カリスマ教師の履歴書

File.23 小原 格先生(東京都立町田高等学校)

生徒が学ぶ気持ちになる“仕掛け”を作ること

現行の学習指導要領解説の作成協力者であり、次期学習指導要領改訂のための情報ワーキンググループの委員を務める小原格先生。「これからの教師の役割は知識を授けるだけでなく、生徒が前向きに学ぶ“仕掛け”を作るコーディネーターでなければならない」と言います。そんな小原先生に、これからの子供に求められる資質・能力や仕事への思いをうかがいました。

 

文・平野 多美恵

社会でも必要とされる問題解決力まずは“発見”することが必要

「情報の授業というと、パソコンに向かってワードやエクセルなどのアプリケーションを使って作業を行う姿を想像する人が多いのではないでしょうか。そうした技能を身に付けることも大切ですが、これからの情報の授業に求められているのはコンピュータを使って“問題解決”を図る力の育成です。今後、人工知能であるAI の活用が進んでも、最終的に判断するのは人間だからです。」

そう語る小原先生ですが、自ら問題を発見し、解決していく力を持った生徒は少ないと指摘します。今の高校生は、問題の発見方法や段取り、解決の仕方を教わっていないし、経験してきてもいない。一方で、教科の学習内容は難しくなり、予習復習が欠かせなくなっている。課題も出るし、部活動や行事も多い。そうした状況において、優先順位をつけ、段取りをして、取り組んでいく力は必要不可欠です。社会に出てからも必要となるそうした力を、情報の授業で学んでほしいというのが小原先生の考えです。

そのためには、まず問題を発見できるようにならなければいけません。小原先生は、「問題とは理想と現実のギャップ」であると定義します。ギャップを考え、具体化していくことが問題の発見につながるのです。

小原先生の授業では、こうした問題の発見の他、解決に必要な発想法、整理の方法、表計算ソフトの使い方、情報のデータベース化や集計方法などを、順番に学んでいきます。授業には、例えば「バーベキューで、4人のグループでカレーを作る」といった具体的なテーマを与え、作業の内容、効率的な手順、かかる時間、役割分担をシミュレーションするものもあります。

「グループワークでは、できる生徒ばかりが取り組み、できない生徒は傍観しているという状況がよく起こります。それを防ぐにために、まずは全員に最低限必要な知識を与えます。その上で、カレーづくりのようなシミュレーションを行い、生徒同士が役割を分担し、グループ全体が協力しながら取り組んだ方が効率的であることを経験させることが大切です。」

1学期は情報活用や問題解決のための基礎を、2学期はアンケート学習等グループワークを通じた問題解決能力の基礎を培い、3学期には総合実習として課題解決学習に取り組みます。課題解決学習では、生徒がグループごとに“問題”を設定し、その解決方法を探り、プレゼンテーションします。各自が役割を分担して、主体的に作業を進めていく様子からは、1年間の成果を十分に感じ取ることができます。

 

初任校で求められたプロ教師としての自覚

小原先生は大学で高等学校・数学科の免許を取得し、教師の道を歩み始めました。当時は教科としての「情報」はなかったものの、情報処理教育が注目され始めた時代。大学で統計学を学んでいた小原先生はコンピュータに興味を持ち、友人とプログラミングに取り組むなど、独自に知識と技能を深めていました。

初任地となった離島では、コンピュータを使ってグラフを作成するなど、数学の授業で情報教育を行いました。「インターネットが登場したばかりだったので、島民を対象にパソコンの公開講座なども開催しました」と、当時を振り返ります。

「先輩から『島は教育の原点だ』と言われていました。約3年の周期で先生が異動する中、生徒も島民も、『この先生は何をしてくれるのか』という期待を持って教師を見ています。プロとして生徒に何を教えられるのか、教師としての自分が試される場でした。また、これまで育った環境とは全く異なる環境に身を置いたことで、人間的な幅も広がりました。非常に良い経験ができたと思います。」

その後、高等学校に必修教科「情報」が誕生し、小原先生は2000 年に講習を受けて免許を取得します。

「コンピュータを“使いこなせる”だけでは時代にそぐわないと、当時から思っていました。大事なのはコンピュータを使って“何をするか”です。この“何”の部分を見つけ出し、実践していくことが、情報活用能力であると考えていました。」

コンピュータを使った問題解決の重要性は、「情報」が教科になった当時から、小原先生が考えていたことです。そして今後は、情報の科学的理解を深めることの重要性を感じていると小原先生は言います。情報手段の特性や理論、仕組みを理解していなければ、問題が起きたときにその本質を見誤るからです。

 

生徒の学ぶ力の大きさから“仕掛けづくり”の大切さを再確認

長年にわたり情報教育の第一線を走ってきた小原先生。やりがいを感じるのは「生徒が自分で考え、学習して達成感を得た表情を見せたとき」だと言います。とはいえ、生徒に任せきりではだめ。生徒が自分で考えて行動したかのように思わせる“仕掛け”を、教師が作らねばならないと考えています。そのためには、「教師自身も変わらなければならない」というのが小原先生の信条です。

1年生の2学期に行う「情報のデジタル化」の単元は、内容が高度なために教材の工夫を繰り返しても、毎年「分からない」という声が上がっていました。どうしようかと考えた末に、小原先生は思い切って「反転授業」をすることにしたのです。

まず、自身の授業を動画撮影し、副教材として作ったスライドと併せて、生徒が自分自身で学習できる環境を整えました。その上で、授業で生徒たちに問題を提示し、「今日の授業の目標は、全員がこれを解けるようになること。そのための動画や資料を用意したから、分からないところは積極的に教え合って理解しましょう」と指示しました。

最初はポカンとしていた生徒たちも、動画や資料を見て、生徒同士で教え合いながら問題に取り組みました。期末テストでは、前年よりも大幅に平均点がアップしていたそうです。

「驚いたのは授業の後です。普段は授業内容と関係ないことを話しながら教室を出ていくのに、反転授業の時は『あの問題はここがポイントだったんだね!』と授業のことを話していました。生徒の学ぶ力に驚くと同時に、生徒が“深い学び”をできる仕掛けづくりの大切さを改めて実感しました。」

座学と板書だけで知識を教え込む「トーク・アンド・チョーク」の授業は、遅かれ早かれ変わらざるを得ないだろうと小原先生は言います。とはいえ、小原先生のように“仕掛けづくり”ができるようになるには、指導力や発想力、生徒との信頼関係も必要です。

「若い先生には難しい面もあるでしょうが、ベテランの先生の授業を見て、集中していない生徒に対してどんな仕掛けを作っているかを学ぶとよいと思います。そして、『生徒が分かるようになるには、どうしたらよいか』という視点で、自ら変わる勇気を持つことが大切です。そうした向上心こそが、これからの教師に求められています。教師を目指す皆さんにも、向上心とプライドを持って、良い授業、良い仕事をしてほしいですね。」

 

 

Profile
小原 格(おはらつとむ)
1966年6月1日生
1992年3月 大学卒業
1993年4月 東京都立新島高等学校に赴任
2000年4月 東京都立町田高等学校に赴任(現職)

 

座右の銘 塞翁が馬、自信とプライド

趣味 旅行、写真撮影、音楽

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