カリスマ教師の履歴書

File.22 坂本 秀樹先生(埼玉県立坂戸高等学校)

“おもしろきこともなき授業をおもしろく”する
伝え方の極意

授業を受けた生徒から「面白かった!」と言ってもらいたい。教師であれば誰もが思うことですが、それを実現するのは簡単ではありません。どうすれば面白く生徒に伝えられるのか、そのヒントを坂本先生が語ってくださいました。

文・澤田 憲

 

手と目と耳を使って“体験的”に暗記していく

「高校1年生のとき、小学校時代の恩師が亡くなりました。とにかく面白い授業をする先生で、相当影響を受けていました。例えば、北九州とか京浜といった工業地帯がありますよね。それを先生が弾くギターに合わせて、皆で歌って覚えたりしたんです。その先生が亡くなって、葬儀に出席したとき、ふと『先生の遺志を継ぎたい』と思ったのです。」

教師になろうと思った理由の一つをそう語る坂本先生。どうすれば恩師のように授業を面白くできるのか、教師になった現在も考え続けているテーマだと言います。

「私が専門にしている日本史は、受験の必須科目ではありませんし、実用性も特にありません。だからこそ、面白くないといけないと思うんです。人名や出来事を“無理やり覚えさせられた”という感覚を生徒に持たせてしまったら、何も残らなくなってしまいます。」

そう語る坂本先生の授業を見ると、生徒を飽きさせないための工夫が、隅々まで散りばめられています。最も特徴的なのは、「ポイントとなる箇所を大きな声で読み上げる」こと。例えば、日露戦争の授業であれば、「開戦論」「与謝野晶子」といった重要なワードがいくつかありますが、坂本先生は教科書を生徒に音読させるとき、それらのワードの部分だけ「開戦論!」「与謝野晶子!」などと、生徒の声に重ねて読み上げるのです。こうすることで大切な部分がより記憶に残りやすくなると言います。

「『この単語は大切だからラインを引きましょう』といった指示を一つずつしていたら、線を引く作業が授業の中心になってしまいます。それより、生徒が教科書を読みながら、耳で『ここが大切なんだ』と分かれば、作業を一つ省略できるし、もっと授業の中身に集中できると思うんです。」

同様の工夫は、板書にも見られます。重要な遺物や歴史的資料が出てきたら、資料集で画像を確認させるだけでなく、そのページ番号を黒板に書き、ノートに取らせておく。そうすればテスト前に「ここを見ればいいんだな」とすぐに復習ができます。さらには、目を使って資料等を画像として認識することで、記憶の定着も図られます。

「歴史は暗記すべきことが多く、大変な科目です。それでも、耳や目などの“五感”を使って体験的に学習していくことができれば、単語をひたすら暗記するといった苦行をしなくても、楽しく理解を深められると思います。」

 

 

面白い授業を作るヒントは「生徒が寝る理由」にある

こうした授業での取り組みが評価され、坂本先生は2016 年度、埼玉県教育委員会から「優秀な教職員」として表彰されました。ただ、このような授業スタイルに行き着くまでには、多くの試行錯誤があったそうです。

「最初は、当日の授業内容をまとめたプリントを作って、生徒に配っていたんです。でもあるとき、それは生徒のためではなく“自分が授業をしやすいから”作っていることに気付きました。プリントという授業の台本を手にした生徒たちは、『プリントの空欄を埋めたら終わり』という感覚になり、歴史を“線”ではなく、“点”でしか見なくなってしまいます。そうなると、後はひたすら空欄部分の暗記作業になってしまうわけで、そんな授業が面白いはずありません。」

「つまらないことには必ず原因がある」と語る坂本先生。学生の頃から、人の言葉や動きを観察するのが好きで、「なぜこの先生の話は面白いのに、こっちの先生の話は眠くなってしまうのだろう」と、自分なりに分析していたそうです。眠くなるような授業をしているのに、生徒に「寝るな」と言うのは酷だと考え、自身が教師になってからは、どうしたら生徒が寝ない授業をできるのか、試行錯誤を繰り返したそうです。

坂本先生は、「授業は一つのエンターテインメント番組のようなもの」だと言います。生徒はゲストで、教師は番組のメインMC。生徒の表情やその日の気分、興味関心などを探り、臨機応援に話題を振っていく。こうしたコミュニケーションを図ることで、面白い番組(授業)を“共に作り上げていく姿勢”が大切なのだそうです。

「授業は生モノで、常に一発勝負です。逆に言えば、常に同じやり方では通用しません。その時々で、言葉の選び方や話の流れ、緩急などを変えていく必要があります。教師は“伝え方”に、もっと意識を向けるべきなんです。それがあるかないかで、同じ内容でも生徒の反応はまるで違ってきます。」

 

「苦手だ」と感じるものにこそ飛び込んでみる大切さ

現在、坂本先生は、埼玉県教育センターで初任者研修など若手教員に対する指導も行っています。そうした研修で、若手教員から「生徒とのコミュニケーションの取り方が分からない」といった、生徒指導に関する質問を受けることが多いと言います。

「私も同じような経験があるので、気持ちは分かります。」

大学卒業後、坂本先生が非常勤講師として勤めた学校は落ち着きがなく、授業を成立させるのも難しい状態でした。そこで、坂本先生は、担任教師に許可をもらい、生徒たちと一緒に教室で昼ごはんを食べるようにしたそうです。

「しかも自分では弁当を持って行かず、生徒に『ちょうだい』って、少しずつおかずをもらって(笑)。そんなことをする教師は初めてだったようで、生徒たちも面白がってくれて、すぐに打ち解けた雰囲気を作れました。つまらない話に理由があるように、『嫌だな』『苦手だな』と思うことにも必ず原因があります。そういうときこそ避けるのではなく、逆に距離を詰めるようにしています。」

流れに身を任せるのではなく、少しの時間立ち止まって、自分で考えることも大切だと語る坂本先生。「つまらない」「嫌だ」と感じることでも、「なぜそう思うのか」という疑問を持って飛び込めば、今まで気付かなかった多くのことが見えてくるのかもしれません。

 

 

Profile
坂本 秀樹(さかもとひでき)
1974年10月31日生
1997年3月 学習院大学文学部史学科 卒業
1997年4月 県立高校の非常勤講師(2年間)
1999年4月 県立上尾南高等学校赴任
2003年4月 県立伊奈学園総合高等学校赴任
2015年4月 県立坂戸高等学校赴任(現職)

座右の銘
「本気」「克己」
趣味
バスケットボール、温泉旅行

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