教師の本棚

『鉄のしぶきがはねる』

p135

まはら 三桃=著
2011年/講談社
¥1,400+税

ものづくりに魅了される女子高校生の物語

丸山 匠勇(東京都板橋区立西台中学校教諭)

今回は、繊細でしなやかな小説をご紹介いたします。
本書の主人公は、工業高校1年生でただ一人の女子、三郷心です。彼女の祖父は由緒正しい金属加工職人で、その道では名人級の腕前でした。現代に生きる心は、祖父の腕前に惹かれながらも、旋盤やドリル・フライス盤で金属を削るより、コンピューターで削った方が精密で正確な仕事ができる、と強がっています。そう言う心に祖母は、「あのね心ちゃん、言葉の使い方がおかしいよ。なんもかんも削るんやないよ。旋盤を使えば『削る』とか『挽(ひ)く』、ドリルで穴をあけるのは『揉(も)む』。平面をかき削るときは『きさぐ』。おんなじ『削る』でも、ほんのちょっとの時には『さらう』とか『なめる』とか言うんよ。鉄の加工の仕方によって、言葉は変わるんやから。そんなこと言いよったら、おじいさんに怒られるよ」と笑いながらたしなめます。ものづくり日本の神髄が込められたような言葉ですね。

「コンピューター研究部」に所属していた心は、同級生や先輩の旋盤に対する情熱に心打たれ、ついには「ものづくり研究部」に入り、「高校生ものづくりコンテスト」に参加しようと決意します。そして持ち前の才能を開花させるのですが…。

0.01ミリの違いを指で確認していく作業や、バイトという道具で削っていく作業(心出し)の微に入り細に入った描写などは、思わず読んでいて背筋が伸びるような感じすらします。いや〜手に汗握るような展開なのですが、どこか澄み切った硬質な雰囲気が漂っていて、ワクワクすること請け合いです。物語の舞台となっている「高校生ものづくりコンテスト」は実在のもので、毎年10月に開催され、「旋盤作業」「自動車整備」「電気工事」「電子回路組立」「化学分析」「木材加工」「橋梁模型製作」「測量」の8部門で競われています。

作者のまはら三桃さんの活躍ぶりは、読書好きの方はよくご存じだと思います。この後も弓道に焦点をあてた『たまごを持つように』や中2の担任の先生の姿を描いた『伝説のエンドーくん』、和菓子の世界を中2の女の子の視点で描いた『風味さんじゅうまる』といった作品を次々と発表されていますので、興味があればぜひ読んでみてください。

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