教職感動エピソード

Vol.21 35年前に出会った子供たちとの思い出

脇田 哲郎(福岡教育大学教職実践専攻)

 

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「先生、H です。覚えていますか?」

そんな電話がかかってきたのが、今年の夏の初めでした。

H 君は、私が還暦を迎えたのを覚えていてくれて「先生の還暦を祝って、同窓会をします」と、計画を語ってくれました。H 君たちは、私にとって最初の卒業生でした。

小学校の教師になって3年目に卒業させた子供たちでしたので、私にはまだ十分な指導力がなく、子供たちには迷惑をかけたこともあったと思います。逆に、子供たちから多くのことを教えられながら毎日を過ごしていたことを思い出します。

その子供たちの中にE さんがいました。

 

「物を大切にする。」ということがどういうことなのかを教えてくれたEさん

ある日の放課後、教室に残って子供たちのノートを見ていると、2〜3人の女子の話し声が聞こえてきました。何気なく聞いていると、次のような会話をしていました。

「E さんの筆箱は、カンペンではなくて、どうして昔の筆箱なん?」

「どうして新しいカンペン買ってもらわんの?」

他の子供たちがE さんに尋ねています。

この頃、子供たちの間では、ブリキで作られた「カンペン」と呼ばれる筆箱が流行っており、どの子もこれまで使ってきた筆箱からカンペンに切り替えていました。でも、E さんだけは、小学校1年生の時から使ってきた筆箱(ビニルのカバーで覆われ、2段になっている筆箱)を大切に使い続けていたのです。

「だって、この筆箱はお母さんに買ってもらったんだもん。」

E さんは、そう答えました。

それを聞いた私は、はっとして仕事をする手が止まりました。E さんのお母さんは、E さんが小学校へ入学する直前に、病気で亡くなられていたのを知っていたからです。

お母さんは、亡くなる前にE さんに筆箱を買っていたのです。そして、その筆箱を、E さんは6年生になるまで使い続けていたのです。どんなにボロボロになろうとも、流行りのカンペンをみんなが買ってもらおうとも……。

E さんの筆箱は、E さんにとって、お母さんを思い出させる特別なものだったのでしょう。だから、6年生になるまで、大切に大切に使い続けたのです。ずっと、お母さんから見守られているような気持ちがしていたのではないでしょうか。

子供たちの言動は、楽しかった思い出、良い思い出と重なっていることが多くあります。子供たちが発する言葉の中に、その子の“想い”があることを私たち教師は忘れてはならないと思います。

私は、その後の教員生活の中で、「自分の物や学級や学校の物を大切にする」ということを子供たちに教える時に、いつもこのE さんの筆箱の話をしてきました。

 

学校は良い所だと息子に語ってくれたMさん

同じく、最初の卒業生の一人M さんからは、ある年、嬉しくなるような年賀状をもらいました。その年賀状には、「息子が小学校1年生になり、自分が小学生だった頃を思い出し、学級の歌をキーボードで弾きながら歌いました」と書いてありました。

あの頃、学級には子供たちと作った学級の歌がありました。M さんは、5年生の時も、6年生の時も、学級の歌の作曲をしてくれたのでした。

6年生の時の歌は『みんな大好き6の1』という歌で、学級生活のさまざまな場面で歌われました。時には、先生に怒られたクラスの仲間を励ますために歌われたこともありました。学級の歌は、子供たちの楽しい思い出と重なっていたのでしょう。

だからこそ、M さんは息子が小学校に入学する時に、「学校にはね、学級の歌というのがあって、お友だちと一緒に歌うんだよ。学校はとても楽しい所なのよ。お母さんが歌っていた学級の歌を歌ってあげるよ」と言って、当時の歌を歌って聴かせてあげたのでしょう。

小学校への入学を前に、期待と不安が入り混じっている息子さんに、母親であるM さんは歌い聞かせながら、「学校は、楽しくて、素敵な所だ」という想いを膨らませてあげたのだと思います。

人が、育った土地を故郷だと感じたり、巣立った学校を母校だと感じたりするには、そこで生活した時間の長さより、そこで「楽しい」とか「幸せだ」という“快の経験”をたくさん積むことの方が大切だと言われます。

M さんは、小学校5〜6年生の頃のことを「楽しい思い出」として心の中にしまっていてくれたのです。子供たちの心の中にともされた「楽しい思い出」という灯は、どんなに時間を経てもともり続けるのだと確信した瞬間でもありました。

本当に、心が温かくなる年賀状でした。

H 君たちは、今年、47 歳になります。

夏休みを利用して同窓会の実行委員会まで開いてくれました。同窓会は、2017 年1月に開催されます。 47 歳というと、もう立派な大人です。順風満帆というわけにはいかない人もいることでしょう。背負っているものも、いろいろとあると思います。でも、それぞれの人生をたくましく生き抜いていることと思います。

今から、教え子たちとの再会の日を首を長くして待っています。

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