教職感動エピソード

Vol.23 「こころふれあい写真館」が紡ぐストーリー

藤本 義彦(山口市立大歳小学校教頭)

 

 

「〇〇くん、ゆうさん、ご結婚おめでとうございます。ご紹介にあずかりました、私はゆうさんが小学校6年生のときの担任、藤本義彦と申します。」

この日は教え子・ゆうの結婚式。テーブルのメッセージカードには、「今日はスピーチありがとうございます。先生と一緒にやった“総合”、濃かったです。感動をありがとうございました」の文字。思わず微笑んだ私。当時のことをふと、感慨深く思い出しました。

14 年前、萩市内の小学校に着任した私は、6年2組の担任になりました。多くの先生を悩ませてきた、問題の絶えない学年であることは耳にしていましたが、現実は私の予想をはるかに超えたものでした。

「あんたのような熱血な人を見るとヘドが出る」「先生、私の席を教室の隅にして、目立たないようにしてください」…初日に書かせた日記から溢れ出る、子供らしからぬ声にがく然としました。その時、子供たちと本気で、こころとこころでぶつかり合っていくことを決めたのです。

子供たちとの紆余曲折を経て、あるとき、総合的な学習の時間に「先生、萩を元気にさせよう」という子供たちの声から、パンフレットにも本にも出ていない「すてきな萩」を探して写真に収め、展示することになりました。子供たちのアイデアから生まれたその写真館の名前は「萩まちかど写真館」。

真冬の寒い中、電気も暖房もない有備館(国史跡、旧萩藩校明倫館の藩士の槍剣術道場)にて、たくさんの困難をみんなで乗り越えながら初めての写真館を開きました。学校から飛び出し、本当の「まちかど写真館」を他校や商店街でも開きました。外は寒いのに、子供たちと一緒にこころのぬくもりを体一杯に感じ、みんなで涙を流しました。

それから2年後――私は6年1組の担任として32名の子供たちと出会い、再び写真館が開かれることになりました。この6年1組の子供たちの中に、「ゆう」と「こうたろう」がいました。

今度の写真館の名前は「こころふれあい写真館」。「背中越しのあたたかい普段着の萩を写真に撮ってみたい」「僕たちにしか撮れない萩の表情を撮って、写真館で見てもらいたい」…子供たちの思いは膨らんでいきました。写真館の活動を通し、自分が思ったことや感じたことを、「今の自分の言葉」で伝えたり受け取ったりすることで、ふるさとの良さと共に自分自身のこころの成長を実感していくことが大きな目的です。

ところが、学習が進んでいく中で、集中もせず、おしゃべりばかりしている「こうたろう」という子がいました。この子とは、学期の初めからずっと衝突していました。口も手も出してしまう子で、大人もたじたじです。ある日とうとう堪忍袋の緒が切れました。

「それなら、総合をするな!」。私が言い放つと“待ってました!”とばかりに「するかあ!初めからこんな総合嫌じゃったから」と教室を飛び出していきました。ひっつかまえて、またまた衝突です。暴れるこうたろうと何十分言い合ったでしょうか。落ち着いた彼の頭をなで、「こうたろうは、先生にどうしてほしいんかあ」と尋ねました。すると、ふっと子供らしい表情を見せたこうたろうは、涙ながらにこう言いました。

「先生は僕に、ああしろ、こうしろと言うばかりで、僕の言うことを一つも聞いてくれん。」

言われてみれば、時間に追われる中で、つい子供たちのこころの声を聞こうとしていなかった自分に気付きました。「ごめんな、こうたろう」、私は彼をぎゅっと抱きしめました。「うん」とうなずいたこうたろうの瞳には涙がひとしずく光っていました。

その日、こうたろうは、図工室へ行って木材を数本持って帰りました。翌日、雨の中、こうたろうは誇らしげに、大事そうに何かを抱えて学校に来ました。「行灯」です。「これどうしたんか?」と尋ねると、「写真館の照明用に作りました」と言います。隣家のおじさんにのこぎりを借り、古木に見えるように絵の具で塗って作ったそうです。明かりはクリスマスツリーの豆電球でした。こんなにあったかい行灯を私は初めて見ました。これ以降、こうたろうはリーダーとしてみんなをまとめていくようになりました。

「いろんな仕事の人の手を撮ってきたよ。“手のぬくもり”の中にすてきな萩があったよ」「朝の市場の様子を撮ったよ。潮の香りや温度まで届けたいなあ」「おじいちゃん、おばあちゃんの笑顔を撮ってきたよ。自分たちがこころを開かないと相手もこころを開いてくれないんだね」「照明や飾り方を研究するため、美術館へ行ってみたよ」…額に汗をかきながら、一生懸命に活動報告をしてくれる子供たちがいました。

2年前の卒業生も活動を支えてくれました。「照明(工事用の照明)はね、下から当てると影ができてしまうよ。こっちに来てごらん」「電気コードが一杯垂れているよ。お客さんがつまずいたらどうするんだい?これも思いやりだよ」…。こころのネットワークが紡がれ、広がっていきました。

子供たち、先生、保護者や地域の方々、観光客を招いた国史跡有備館での写真館。さらに、学校を出て商店街で「こころふれあい写真館」を開きました。最後のお客さんは、84 歳のおじいちゃん。子供たちにこんな言葉をかけてくださいました。

「みんなを見ちょると、昔の子供を思い出すんよ。言葉がきれいで、気配りができる。こんな子供たちがいるんなら、私ももう少しがんばろうと思うたよ。長生きしようと思ったよ。幸せを分けてもらったよ。ありがとうね。」

写真館の活動の中で、ゆうは写真がより引き立つよう、背景にするシーツをタマネギで染め上げていました。それは、やさしい「ゆう色」の布地でした。写真館が終わったとき、ゆうはこう綴っています。

「わたしたちの萩は、今のままでいいです。今のままでも十分いいし、何よりもこころがあふれています。笑顔いっぱいの萩が大大好きです。6の1も大好きです。何事にも挑戦し、やりとげるところがいいです。みんなのこころの糸やネットワークはつながっているので安心です。」

今日はゆうの結婚式。当時書いていた学級通信「エール」を模して、当時のゆうの様子を記した“ゆう特別号”を作成してプレゼントしました。そして、最後にこうスピーチしました。

「…先日、ある雑誌の原稿を頼まれました。タイトルは『教職感動エピソード』です。“こころふれあい写真館”が、紡いでくれた感動のストーリー。私は、あの日の温かい思いを原稿にします。そして ゆう、君に届けます。今日は結婚おめでとう。」

ゆうの頬に、やさしい涙が光っていました。

元旦、ポストを見ると、今年も「こうたろう」から年賀状が届いていました。相変わらず一筆も書き添えられていませんが、ふるさとを離れてがんばっているのだなと感じます。

私のこころの中の写真館。年を重ねていくごとに、映る景色が変わっていきます。私のこころの成長といっしょに。

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