レポート教育最前線

4技能でコミュニケーション能力の素地と基礎を養う「小学校外国語」

東京都品川区立小山台小学校

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2020年度から全面実施となる次期の小学校学習指導要領では、外国語活動が中学年に前倒しされるとともに、高学年では教科化されます。それに伴い、「聞くこと」「話すこと」に「読むこと」「書くこと」の4技能を扱い、コミュニケーションの「素地」(中学年)から「基礎」(高学年)を養い、中学校へとつなげていくことが求められます。
英語を苦手とする小学校教員も数多くいる中で、外国語の指導にどう取り組めばよいのでしょうか。

文・ 渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

日本人講師と学級担任が二人三脚で
分からなくても「英語のシャワー」

「こんにちは!」「こんにちはー!!」
「Are you ready ?」「Yeah!」

東京都品川区立小山台小学校3年1組の教室。英語の授業は、元気なあいさつから始まりました。

教壇に立つのは、日本人英語指導者(JTE)の大友美奈講師と学級担任の富田瑞枝教諭、そして、学習ボランティアの細野陽子さんの3人です。品川区の学校では、2006年度から区独自の小中一貫教育要領に基づいたカリキュラムが行われており、教科としての英語が小学校1年生から実施されています。

JTEの配置は、2014年度から小山台小学校を含む3校でモデル事業としてスタートし、2016年度までに区内全校へと広げる計画です。JTEは区教育委員会の専任講師として採用され、「中学年担当」と「高学年担当」に分かれて(低学年はALT=外国語指導助手が担当)、複数校を巡回します。

授業を中心となって進めるのは英語のプロであるJTEですが、クラスを一番知っている学級担任と「二人三脚」のティーム・ティーチング(T・T)で授業を進めるのが、品川区における英語科の特徴です。取材の日は、多くのJTEを学校に派遣するNPO法人小学校英語指導者認定協議会(J-SHINE)の関係者も、参観に来ていました。

「Let’s sing a song !」

大友講師の呼びかけに子供たちは一斉に立ち上がり、かつてのヒット曲「学園天国」のリズムに乗せて、手拍子を交えながらアルファベットの歌を歌います。続いては、「幸せなら手をたたこう」の曲に合わせ、黒板に貼られたアルファベットの色に応じてジャンプしたり手をたたいたりと、ジェスチャーを取り入れた活動。日本語は一切使わない、“オール・イングリッシュ”の授業が続きます。

「How are you today? I’m very…キンチョーシテマース。」

昨年度、同校に異動してきたばかりという富田教諭が、流ちょうな発音でこう話すと、子供たちから笑いが起こります。

「実は子供たちも、講師が話す言葉の4割くらいは分かってないんです。」

元々は中学校の英語教員だった柳歓子校長は、こう打ち明けます。

中学校から英語を始めると、自意識の高い中学生は、分からないことに恥ずかしさを感じ、それが逆に英語を身に付けるネックとなってしまいます。それに対して、小学生は「分からない」ことが平気です。英語のシャワーを浴びながら、「カオスな状態」(柳校長)で繰り返し英語に接していくうちに、自然と分かる部分が増えていくといいます。

授業はその後、
○国旗を見ながら、各国の新学期がいつから始まるのかを考えるアクティビティ
○物語をリズミカルな英語で暗唱するアクティビティ
○2人1組になって、相手に伝わるように話すアクティビティ
○数字のカード2枚を足したり引いたりして、答えを考えるアクティビティ
と続き、45分の授業はあっという間に終了しました。

「Thank you Miss Otomo!」

子供たちがあいさつすると、富田教諭は思わず「汗かいた〜!」と笑みを漏らしました。

p129日本人英語指導者(JTE)の大友講師(左)と学級担任の富田教諭(右)。息の合った授業が展開されます。

 

