学校不祥事の顛末

児童に「窓から飛び降りてもらう」と暴言

【今月の事例】
児童に「窓から飛び降りてもらう」と暴言
A県B市の市立小学校で、40代の男性教諭が、男子児童に「窓から飛び降りてもらう」などと暴言を吐き、市教育委員会から文書訓告の処分を受けていたことが分かった。市教委によると、教諭は保護者参観が行われた道徳の授業前に、3階の教室で児童らとゲームをし、「次は勝ちます」と言った男子児童に「先生に勝てなかったから飛び降りてもらおうかな。冗談だけど」などと言ったという。参観のため集まっていた保護者ら約10人がやりとりを聞いていた。授業後に指摘を受け、教諭はその場で謝罪したという。

 

【法律家の眼】

見誤った相手との距離感
職場のパワハラにも通じる問題

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 保護者からの苦情が多い教員の「暴言」

今回は、保護者のいる前で、児童に対し「窓から飛び降りてもらおうかな。冗談だけど」と述べたことにより、訓告処分を受けた事例を検討します。
男性教諭の認識としては、児童らとのゲームの中で冗談として述べたものだったのでしょう。しかし、それを聞いた保護者はどう思うか、児童はどう思うかといった意識が、全く欠如していたと言わざるを得ません。
話し手と聞き手の受け止め方の違いからくる、教員のいわゆる「暴言」については、保護者からの苦情が多いものの一つだと思われます。何気なく言った一言が原因で、「担任を外してほしい」といった苦情がくることもあれば、児童生徒が不登校に陥る原因になることもあります。「悪気はなかった」では済まされないことを、改めて自覚する必要があると思います。

 

2 訓告処分

教員が、児童生徒に恐怖を与える、侮辱するなど精神的苦痛を与える言葉(=暴言)を述べた場合、状況によって不適切な指導として処分される可能性があります。本事例では、保護者のいる前で、窓から飛び降りるという、「死」を連想される発言を堂々としたわけです。そうしたことから、不問に付されることなく、訓告処分がなされたものと推測されます。
地方公務員法には、懲戒処分として「戒告」「減給」「停職」「免職」の4つが定められています。こうした懲戒処分にまでは至らないものの、問題のある非違行為があった場合に下されるのが、本事例の「訓告処分」です。

地方公務員法第29条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一  この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

 

3 相手との距離感〜パワーハラスメント

男性教諭には、児童がこうした発言を聞いてどう思うかといった視点が欠けていましたが、同様の問題は職場のパワーハラスメントの局面でも見られます。

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。

(厚生労働省Webサイト「明るい職場応援団」より)

ここで言う「職場での優位性」とは、上司・部下、先輩・後輩を含む、さまざまな上下の優位関係を言います。教員自身に児童生徒に対する優位性の自覚が足りない場合、その教員は上司や部下などの人間関係や距離感に対する感度も低下している可能性があります。
例えば、パワーハラスメントが問題となる事案で、パワーハラスメントをしている当事者にその自覚が全くないというケースは大変多く見られます。相手との関係、本当の距離感を客観的に見定められないことは、職場のパワーハラスメントにつながる恐れもあるわけです。児童生徒への暴言と職場のパワーハラスメント、全く局面が異なるようでいて、実は通底する部分もあることを心に留め、常に他者との関係性を客観的に見られる教員を目指していただきたいと思います。

 

 

【教育者の眼】

教師の言動が子供の“範”となることを
忘れてはならない

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■いじめを連想させる言葉

男子児童が「窓から飛び降りてもらう」と言われた── この話だけを聞いた皆さんはどんな状況を思い浮かべるでしょうか。現職の教師はもちろん、教師を目指す皆さんも、「きっと児童間の“いじめ”に違いない」と考えることでしょう。
本題に入る前に、いじめ問題について触れたいと思います。今日、いじめ問題は大きな教育課題の一つです。文部科学省が2016年10月に公表した「平成27年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査結果(速報値)」によると、いじめの認知件数は22万4,540件に上り、1985年度の調査開始以来、最多となりました。教育に携わる者はもちろん、その他多くの人たちもこの数値には驚きを覚えることでしょう。積極的な認知が行われたという側面があるにせよ、解消に向けた対応をどの学校でも早急に行わなければなりません。
いじめ問題については、学校の対応の不備から深刻な状況に陥ってしまうケースが少なくありません。そうした報道等を見るにつけ、教育に携わる者としては、早期発見と早期対応等の重要性を改めて再認識します。学校は、子供たちにとって安全・安心な場所でないといけないはずだからです。

 

■教師の言動は子供たちの“範”となる

さて、冒頭の「窓から飛び降りてもらう」という言葉ですが、この言葉を言い放ったのが教師だというのですから驚かされます。いくら「冗談」だとしても、許されるものではありません。真に受けた児童が窓から飛び降りてしまったら…などと考えると、凍りついてしまう思いです。
教師の言動は、常に子供たちの“範”となっていることを忘れてはなりません。決して模範的ではない言動も、子供たちはその様子を見て真似をします。不適切な教師の言動が、子供同士の間で広まり、それが他の子供の心を傷つけることもあります。そうした教室の雰囲気が、いじめを生み、生命に関わる事態になったりするということを、教師たる人は覚えておいてほしいと思います。
本来であれば、子供がそうした言葉を吐いた際、毅然とした態度で指導をし、望ましい人間関係を築いていくことが教師のあるべき姿です。子供たちの人間性を高めるために“教え導く”という教師としての自覚と使命感を忘れてはいけません。
本事例のような軽率な言動が、子供や保護者、地域の方々から学校や教師に対する信頼を崩してしまう可能性があるのです。服務上の義務に違反した場合の「懲戒処分」には至りませんでしたが、「文書訓告」の処分が出されたのは当然でしょう。
本事例については、子供の生命に関わる問題ではないことから、重大視しない人がいるかもしれません。確かに、子供が真に受けて飛び降りたというわけではありませんが、子供たちにとって、教師の言葉は絶対的なものです。「冗談だった」では済まされないことを肝に銘じてほしいと思います。

 

■求められる深い教育観

本事例は、保護者参観の日の出来事です。そのため、その様子を見ていた保護者から指摘があったわけですが、この教諭は普段から、子供たちにそうした言葉を投げかけていたのではないかと推測されます。教諭の言葉からは、クラスの子供たちとの距離を縮め、同じ目線で振る舞うことで、親しい関係性を作ろうとしていた様子が伺えます。だからこそ、保護者参観の場で、何の抵抗もなくそうした言葉が出てきたのでしょう。そうしたパフォーマンスに頼った指導は、上辺だけの教育観によるものであり、教師たる人にはもっと深い教育観を持ってほしいと思います。
どの自治体も、教員採用選考で「求める教師像」として
・健康で明るく人間性豊かな教師
・教育に対する情熱と使命感を持った教師
・幅広い教養と専門的な知識・機能を備えた教師
などを掲げています。
教職を目指す皆さんは、「子供たちの夢と希望、そして生命を預かる」使命感と自覚を持ち、謙虚な姿勢で学び続けてほしいと思います。

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