カリスマ教師の履歴書

File.21 岩堀洋一先生(相模原市立上鶴間中学校)

 

手づくりの教材で
科学の不思議を“見える化”する

冬場にピリッとくる静電気、物質の性質が変わる化学変化、台車を動かす運動エネルギー。そんな目には見えない自然現象を、岩堀先生は手づくりの教材と実験で“見える化”しています。子供たちにどうやって科学の面白さを伝えるのか、岩堀先生にその工夫とこだわりをうかがってきました。

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文・澤田 憲

「小さな発明品」で一杯の理科準備室

「ちょっと散らかっているんですけど……。」

そう岩堀先生に案内されて入った理科準備室の床には、大きなコンテナボックスが所狭しと積まれていました。ボックスの中に入っているのは、すべて理科の実験で使う教材だと言います。

「大したものじゃないんですけどね。研究会で他の先生方に教えてもらったり、本を読んだりして20 年間コツコツ作りためてきたら、こんなに増えちゃいました。」

ここにあるのはほんの一部で、実家の倉庫にはこの10 倍以上の自作教材が眠っているのだとか。

「これは何に使うんですか?」

表面がアルミ箔で覆われた薄い板状の道具を指さして尋ねると、岩堀先生は「ああ、静電気のやつですね」とボックスから取り出して見せてくれました。

「これをゴシゴシと服に擦りつけてから、ネオン管に近づけると一瞬光るんです。仕組みは単純だけど、静電気がたまったことが一目で分かる。これが重要なんですよ。」

「実験」と「観察」。岩堀先生は、何よりもこの2つを授業で大切にしているのだそうです。

「実験をすると、『いかに自分がいろいろな思い込みをしているか』ということに気付かされます。自分なりに仮説を立てて、いざ実験してみると、全く予想外の結果になる。そのとき『あっ!』と驚く子供たちの反応を見るのが、私はとても好きなんです。今までの常識が崩れて、新しい世界が開ける瞬間というか。そうした気付きの機会を、できるだけ多く子供たちに与えてあげたいなと思っています。」

 

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実験でイメージを現実化して物事の本質をつかむ

子供の頃から理科と社会が好きだったという岩堀先生。祖母が小学校の教師、祖父が高校の教師をしていたことから、自然と自分も教師を目指すようになったそうです。

「ただ、本気で教師になりたいと意識し始めたのは、中学校のときの理科の先生に出会ってからですね。授業で『COSMOS』という宇宙を題材にした科学ドキュメンタリー番組のビデオを見せてくれて、科学や自然の不思議さ、面白さに夢中になったのを覚えています。」

大学卒業後は、非常勤講師の期間を経て中学校の理科の教員に。大きな期待とともに憧れの教壇に立ちましたが、最初は失敗の連続だったと言います。

「教師になって初めて赴任した中学校では、苦労しました。子供たちの中には、小学校の学習内容が十分に身に付いてない子や、理科は暗記だけすればいいと思って真面目に授業を聞いてくれない子もいました。恩師のように面白い授業をと思っていても、気持ちだけが空回りして、指導書に書かれている内容を説明することで精一杯。子供たちの気持ちも、どんどん離れていきました。」

自分は本当に教師としてやっていけるのだろうか――大きな不安で挫けそうになっていたとき、先輩の教師に誘われて参加したのが、県内の理科好きの教師たちが集まる「神奈川理科サークル」でした。

「先生方には、教科経営から学級経営、校務分掌など、教師に必要な仕事のノウハウをいろいろ教えてもらいました。それで精神的にもかなり救われましたね。でも一番影響を受けたのは、教材研究です。『そういう見せ方があったか!』とひざを打つようなアイデアがたくさん出てきて、すごく刺激を受けました。」

これが転機となり、岩堀先生は教材研究に力を注ぐようになります。サークルや研究会でアイデアを得ると、100 円ショップやホームセンターで資材を買い集めて実際に教材を作ってみる。こうしてコンテナボックスの中には、手づくりの教材がどんどんたまっていきました。

「私が大切にしているのは、物事の仕組みや変化を“見える化”することです。中学校の理科では、特に化学と物理分野でつまずく子供が多いのですが、それは分子や運動エネルギーといったものが目に見えず、抽象的だからです。そのイメージを“確かなもの”とするのが、実験なんですね。理屈を説明するだけでなく、現象として見せてあげることで、子供たちの授業に対する意欲や理解も驚くほど変わっていきました。」

このような取り組みが評価され、岩堀先生は平成27 年度に文部科学大臣優秀教員として、表彰されました。夢中で作った教材の数は、いつの間にか100 を超えていました。

 

苦しいときにもがいた経験が未来の自分を形づくる

「とにかく現場が好き」と話す岩堀先生。現在は、学年主任として2年生の理科の授業を担当しながら、20 〜30 代の若手教師を育てる立場にもあります。

「よく動く学年主任だなと、自分でも思います(笑)。私は、ちょうど採用が控えられていた時期に教師になったので同世代の先生が本当に少ないんです。だから昔から、さまざまな校務分掌に、いろいろと関わらせてもらいました。その経験が、今、若い先生方を指導する立場になって生きているなと思いますね。」

若手の教師を見ていると、日々悩みながら仕事をしているのが分かるそうです。

「でも、大変なときだからこそ、もう少し熱くなってほしいと思います。私自身、試行錯誤しながらも教材研究に必死に取り組んできました。そうした苦しい時代の経験は、必ず力になります。」

忙しい日々が続く中、それでも教師を続けていられるのは、目を輝かせて授業を聞く子供たちに日々エネルギーをもらっているからだと言います。

「最近の話ですが、何人かの教え子が同じ市内の学校の教師になったと、挨拶しに来てくれたんです。そのとき『岩堀先生のような熱い教師になりたいです』と言われて、思わず胸が熱くなりました。中学校時代、自分が憧れたあの先生のように、私も子供たちに恥ずかしくない教師でいたいと思います。」

 

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Profile
岩堀 洋一(いわほりよういち)
1967年4月26日生
1990年3月 大学卒業
1992年4月 相模原市立相陽中学校に赴任
1996年4月 相模原市立共和中学校に赴任
2001年4月 相模原市立緑が丘中学校に赴任
2008年4月 独立行政法人科学技術振興機構に出向
2010年4月 相模原市立上鶴間中学校(現職)

座右の銘

今を生きる

趣味

読書、映画鑑賞

 

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