カリスマ教師の履歴書

File.24 建元 喜寿先生(筑波大学附属坂戸高等学校)

インドネシアの森で、未来の日本を背負う国際人を育てる

昨今、さまざまなメディアで「グローバル化」という言葉を目にするようになりました。今後、国際化する社会で暮らしていくために、子供たちは今、何を学ぶべきか。環境問題に携わりながら、グローバル人材の育成に取り組む建元先生の奮闘をご紹介します。

 

文・澤田 憲

 

ポテトチップスからグローバル化を考える

2014 年度より「スーパーグローバルハイスクール(SGH)※」の指定を受けた筑波大学附属坂戸高等学校では、未来の社会を創るグローバル人材の育成に力を注いでいます。とりわけユニークなのが「グローバルライフ」という授業。同校では、生徒全員が「卒業研究」を行う決まりになっていますが、自分一人で課題を見つけて研究を進めるのは、なかなか難しいもの
です。そこで専門領域に入る前の1年次に、「グローバル化が私たちの生活にどのようにかかわっているのか」を、家庭科と結びつけて考える授業を実践しています。

同校の農業科の教諭で、SGH 推進委員長も務める建元喜寿先生は、「国際感覚を養うためには、自分と世界の国々がどのようにつながっているのか、まずはそれを知ることが大切です」と語ります。

「例えば、私たちが普段食べているポテトチップス。あのポテトを揚げるためのパーム油は、インドネシアやマレーシアなどで採れるアブラヤシから作られています。他にも日本で使われている紙が、スマトラ島の木を伐採してできているなど、何十カ国もの人々の協力があって、初めて“当たり前の生活”が成り立っているのです。そのことを生徒たちには知ってもらいたいですね。」

こうした話を聞くと、いかにも敷居の高い実践のように感じますが、建元先生や生徒たちは至って自然体。2年次の最後に決定する卒業研究テーマを見ても、好きなアニメやゲームのキャラクターを通じて環境問題を考えるなど、自由で柔軟なテーマが並んでいます。

「私は岡山の田舎の生まれ。オオサンショウウオが出るような緑豊かな村で育って、ごく自然に動物や植物を大切にしたいという気持ちが膨らんでいきました。義務や責任からではなく、好奇心から研究を深めていく方が、成果が出やすいと思います。」

大学在学中は、森林保全に興味を持ち、特にスキー場開発と自然保護に関する研究に携わっていたという建元先生。研究を通じて生まれた「どうすれば環境問題をなくせるのか」という一つの疑問が、やがて教師として次世代の国際人を育てることにつながっていきました。

 

自分の体を使った“生の体験”が子供たちのエネルギーを引き出す

グローバルライフと並び、SGH 事業のもう一つの目玉が「国際フィールドワーク」です。同校では、「森林を100 年守るために、私たちにできることは何か」をテーマとして、毎年7名前後の生徒を選抜し、インドネシアに派遣、現地調査に取り組んでいます。

「SGH 指定校の多くは、海外派遣の際に、現地の施設やプロジェクトサイトの見学や日本での研究成果を発表することが多い。しかし、本校では現地の高校生とチームを組んで、実際に森の中に入って調査します。これが結構、過酷なんです(笑)。」

フィールドワークには、同校のほか、インドネシアの2校の生徒たちが参加。日本人だけで固まらないように7名ずつの3つの混合グループを作り、それぞれ「環境教育」「エコツーリズム」「地域開発」をテーマに調査・研究・発表を行います。

建元先生が「過酷」と言うように、その活動内容は実にアクティブです。例えば環境教育班は、現地の小学校で行われている環境教育を見学し、不足している点を検証。改善プランを作成し、最後はモデル授業を行います。エコツーリズム班は、地域のエコツーリズムの状況を調査・宣伝。地域開発班は、地元の市場調査と特産品を活用した商品開発に携わるなど、3週間
にわたって超実践的なプログラムが組まれています。

「最初は生徒が病気などにならないか、引率者としては不安もありましたが、思いのほか皆タフでしたね。参加後は、どの子も勉強する目的がより具体的になった気がします。大学に入学するためではなく、将来どのような仕事を通じて社会貢献するかということを考えるようになりました。実際、留学したり、海外で活動する卒業生も増えています。」

このようにインドネシアで“生きた学習”が実施できるのは、建元先生に青年海外協力隊への参加経験とそこで得た人脈があるからです。2008 ~ 10 年の2年間、先生は現職教員派遣制度を利用して青年海外協力隊のインドネシアの環境教育隊に参加。国立公園に勤務しながら、ごみ問題の解消やエコツーリズムのプログラム開発に従事していたと言います。

「自分が海外で学んできたことを、教育という形で子供たちに還元していきたいです。今の若者は消極的で内向きだと言われますが、それは彼らが現代の社会に適応した結果で、本質的な変化ではないと思います。子供たちのエネルギーを引き出すためには、大人ができる限り『生の体験』ができる場と機会を与えてあげることが大切ではないでしょうか。」

 

20 年後を生きる子供たちの未来のために

「最初は教師になる気なんてまるでなかった」と言う建元先生。その気持ちを大きく変えたのが、大学時代、研究では解決できなかった一つの疑問でした。

「僕が子供だった頃に比べて、科学技術は格段に進歩しているはずなのに、環境問題は一向になくなる気配がない。そのときふと、問題の本質は技術ではなく“人”にあるんじゃないかと思ったんです。」

いくら技術が発達しても、人の考え方や行動が変わらなければ、環境問題はなくならない。そのことに気付いたとき、初めて未来の社会を担う子供たちを育てる教師の道を意識したと言います。

「今の活動は20 年後への投資だと思っている」と言う建元先生。子供たちが40 代になり、社会の中心を担う世代になったとき、高校時代に国を越えて環境問題に取り組んだ経験があれば、もっと住みやすい世界を築いてくれるはずだと、期待しているそうです。

「インドネシアとは7年前から交流活動を続けています。高校時代は右も左も分からず苦労していた生徒が、卒業後、現地の大学に留学して、今ではフィールドワークの交渉や後輩の指導を買って出てくれるまでに成長しています。アメリカの大学で学んだり、ミャンマーやマレーシアで日本文化や日本語の普及活動に取り組んでいる子もいます。木々と同じで、知らない間に子供たちもたくましく育っていくんですね。」建元先生がまいた種は今、いくつもの大輪の花を咲かそうとしています。

 

※ 2014 度より文部科学省が開始した教育事業。高等学校などを対象に、将来、国際的に活躍できるグローバルリーダーの育成を行う。指定校では、グローバルリーダー育成に資する教育が行われ、社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力などの、国際的素養を身に付けるためのカリキュラムが実施される。

 

Profile
建元 喜寿(たてもとよしかず)
1973年3月10日生
1997年3月 筑波大学大学院環境科学研究科修了
1999年4月 岡山県立高松農業高等学校に赴任
2001年4月 筑波大学附属坂戸高等学校に赴任
2008年6月 JICA 青年海外協力隊でインドネシアに赴任
2010年4月 帰国、筑波大学附属坂戸高等学校に復帰(現職

座右の銘
心のままに行け、最後はきっとうまくいく

趣味
旅行・料理

 

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