教員も学ぶ姿勢が大切
他スタッフとも連携

「分からなくて当たり前」という雰囲気は、子供だけでなく、教員にとっても重要だと柳校長は言います。

小山台小学校では、 英語の研修として、4月の春季休業中に新規採用者や転入教員を対象とした「基本授業」を皮切りに、月1回の研究授業、夏季休業中のALTによる個人レッスンの他、月1回の自主研修も行っています。参加は任意ですが、ほとんどの教員が参加するとのこと。英語の指導に慣れない教員にも、無理なく指導力を付けられるような体制が整備されています。

しかし、全教科を教える小学校教員の中には、英語の指導に苦手意識を感じる人が少なくありません。その点について柳校長は「完璧に指導できないといけない、と思ってはいけません。最初はできなくてもいい。先生もみんなと一緒に学んでいるんだ、という姿勢を子供たちに見せることも大切です。教員みんなで研修し、高め合っていくことで、一体感も生まれます」と指摘します。そう話す柳校長は、2014年にすでに小学校英語教育で有名だった同校に着任し、教員の学ぶ姿勢に感銘を受けたといいます。そして、赴任後にJ-SHINEの指導者資格を取得するなど、率先して学ぶ姿勢を示しています。

その上で重要なのは、他職種との連携です。品川スタイルの英語授業では、ALTやJTEとの連携協力が不可欠ですし、2014年度に発足した学校独自の人材バンク「Team小山台」に登録したボランティアが、「英語授業チーム」として1〜4年生の全クラスに参加してくれています。この日の授業でも、ボランティアの細野さんは、音楽をかけたり、掲示物を整理したりといった補助にとどまらず、積極的に子供たちに声をかけたり、ペアのいない子供と組んだりするなど、大忙しでした。

2015年12月に出された中央教育審議会「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」では、教員以外の専門スタッフの参画や、地域との連携により、学校全体で教育力を高めるという方向性が示されています。教員同士はもとより、他職種や学校外の人々と協働(コラボレーション)していく力も、これからの教員には求められるのです。

もちろん、どのような「チーム学校」を築いていくかは、自治体の政策や学校の置かれた環境によっても違いますし、限られた条件の中で、子供たちに本当の意味での「生きる力」を定着させるための体制を作るよう、各校なりの努力や工夫が求められます。

同校の場合、区教委によるJTEの配置、意欲的な地域・保護者といった、恵まれた条件がそろっていることも確かです。ただ、そうした条件を最大限に生かし、自分たちも勉強しながら、グローバル社会を生きていく子供たちに、英語によるコミュニケーション能力の基礎を身に付けさせようと奮闘している教職員の姿勢があることも、無視できません。

p130_2昨年度、同校へ異動したばかりという富田教諭ですが、同校方式の英語授業にすっかり慣れた様子で授業を進めます。

 

音声認識の能力を重視した
カリキュラムを開発

同校の英語について、カリキュラムの面で注目されるのは、音声認識能力の重視です。

同校では、2008年度からアレン玉井光江・青山学院大学教授の「Allen Method」を採用する形で、カリキュラムの研究開発を行ってきました。

「Allen Method」による同校の英語教育は、
① リタラシー学習(アレン教授はLiteracyに「リテラシー」ではなく、英語の音に近い日本語表記を採用)
② ストーリー学習(Joint Story Telling)
③ 語い学習(Vocabulary)・英語活動(Activity)
の3つを基本としています。

① では、低学年で楽しく体を動かしながら音声に親しみ、学年が上がるにつれてゲームなどを通し、徐々に音素(音韻の最小単位)認識能力を高め、文字と音の関係を理解していきます。

② は、リズミカルな昔話などを、あえて日本語訳をせず、耳で聞いた音をそのまま暗唱し、何度も繰り返させます。ジェスチャーも交えることで、最初はうまくできなかった子供たちも次第に慣れてきて、英語のリズムや表現を体の芯にしっかりと根付かせます。

③ では、①や②で培った音素認識能力を生かして、さまざまなゲームを行い、英語の語いや表現を、無理なく楽しく増やしていきます。授業のフレームワーク(枠組み)が決まっていることもあり、子供たちは多少英語が理解できなくても、流れに沿って耳を澄まし、口や体を繰り返し動かすことで、自然と英語を体に根付かせていくことができるのです。

p130_1教材・教具などには、同校のオリジナルのものも多く、教員間での共有なども行われています。

 

