学校不祥事の顛末

体罰をした教諭が児童に口止め

【今月の事例】
体罰をした教諭が児童に口止め
A市にある公立小学校の特別支援学級で、担任を務める40代の女性教諭が軽度の発達障害のある高学年の男子児童に体罰を加えていたことが、市教育委員会などへの取材で分かった。教諭は被害児童に体罰を受けたと言わないよう口止めしていたという。市教委や学校によると、教諭は児童が1年生の頃から頬を平手打ちしたり、髪を引っ張ったりする体罰を重ねていた。学校が行った聞き取りでは、「指導であって体罰ではない。髪を引っ張ったのは明るい声を出させるためだ」などと説明。学校もこの説明をうのみにし、市教委に「体罰はなかった」と報告していた。教諭は被害児童の両親に体罰の事実が漏れたことを知った際、児童に「学校への文句を両親に言ってはだめ」と口止めしていた。学校は、体罰を認めて児童と両親に謝罪した。

 

【法律家の眼】

“かばい合い”は
学校を守ることにはならない

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 極めて悪質な体罰事案

今回の事例は、頬を平手打ちしたり、髪を引っ張ったりといった暴行(体罰)が常態化していたという悪質さだけでなく、それが起きたのが特別支援学級だった点、担任教諭が被害児童に口止めをしていた点、学校の調査がずさんであり全く実効性がなかった点など、目を覆いたくなるような、何ともひどい事例です。体罰を認めて謝罪をしたから許される、といった問題ではありません。児童の心の傷を思うと本当にやりきれない思いがします。

 

2 体罰発覚のきっかけ

(1)教員による申告の重要性 
文部科学省は、「体罰の実態把握について」(2015年12月)において、2015年度に起きた体罰の状況を調査し、結果を公開しています(文部科学省Webサイト参照)。これによると、体罰事案の発覚のきっかけは概ね下の表のとおりです。

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小学校では、保護者による訴えの割合が高いことが特徴的です。中学校では、小学校と比較して保護者による訴えの割合が減り、そのかわりに生徒の訴え、教員の申告の割合が増加しています。特別支援学校の特徴は、児童生徒による訴えの割合が小中高に比べて極端に低いことが挙げられます。
また、全体的に、教員による申告が体罰発覚のきっかけとして有効であることも読み取れます。

(2)本事例の検討
本事例では、被害児童には軽度の発達障害があるとのことです。口止めされて、1年生から高学年までの何年もの間、保護者に訴えることもなかったのでしょう。前述のデータのとおり、特別支援学校では児童生徒による訴えの割合が低く、特別支援学級も同様に保護者が気付かなければ、被害者側から体罰が発覚することは困難だと思われます。ですから余計に、体罰に気付いた教員は隠ぺいに走らず、事実を明らかにしていく姿勢を貫く必要があるのです。

 

3 違法行為の通報先

同僚の体罰に気付いた教員は、直接注意するのは当然として、速やかに管理職等へ報告をすべきです。しかし、どうしても相談しにくい場合、公益通報窓口を利用するのも一案です。
公益通報者保護法が施行されて10年、コンプライアンス強化の観点から、多くの自治体が公益通報窓口を設置するようになりました。特に外部の弁護士が受付を担当する「公益通報弁護士窓口」を設置している自治体も珍しくありません。

〈公益通報弁護士窓口の基本的な流れ〉
・通報者は実名で弁護士窓口へ体罰など具体的な違法行為を通報する
・弁護士窓口は、誰からの通報か分からないよう匿名化して、自治体へ調査依頼する
・自治体は独自に調査を行い、調査結果を弁護士窓口へ連絡する
・弁護士窓口は、通報者へ調査結果を報告する

自分で被害を申告できない児童生徒が多い特別支援学校・学級では、特に、同僚による申告が極めて重要な調査の端緒となります。学校を守るためかばい合うことは、決して学校を守ることになりません。どこを向いて仕事をするか、絶対に間違ってはなりません。児童生徒を守る教員であり続けてください。

 

【教育者の眼】

求められるのは“深い教育愛”と
“閉ざされた環境”を作らない工夫

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■違法行為と知っていたがゆえの口止め

今回の事例は、特別支援学級の担任による体罰です。通常学級であろうと特別支援学級であろうと、教師は子供一人一人の健全な成長のために情熱と愛情、使命感を持って教育に全力を尽くさなければなりません。しかし、体罰事件は後を絶たず、残念さと虚しさだけが残ります。ましてや、本来であれば子供の行動の意図や意味を探り、共感しながら指導支援していくべき特別支援学級での体罰には、怒りすら覚えます。
教師は子供たち一人一人への深い児童理解の下、その子に合った指導支援を行わなければなりません。もちろん、時には言うことを聞かなかったり、意に反する行動をしたりする子供もいます。そんな時も、子供の実態から他の有効な指導や支援を駆使し、広い教育愛を持って支えていくのが教師の仕事なのです。
本事例では、子供が指導を聞き入れないとして、怒りの感情のまま頬を平手打ちしたり、髪の毛を引っ張ったりといった行為を、児童が1年生の時からしてきたといいます。子供の中には、担任からされた体罰を保護者や他の先生にうまく伝えることができない子もいます。その弱みに乗じて行われていた継続的な体罰の行使は、卑劣な行為であり、場が違えば「傷害罪」となるものです。
さらに悪質なのは、子供に口止めをしていた点です。これは、学校教育法第11条が定める体罰の禁止を隠ぺいする、極めて悪質な行為です。自身の行為が違法であると認識していたからこそ、そうした行為に及んだのでしょう。そこには、子供への愛情は微塵も感じられません。地方公務員法第33条が定める「信用失墜行為の禁止」に反し、懲戒処分が下されることでしょう。

 

■教育愛をはき違えてはいけない

よく「行き過ぎた教育愛、行き過ぎた指導の結果、体罰に至った」という言葉を聞きますが、これは「教育愛」や「指導」という言葉で体罰、いわゆる傷害罪を正当化しているだけです。そもそも、体罰は「指導」ではありません。本来の「指導」とは、深い児童生徒理解の下、子供たち一人一人に対して「共感的理解で接する」「自己存在感を持たせる」「自己決定の場を与える」など「生徒指導の機能」を生かした上で、適切に行っていくべきものです。もちろん、その際は、子供一人一人への「基本的な人権の尊重」が大前提にあることを忘れてはなりません。

 

■誰に見られても恥じない言動を

本事例の背景の一つに、担任教師1名と限られた数名の子供たちという、特別支援学級の“閉ざされた環境”があります。複数の教師が共に指導する環境においては、体罰行為が起こるはずはありません。その意味でも、今後は「チーム」として指導に当たることが大切だと言えます。教師自身が他の誰に見られても恥じない指導支援をすること、そして常に授業を公開し、保護者等がいつでも見られるような環境づくりを進めることが、体罰行為を未然に防ぐことになります。

 

■教師を目指す皆さんに

体罰をしないために、これから教師を目指す皆さんは、次のことを肝に銘じてください。

◯人権を無視した指導をしないこと
◯体罰は法に違反する行為であると知っておくこと
◯威圧的な指導等に頼らず、子供たちと信頼関係を築くこと
◯子供たちの話をしっかり聞き、心に染み入る説諭や指導を冷静に行うこと
◯教師の権威を振りかざし、自分の思いどおりに子供たちを従わせようとしないこと

これらを意識し、「教育愛に満ちた教師」を目指してほしいと思います。

 

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