教職感動エピソード

Vol.24 小さな学校の大きな挑戦

脇黒丸 悟(鹿児島市立中山小学校長)

 

小さな学校でもできる何かを

2004 年,初任校に25 年ぶり2度目の赴任をしました。新任教諭時代の思い出を胸に校長として赴任した小学校は,児童数30 名の極小規模校になっていました。小さな学校でも何かできないだろうか,子供たちが自信を持って困難に立ち向かう心を養える手だてはないかと考える日々。そんな時,市の青年会議所が竹の産地であることを生かし,3カ月後に「竹馬」で世界ギネス記録に挑戦するので協力してほしいという話が舞い込んできました。すぐにでも手を挙げたい気持ちでしたが,挑戦するのは子供たち。時間も足りない気がして迷っていました。しかし,その背中を職員と子供たちの「挑戦したい」の言葉が押してくれました。心は決まりました。

 

竹馬の練習スタート

早速,主催者提供のキットで竹馬づくりが始まりました。ギネスへの挑戦では,子供でも大人と同じ規格の竹馬に乗らなければなりません。作りながら,太い竹に不安を感じました。この挑戦は,竹馬で一斉に歩き,100 mの達成者数を競うもので,世界記録はカナダの544 人という情報が入っていました。主催者は記録更新を真剣に考え,挑戦する人数を1,000 人以上と定めていました。そこに30 人の子供たちが入るのです。ギネス記録の達成感を味わうには全児童が一度も地面に足を着かずにゴールしなければなりません。市内の学校の中で,一番目に挑戦を決め,特訓を始めました。挑戦を聞きつけた新聞社が取材に来るようになると,子供たちは戸惑いつつも,やる気に火を付けられたようでした。

少しなら竹馬に乗れるという人は多いと思います。しかし,乗れると思っていた私も,小学生の時以来,久しぶりに乗ってみると10 mは歩けるものの,100mはかなり大変だと気付きました。

「しまった。この挑戦は無謀ではなかったか。」

しかし,もう後戻りはできません。前進あるのみです。運動が得意な子供ばかりではありません。初めから尻込みする子や,竹馬に触るのも初めてという子もいました。暗雲が立ち込めます。校庭に距離数を書いた板を設置し,目標を持たせて挑戦させました。教員もつきっきりで指導です。どんどん上達する子がいる一方,どうしてもうまく乗れない子もいます。いかにして意欲を持続させるかにも腐心しました。そうこうしているうちに,練習風景をテレビが全国ネットで生放送することになりました。学校にとっても,子供たちにとっても,嬉しいというより,どうしようという心配の方が先に立ったと思います。しかし,そのお陰で多くの人たちに知られることとなり,子供たちの気持ちが前を向き,練習が活発化していきました。

 

練習の輪が広がって

練習を重ねるうちに,1,2年生でも高学年よりうまく乗りこなす子や,校庭を20 周できる子も出てきました。一方で心配だったのは,やはり運動の苦手な子供です。5年生のA君は,とてもおとなしい真面目な子供です。竹馬から落ちて足を擦りむき涙を流しながらも,練習をやめようとはしませんでした。校長一人の思いから,ここまでさせてよいのだろうかと心が痛みました。そんな折,A君のお母さんが立ち上がりました。早朝練習に付き合うと同時に,自分もギネスに挑戦したいと申し出られたのです。すると,その輪は同級生のお母さん,お父さんに広がり,みんなで挑戦しようという雰囲気が自然と生まれてきました。

朝夕の親子練習が,梅雨期の雨風の中,休むことなく続きました。「子供は大人が言うようにはしないが,するようにはする」と言われます。苦手としていた子供たちも,自分の親が雨の中で歯を食いしばって練習する姿を見て,一日一日と距離を伸ばしていきました。約2カ月が過ぎた頃,私が初任の時の保護者で,子供たちのおじいちゃん世代の方々も練習に加わり,賑やかになりました。山から竹を切り出し,自動車を跨ぎ越せるほど高い竹馬を作って堂々と登場し,竹馬の楽しさを教えてくれたりしました。

地域を巻き込んだ挑戦にも,容赦なく月日は過ぎていきます。大会2日前になっても100 mにわずかに届かない子供が数人。努力が実らず辛い思いをしていました。

 

挑戦の日

不安の中,ついに挑戦の日。会場を埋め尽くした参加者約1,000 人は緊張の中,スタートを待ちました。挑戦は2回。私たちは,1回目でなければ子供たちの集中が切れてしまい,ギネス新記録はないだろうと予測していましたので,どの参加者よりも真剣だったと思います。目指すはもちろん,ギネス記録。全児童が途中で1回も足を着くことなく100 m完歩し,達成感を味わうことのみです。応援団の見守る中,いよいよスタートしました。みんな,これまでの努力を無にしないよう研ぎ澄まされた感覚で,一歩一歩進みました。私の隣を歩くのは,一番苦労していたお母さん。余裕がありそうだった人々が落ちていく中,ゆっくり確実に進んでいきます。先にゴールした人たちが,いつの間にか駆け戻り,ふらふらと竹馬を進める子供に寄り添っていました。竹馬を進める子も寄り添う人も,あの雨の日,雨か涙か分からずびっしょりに濡れた状態で,手足にマメを作りながら練習したことを思い出していたことでしょう。結果,大人数人が落ちてしまいましたが,なんと子供たちは一人も落ちることなく全員ゴールしたのです。

そして,「1回目の記録を申し上げます」という放送が入りました。

一瞬,静まり返りました。

「ただ今の記録は614 人。ギネス新記録です。」

放送が終わらないうちにワーと地響きのような声が沸き上がり,そこにいた者同士で手を叩き,抱き合って喜び合う姿に,鳥肌が立ったことを覚えています。その後2回目のチャレンジも行われましたが,好記録は1回目でした。

数カ月後,青年会議所の代表が,学校にイギリスのギネスワールドレコーズ社発行の認定証のコピーを届けてくれました。どの子供たちにとっても,努力は裏切らないことを実感した挑戦だったと思います。

 

自信を糧に新たな挑戦

この挑戦を皮切りに,校庭に反射鏡を持って寝転がって作った人文字を,陸域観測技術衛星「だいち」が上空700km の宇宙から撮影するチャレンジに挑戦,「はんや全国大会」(「はんや」と呼ばれる曲に合わせて踊る大会)優勝,さらに子供たちの作文によって競泳の北島康介選手(北京オリンピックで金メダルを取る前)が学校を訪ねてくれる企業プロジェクトの開催校にも選ばれ,屋外の小さなプールで世界の泳ぎを見る機会を得ることができました。。

小さな学校だからこそ,一人一人の役割も大きく,真剣な取り組みが求められます。みんなの力を合わせ挑戦,努力する素晴らしさを教えられた経験でした。

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