学校不祥事の顛末

爆破予告のメールを送信

【今月の事例】
爆破予告のメールを送信
A県教育委員会は、県立高校の爆破を予告するメールを送ったとして威力業務妨害容疑で逮捕、起訴された県立高校教諭を同日付で懲戒免職処分にした。
県教委によると、教諭は県教委ホームページ上の教育行政相談の窓口にある県立高校を名指しして「爆弾を仕掛けてやる」などと書いたメールを送り、同校や同じ校舎を利用する附属中学校の業務を妨害。生徒ら約1,000人がグラウンドに一時避難した。

 

【法律家の眼】

匿名社会の怖さを物語る
重大な犯罪行為

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 想像力欠如の結末

本事例の教諭は、県立高校に「爆弾を仕掛けてやる」といったメールを送ったとのことです。爆弾を実際に仕掛けたか否かに関わらず、威力をもって業務を妨害すれば、刑法上の威力業務妨害罪に当たります。冗談で済まされる話ではありません。
本教諭が、何故このような行動に出たかは分かりませんが、こうしたメールがどのような騒動を引き起こすか、冷静に考えれば分かったはずです。面と向かってだと言えないことでも、匿名メールなら書けたということなのでしょうが、想像力が欠如した、あまりにも未熟な犯行と言わざるを得ません。

 

2 爆破予告は何罪にあたるか

簡単に説明すると、人を騙して錯誤に陥らせて業務を妨害するのが「偽計業務妨害罪」、人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることで業務を妨害するのが「威力業務妨害罪」です。公然と相手方に障害(爆弾の存在)を誇示した本件の場合は、威力業務妨害罪が成立します。
威力業務妨害罪の法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。執行猶予がつかなければ、実刑として服役することにもなる犯罪です。

《偽計業務妨害罪》
刑法第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

《威力業務妨害罪》
刑法第234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

《脅迫罪》
刑法第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。 (第2項略)

 

なお、軽犯罪法には、刑法上の業務妨害罪より軽い刑罰の定めがあります。しかし、爆破予告となると「いたずら」の域を超えていることから、威力業務妨害罪で起訴されたものと考えられます。

軽犯罪法第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
31 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

 

3 逮捕から起訴へ

逮捕・勾留を経て起訴される場合、数カ月にわたり身柄を拘束され、自宅に戻れないこともあります。長期にわたる不在は、学校や家族に対し多大な迷惑をかけることになります。軽い気持ちで送ったメールの代償は、果てしなく大きいと言えます。

 

4 匿名の怖さ

現代社会は、メールやインターネット上の書き込みなど、匿名による発信手段にあふれています。実際、インターネットで検索すると、爆破予告、放火予告、殺害予告(結果何も起きなかった)などの報道を数多く見ることができます。これらは匿名での情報手段があればこその犯罪だと思います。クリック一つで、重大な犯罪行為がなされているという現実が、もう既にあるのです。
もしかすると、この教諭は、軽い気持ちでちょっとした騒ぎを起こしてみたかっただけなのかもしれません。あるいは学校に対する嫌がらせや、ストレス発散のつもりだったのかもしれません。匿名の発信手段がなければ、こうした犯罪に至ることはなかったとも考えられます。
インターネットという仮想空間での問題ではなく、自分のしたことが現実世界でどのような結果を招くのか、他人事ではなく、皆さんにも立ち止まって考えていただきたいと思います。そして、児童生徒にも匿名の発信手段の怖さを教えていってください。

 

【教育者の眼】

前代未聞の教諭による「爆破予告」
背景に何があったのか

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■「爆破予告」を受けた学校への影響

今回の事例は、「爆破予告」メールです。最近の報道でよく見受けられるのは、例えば運動嫌いの生徒が体育祭を中止させようとしたり、生徒同士の人間関係の歪みから生じたりといったケースですが、教諭による爆破予告は前代未聞です。教諭は本来、児童生徒の安全と安心を守るべき立場であり、極めて許しがたい行為と言えます。
こうした爆破予告メールが送られてきた場合、学校や教育委員会は警察に連絡し、連携しながら対処します。子供たちの安全を最優先して、全校生徒を避難させると同時に、警察は爆発物発見のために校舎内等をくまなく捜索することとなります。
児童生徒にとって、日々の居場所である学校が爆破されるかもしれないという事態は、不安や恐怖心を高めるなど、精神的に大きな影響を与えます。そのため、学校は子供たちの安全を確保するとともに、不安や恐怖心を和らげるための対応に追われます。また、保護者にも緊急連絡を入れ、その後の心のケアについて説明するなどの対応も求められます。
学校は日々、児童生徒に「人に迷惑をかけないように」「思いやりの心を持とう」「ルールを守ろう」など、道徳心や社会性を身に付けさせるための指導をしています。そうした立場にある学校の教諭が、このような事件を起こしたことの影響は計り知れません。
なお、学校では定期的に地震などの自然災害などに対する避難訓練を行っていますが、これを適切に実施していれば、こうした事態に直面してもスムーズに子供たちの安全を確保できます。改めて、避難訓練の重要性を認識していただきたいと思います。

 

■教師としての使命感と自覚の欠如

この教諭は、爆破予告メールを送ったことにより、威力業務妨害容疑で逮捕されました。教育公務員としては、全体の奉仕者(日本国憲法第15条第2項、地方公務員法第30条)としての使命を欠く行為であり、信用失墜行為の禁止(地方公務員法第33条)に抵触します。懲戒免職処分は当然の措置でしょう。もし、この爆破予告メールの送信が勤務時間中であれば、職務専念義務違反(地方公務員法第35条)にも該当します。
一人の教諭の身勝手な行為は、教職員に対する一般市民の信頼を風前の灯火としてしまいます。その後、学校や教職員が信頼を回復するには、多大なる努力が必要となることを肝に銘じてほしいと思います。

 

■「爆破予告」に至った背景に何があるのか

それにしても、何故この教諭は爆破予告メールを送ったのでしょうか。本事例に限らず、教職員の不祥事の背景には、個人内のストレスが要因となっているケースが少なくありません。推測するに、この教諭は同僚の教職員や生徒、保護者との間で、人間関係的な悩みを抱えていたかもしれません。あるいは、業務上の行き詰まりや多忙感があった可能性もあります。そうしたストレスが積み重なった結果、爆破予告を送った…という可能性もあることでしょう。もちろん、理由は何であれ、子供たちの命を預かる教師として許されざる行為であることに変わりはありません。

 

■このような行為の防止のためには

人は誰しも何らかのストレスを抱えているものです。ストレスが許容量を超えてあふれ出た時、人は思わぬ行動に出てしまうことがあります。過剰なストレスやバーンアウト(エネルギーが過度に要求され続けた結果として起こる極度の心身の疲労と枯渇)を生まないよう、次のことに留意してほしいと思います。

◯問題を一人で抱え込まないこと
◯「チーム学校」としての意識を持ち、他の教職員と協力し合い、「報告・連絡・相談」を心掛けること
◯同僚や学年主任、養護教諭、管理職、スクールカウンセラー等に対し、気軽に相談できる関係性を作ること
◯スポーツや文化活動などを通して、心身のリフレッシュを図れる時間を持つこと

教師を目指す皆さんは、「心にゆとり」を持ち、使命感と自覚に溢れる教師を目指してほしいと思います。

 

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