教師の本棚

『ツバキ文具店』

小川 糸=著
2016年/幻冬舎
¥1,400+税

「代書」を通じて描かれる人生の悲喜交交

遠江 久美子(東京都町田市立鶴川第二中学校教諭)

本書の主人公は、鎌倉の一軒家に住む雨宮鳩子。雨宮家の家業は「代書屋」。「ツバキ文具店」という看板を揚げ、表向きは町の文具屋ですが、本筋はあくまでも「代書屋」です。鳩子に持ち込まれる代書の仕事の詳細が描かれていますが、それが抜群に面白く、のめり込んでしまいます。中でも金を無心した相手への拒否状や長年付き合ってきた女友達への絶縁状は、とても真似ができないくらいの素晴らしさです。鳩子は書の師匠である祖母に育てられますが、厳しいだけの人と思ってきた祖母の苦悩を友達に宛てた手紙の中で知ります。初めて祖母の心に触れ、鳩子の心は満たされていきます。

この本を閉じた瞬間、私の目の前に現れたのは、これまでに我が家のリビングテーブルの上に置かれた何枚ものメッセージカードでした。それらは全て娘から受け取ったものです。悲惨な事故で新車をペチャンコにされ、落ち込んでいた私がもらった「失ったものが、買えるもので本当に良かった」のカード。まるで、心に栄養ドリンクが注入されたようでした。ある年の母の日は、「お母さんは教師としても母としても頑張り過ぎ。もっと肩の力を抜いて」とありました。このカードは、心のマッサージ効果が抜群でした。私自身が競技者としてやっているバドミントンの全国大会で思うような結果が出ずに負けた時は、「勝った時より負けた時の方が得ることが多い」と書かれていました。このカードを受け取った時は、娘にやられた感で一杯。いつのまにか親子が逆転していました。

私も、娘が中学生の時、部活動のことで悩んでいた彼女のがま口に「応援メモ」を忍ばせたことがあります。書いたのは「ガンバ!」の一言。でも、娘からの反応は全くなしで、がっかりしました。しかし、この話には落ちがあります。娘の結婚式、親への手紙の中で「あのがま口に入っていた手紙は私の宝物です」という言葉を聞いた時、私は全身が痺れました。

この本を読めば、きっとあなたも自分の大切な家族に心のメッセージを送ってみたくなります。

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