次期学習指導要領をめぐる中央教育審議会の「審議のまとめ」(2016年8月)では、外国語について、「グローバル化が急速に進展する中で、外国語によるコミュニケーション能力は、これまでのように一部の業種や職種だけでなく、生涯にわたるさまざまな場面で必要とされることが想定され、その能力の向上が課題となっている」と指摘しています。さらに、中学校でも「外国語で授業を行うことを基本とする」ことになります。

また、文部科学省の「高大接続改革の進捗状況について」(2016年8月)では、高校生に求められる基礎学力の確実な習得と学習意欲の喚起を目的とする「高等学校基礎学力テスト(仮称)」で英語4技能を測定するのはもとより、大学入試センター試験を廃止して2020年度から創設される「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」でも、民間の英語資格・検定試験を活用した4技能評価を目指しています。

次期学習指導要領では、外国語学習の国際的な基準であるCEFR(セファール:外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠)なども参考としながら、外国語の特性を踏まえて「資質・能力の3つの柱」を一体的に育成し、小・中・高校を一貫させて「外国語を使って何ができるようになるか」を明確にしようとしています。小学校の外国語が、今まで以上に重要性を帯びてくることは、間違いありません。各学校でも、カリキュラム・マネジメントによる英語の実施が求められます。

中学校も視野に入れ、英語感覚の「基礎体力」を付けることを目指した同校の実践からは、資質・能力の育成という点でも、「社会に開かれた教育課程」という点でも、学ぶべきことが多いと言えるでしょう。

p131_1数学で学んだ知識を生かしたゲーム。もちろん、すべて英語で説明します。

 

長文もいとわない学習意欲に
中学校からも驚かれる

「Allen Method」を取り入れたことで、同校では「外国語活動寄りの英語」ではなく「力のつく英語」の授業が行われるようになったといいます。

その成果は、卒業生の追跡調査に表れています。主な進学先(連携中学校)である荏原第一中学校の調査において、同校の卒業生は、「非常に成績の良い生徒の割合は他校卒業生と変わらないが、非常に成績の良くない生徒の割合が非常に少ない」という結果が出ています。中学校で成績のふるわない生徒の苦しみを見てきた柳校長は「これは本当にすごいことです」と語ります。

グローバル化に対応した外国語教育では、「読む」にしても、多読が求められます。多少分からない単語があっても、全体の文脈から解釈することが必要で、そのためには一言一句を丁寧に和訳していく「訳読式」の読み方から脱却しなければなりません。その点、同校の卒業生は、中学校の先生からも「長文読解も嫌だとは言わない」と驚かれているそうです。

JTEの全校配置など環境に恵まれていても、「担任の先生がいかに勉強するかがカギです」と柳校長は言います。2015年12月に中央教育審議会から出された「チーム学校」についての答申は、同時に出された他の2答申と併せて、2016年1月に「『次世代の学校・地域』創生プラン」としてまとめられました。そのうちの1本「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」には、「学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて」という副題がついていることを見逃してはいけません。

アクティブ・ラーニング(AL)の視点で授業を改善して「主体的・対話的で深い学び」を実現し、学校教育全体を通して資質・能力の3つの柱を一体的に育成することを目指した次期学習指導要領。それを担う教員には、「学び続ける」姿勢が求められます。

「何を学ぶか」にとどまらず「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」を目指した次期学習指導要領が示す「教育観や学習観・授業観の転換」という点でも、「学び続ける教員像」という点でも、同校の取り組みは参考とすべき点が多々あります。

柳校長は、これから教師を目指す人に「大半の小学校教諭が英語科の免許を持っていないのですから、最初はできなくて当たり前。お互いに協力しながら、現場なりに工夫をしていくことが重要です。コラボレーションする力も、絶対に必要。弱音を吐ける力も、教師の力です」とアドバイスしてくれました。

p131_22人1組で進められるプレゼンテーション。子供たちは全身を使って楽しみます。

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