学校不祥事の顛末

生徒と交際し、不適切な行為に及ぶ

【今月の事例】
生徒と交際し、不適切な行為に及ぶ
A県教育委員会は、顧問を務める運動部の女子生徒と不適切な行為に及んだとして、県立高校に勤務する20代の男性講師を懲戒免職にすると発表した。
県教委によると、男性講師は女子生徒から友人関係の相談を受けたことをきっかけにドライブなどに出かけるようになり、その後、講師の自宅や自家用車内で生徒と不適切な行為に及んだ。後日、生徒の日記を読んだ母親が校長に訴えて発覚。講師は「好意を持っていた。迷惑をかけて申し訳ない」と話しているという。

 

【法律家の眼】

教え子との不適切な行為
公務員としての「信用失墜行為」に該当

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 信用失墜行為

本事例の男性講師は、女子生徒との交際により「懲戒免職」という最も重い処分を受けました。真剣な交際か否か、女子生徒の同意があったか否かは問題ではなく、教え子と不適切な行為に及んだ点は、まさしく公務員としての信用失墜行為に当たります。

 

2 職務上の義務と身分上の義務

地方公務員法上の義務は、職務上の義務と身分上の義務に分けることができます。

職務上の義務の例
○ 地方公務員法第32条 法令等及び上司の職務上の命令に従う義務
○ 地方公務員法第35条 職務に専念する義務
身分上の義務の例
○ 地方公務員法第33条 信用失墜行為の禁止
○ 地方公務員法第34条 秘密を守る義務

公務員は全体の奉仕者と位置付けられ(日本国憲法第15条第2項、地方公務員法第30条)、高い倫理上の義務を負っています。身分上の義務は、こうした公務員という身分に基づき遵守しなければならない義務のことで、信用失墜行為の禁止(=職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない)はまさにこの一例です。
このように信用失墜行為は身分上の義務ですから、職務と直接関係ない行為や勤務時間外の行為であってもこれに該当する可能性があります。すなわち、仮に具体的な法令違反に直接該当しなくても、公務への信用を失墜させる行為であれば、「信用失墜行為」に当たり得るのです。

 

 3 懲戒処分の種類

本事例の男性講師の行為は、その講師個人への信頼を損なうにとどまらず、広く学校教育全体への信頼を損なうものです。すなわち、教職員全体の不名誉となる行為として公務への信用を失墜させる行為に当たるため、懲戒処分の対象となります。
地方公務員法上の懲戒処分は、以下の4種類があります。
・戒告(将来を戒める)
・減給(賃金から一定額を差し引く)
・停職(就労を禁止する)
・免職(一方的に職を免ずる)
本事例の男性講師は、事案に鑑み最も重い懲戒免職処分となりました。この処分は新たな職探しにあたっても重いものとなるはずで、男性講師のその後の人生に大きな影響を及ぼすことでしょう。

地方公務員法第29条
職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一  この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

 

4 深みにはまる前に

指導者として相談を受けるとしても、それがきっかけでドライブに出掛けるようになったとなれば、そこには一段飛躍があるように思います。学校では話しにくい、誰にも見られないところで相談したいなどの事情があったのかもしれませんが、ドライブに出掛ける、自宅や車などの閉鎖的空間で2人きりになる、といった状況は、そもそも避けるべきです。
指導上、判断に迷うときは先輩教員や上司へ相談するイメージを持ってはいかがでしょうか。もし、相談できないような指導なのであれば、それは既に指導の域を逸脱しているはずです。誰からも信頼される教師を目指し、初心を忘れずに頑張っていただきたいと思います。

【教育者の眼】

「情熱と使命感」を
「恋愛感情」に置き換えてはならない

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

■「恋愛感情」は「教育愛」ではない

教員採用試験を実施している自治体の多くは、「求める教師像」の一つに「情熱と使命感を持つ教師」などを掲げています。「情熱と使命感」とは、すなわち「教育愛」に満ちた先生のことです。
子供たちは、学業や友人関係の悩みなどを誰にも相談できず、内に秘めていることがあります。そんな時、悩みを相談できる教師、安心して心を打ち明けられる「教育愛」に満ちた教師がいることは、生徒指導上の問題を未然に防ぐだけでなく、子供たちの「心の成長」にとっても大変素晴らしいことです。だからこそ、各自治体が「求める教師像」の一つとして、「情熱と使命感を持つ教師」を掲げているのでしょう。

■「情熱と使命感を持つ教師」とは何か

本事例では、友人関係の秘めた悩みを持つ女子生徒が、「信頼できる」「秘密を守ってくれる」「助けてくれる」「問題解決への指導をしてもらえる」と思い、部活動の顧問教師(本事例では顧問の「講師」であり、任用形態が異なるが、生徒にとっては「教師」である)に悩みを打ち明け、相談に乗ってもらおうとしました。おそらく、当初は校内の相談室等で話をしたのでしょうが、次第に場所は校外へ移り、車でのドライブなどにも出掛けるようになったようです。こうなると、もはや「相談」の範疇を超え、教え子と「個人的な関係」を作ったと言わざるを得ません。
児童生徒のより良い人格形成を図るために愛情を注ぐことは、教師本来の姿であり、「教育愛」です。しかし、本事例のような「教育愛」という名目の下に、教え子に好意を持ち、恋愛の対象として生徒に関わるのは本末転倒です。この生徒が教師をどう思っていたかは定かではありませんが、「生徒=指導される側」「教師=指導する側」という立場があるため、生徒からすれば、教師の要求は断りにくいものです。
こうした不祥事が起こるたびに、「教育への使命感と自覚」とは何かということを考えさせられます。教師は全体の奉仕者であり、児童生徒にとっての範であり、こうした行為は同意の有無を問わず許されるものではありません。信用失墜行為の禁止(地方公務員法第33条)による懲戒免職処分は、当然の措置と言えるでしょう。さらには刑事上の責任として、地方自治体が制定している「青少年健全育成条例」等に抵触することにもなります。

■ いつ何時、誰に見られても恥じることのない振る舞いを

本事例のように、生徒からの相談やメールなどでのやり取りをきっかけに、教師が教え子と個人的な関係を作り、不適切な行為を起こすケースが増えています。中でも、若手教員による不祥事は少なくありません。教師は子供たちの未来を託されている立場にあります。だからこそ、職責の重さを自覚し、教職への誇りを持ってほしいと思います。そして、「どんな時も、どんな場所でも、誰に見られても恥じることがない」という意識と振る舞いで、職務に当たることが大切です。
教師は「教育愛」があるからこそ、経験を重ねるにつれ、「使命感や自覚」を深め、高めるものです。これから教師を目指す者は、そのことを忘れないでほしいと思います。

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