学校不祥事の顛末

動物を生き埋めにした教諭を処分

【今月の事例】
動物を生き埋めにした教諭を処分
A県教育委員会は、学校の敷地内で産まれたとみられる子猫を校内に生き埋めにしたとされる県立高校の男性教諭(36)を同日付で停職3カ月の懲戒処分にしたと発表した。県教委によると、この教諭は自分が管理する農場にある温室内で、野良猫が産んだとみられる子猫5匹を殺処分した。その際、理由を告げずに生徒3人に穴を掘らせるなどの作業を手伝わせた。県教委に対しこの教諭は「放置しておくと生きていけないだろう。その日のうちに何とかしないといけないとの思いからだったが、残酷なことをした。生徒にショックを与え反省している」と話しているという。

 

【法律家の眼】

教師に欠けていた
命への慈しみと人としての成熟

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 社会に衝撃を与えた事件

この事件は当時、全国ネットのニュースでも取り上げられたため、皆さんの記憶に残っているかもしれません。校内にいる子猫をどうすればよいかという問題について出した答えが、「生徒に穴を掘らせて生き埋めにする」であったことは、大変ショッキングでした。当該生徒の心の傷も計り知れませんが、生徒・保護者・社会から失った信頼もまた、取り返しがつかないものでしょう。
動物愛護は、「動物を大切に取り扱いましょう」といった表面的な意味ではなく、命への慈しみを通して、人としての成熟、ひいては友愛への広がりを含めた広い意味でとらえられるべきものです。男性教師には、こうした視点が決定的に欠けていたと言わざるを得ません。

 

2 動物愛護法とは

(1)動物愛護の考え方
環境省が発表している「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」における基本的考え方は、教師を目指す皆さんにとって示唆に富む内容です(環境省WEBページ参照)。以下に、その冒頭部分を載せておきますので、じっくり読んでみてください。

「動物の愛護の基本は、人においてその命が大切なように、動物の命についてもその尊厳を守るということにある。動物の愛護とは、動物をみだりに殺し、傷つけ又は苦しめることのないよう取り扱うことや、その習性を考慮して適正に取り扱うようにすることのみにとどまるものではない。人と動物とは生命的に連続した存在であるとする科学的な知見や生きとし生けるものを大切にする心を踏まえ、動物の命に対して感謝及び畏敬の念を抱くとともに、この気持ちを命あるものである動物の取扱いに反映させることが欠かせないものである。
人は、他の生物を利用し、その命を犠牲にしなければ生きていけない存在である。このため、動物の利用又は殺処分を疎んずるのではなく、自然の摂理や社会の条理として直視し、厳粛に受け止めることが現実には必要である。しかし、人を動物に対する圧倒的な優位者としてとらえて、動物の命を軽視したり、動物をみだりに利用したりすることは誤りである。命あるものである動物に対してやさしい眼差しを向けることができるような態度なくして、社会における生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養を図ることは困難である。」

 

(2)違反行為と罰則
動物愛護に関しては、2016年の改正により、罰則が強化されました。野良猫であれペットの猫であれ、虐待等をすれば動物愛護法違反となり、罰金刑・懲役刑が定められています。

動物の愛護及び管理に関する法律
第44条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、2年以下の懲役又は200 万円以下の罰金に処する。(第2項・第3項・第4項略)
※愛護動物:(飼い主がいるかどうかにかかわらず)牛・馬・豚・めん羊・山羊・犬・猫・いえうさぎ・鶏・いえばと及びあひる、(飼い主がいる場合の)ほ乳類・鳥類・は虫類に属する動物をいう。

 

3 職務との葛藤

男性教諭は、農場にある温室の管理を担当していました。実習などで温室を使用するため、子猫をどうにかしなければならないという気持ちがあったのかもしれません。
しかし、解決の手段として生き埋めを選択したということは、「職務のため不要なものは単に排除すればよい」「見なかったことにすればよい」という考え方に通じます。本当に大切なものは何なのかを考えない短絡的な姿勢が、今回の事件の本当の原因ではないでしょうか。
社会に出れば、答えのない問題に直面することばかりです。教師としてだけでなく、人として、目先の問題を単純に解決しようとせず、本当に大事なことは何かを常に問いかけ、「自分の芯」をしっかり持つことが肝要です。

