、同校の実践が教えてくれているようです。

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