教師の本棚

『キアズマ』

p135

近藤 史恵=著
2013年/新潮社刊
¥1,500+税

“出会い”を通じて何かが生まれる

遠江 久美子(東京都町田市立鶴川第二中学校教諭)

大学に入学したばかりの正樹は、自転車部とのちょっとしたいさかいから、部長の村上にけがをさせてしまいます。謝罪する正樹に持ちかけられたのは、「自転車部に入部してくれ」という意外な提案。入部した正樹は、とっつきにくく苦手なタイプのエース・櫻井と共にロードレースに参加していくうちに、自転車の魅力に取りつかれ、徐々に櫻井を追い抜いていきます。どんどんロードレースの世界にのめり込み、才能を伸ばす正樹と、持病や重度のプレッシャーを抱えながらも走り続ける櫻井。大事な仲間が傷つき、自らの心も傷ついてくじけそうになる2人ですが、それでも走ることをやめられません。

タイトルの「キアズマ」とは、もともと生物学用語で「細胞の減数分裂過程で、対合した各2本の相同染色体がX字形をなして対手を交換する部位」(広辞苑)のこと。本作では、「人と人の出会いを通じて新たに何かが生まれ、気持ちが交差し受け継がれる」ことを意味しています。

学校では、教師と児童生徒、児童生徒同士、教師同士が複雑に絡み合い、刺激し合い、変化します。先日、生徒会役員を1年間務めたY君が次期生徒会選挙に「会長」として立候補したいと言ってきました。1年間やってきた自信とプライドと目立ちたい気持ちが交錯していました。ところが、対立候補に立ったのは人望もあり、頭も切れるR君でした。2人はどちらかが副会長になることも含めて話し合いをしましたが、互いに譲りません。Y君の担任である私は毎日、彼と話し合いを持ち、気持ちを確認していきました。何が一番大切なのか── その問いに向き合う中で、ずっと「会長」という役職にこだわり続けた彼が、少しずつ変わり、なかなか出せなかった“答え”を出しました。「一番大切なのは、僕が新生徒会に残り、つないでいくことです」と。これから、Y君とR君がタッグを組み、新生徒会がスタートします。何が起こるのか、何を起こしてくれるのか、2人の新しい「キアズマ」にワクワクしている自分がいます。

教セミちゃんねる 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご紹介