 

 

【教育者の眼】

生命の大切さを教えるべき学校で起きた
信じがたい出来事

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■「教育は人なり」を忘れるべからず

本事例では、教師が校内で子猫を見つけたというケースですが、実際によくあるのは、小学生の児童が登下校時に飼い主のいない子猫や子犬を見つけ、担任の先生等に「学校で飼ってあげたい」などと連れてくるようなケースです。学校で子猫や子犬を飼うことは、校内に十分な環境が整っていないことなどから、実際には難しいものがあります。しかし、「学校で飼ってあげたい」という子供の気持ち自体は、くみ取ってあげたいものです。動物を飼うことは、子供たちの生命を尊重する心情や態度を養うとともに、他人を思いやる心など、望ましい人格の形成にもつながるからです。
教師になれば、実際にこのような状況に直面することもあるでしょう。その際は、子供たちの気持ちをくみ取りつつ、管理職に報告・相談し、指示を仰ぐことが先決です。その後、「命の大切さ」や「動物を飼うことの意義や正しい飼い方」などを教えられる良き機会ととらえ、「心の教育、命を大切にする教育」を実践してほしいと思います。「教育は人なり」を忘れてはなりません。

 

■教師は子供たちに「命の大切さ」を教える立場

本事例の教諭は、「放置しておけない」「その日のうちになんとかしなければ」と考え、生まれたばかりの子猫を生き埋めにするという、信じがたい行動に出ました。学校は、道徳の時間などを通じ、「命を大切にする教育」を全校体制で行っている所です。子猫の命を絶ってしまう行為は、教育者としてあるまじきことであり、非道なものと言わざるを得ません。
加えてこの教諭は、何の理由も説明しないまま、生徒に生き埋めにする作業を手伝わせています。「命を大切にする教育」を行うべき教師が、生徒にそうした行為を行わせたことの罪は大きく、停職3カ月の懲戒処分は当然の措置と言えるでしょう。
事件後、起きた出来事を伝えられた生徒たちは、どう思ったことでしょうか。保護者や地域の方々は、どのように考えたでしょうか。さらに、穴掘り作業を手伝わされた生徒は、どんな気持ちだったのでしょうか。その影響は計り知れないものがあり、生徒たちには心のケアも必要となってくることでしょう。
この教諭は、なぜ生き埋めという結論を出してしまったのでしょうか。そして、なぜ生徒たちに穴掘り作業を手伝わせたのでしょうか。疑問点は残りますが、教育に携わる者としては残念でなりません。学校や教職員が失った信頼の代償は極めて大きく、信頼回復に全力を注がなければなりません。

 

■組織の一員としての自覚と獣医師会との連携

学校は、教育活動の充実に向けて、組織体で活動しています。本事例のような状況に直面し、どう判断したらよいか悩んだ場合、一人で解決しようとしてはいけません。必ず管理職に報告・相談をして指示を仰ぎ、学校としての方針の下、対応していくことが求められます。教職員は常に“組織の一員”であることを自覚し、共通理解、共通指導、協働体制の下に子供たちを指導していくことが大切です。もちろん、児童生徒への対応・指導に当たっては、その心を傷つけることのないよう十分な配慮が必要です。
近年、自治体の中には地元の獣医師会と協力し、学校飼育動物への支援体制を整えている所もあります。そうした自治体では、報告・相談を受けた管理職が、教育委員会や獣医師会などからの指導や助言の下、適切な対応を行っています。(学習指導要領解説書生活科編に学校における動物飼育について「動物の飼育に当たっては、専門的な知識をもった地域の専門家や獣医師などの多くの支援者と連携して、よりよい体験を与える環境を整える必要がある」と示されています。)教職を目指す皆さんは、教育者として子供たちに深い愛情を持つと同時に、組織の一員としての自覚も持って、謙虚に学び続ける姿勢を大切にしてほしいと思います。

 

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