映画・ドラマに学ぶ教育の本質

「ザ・ウォーク」

2015年/アメリカ/ 123分
監督:ロバート・ゼメキス
原作:フィリップ・プティ
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット,ベン・キングズレー,シャルロット・ルボン 他

 

地上411メートルの綱渡り

吉田 和夫(玉川大学教師教育リサーチセンター客員教授/教育デザイン研究所代表/元東京都公立中学校長)

資本主義を象徴するかのような巨大ツインタワーが、かつてニューヨーク・マンハッタンにありました。その名も「ワールド・トレード・センタービル」。1972年にノースタワーが、1973年にサウスタワーが完成し、1973年4月4日に落成式典が挙行されました。完成時には世界一の高さを誇りましたが、2棟の巨大な直方体が並び立つ姿は当初、「Ugly(醜い)」と言われるなど評判が悪かったようです。しかし、時代が経つにつれ、ニューヨーク市やマンハッタンの繁栄のシンボルとなっていきました。

1974年、この2つのツインタワー間をロープでつなぎ、その間を綱渡りするという偉業に、フランスの大道芸人フィリップ・プティが成功しました。この映画はその実写化です。2008年にはドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」で映画化されていますが、本作では超高層タワー間の綱渡りをリアルに体感できる、スリリングな映像が楽しめます。

フランス生まれのフィリップ・プティは、幼い頃にサーカスの綱渡りを見てそのとりことなり、家族の理解も得られぬまま、綱渡り芸を披露しながら生活する大道芸人となります。その後、パリのノートルダム大聖堂の2つの小塔の間やシドニーのハーバーブリッジの綱渡りに成功し、喝采を受けるフィリップ。そんな彼はある日、壮大な計画を思いつきます。それは、地上411メートル、ニューヨークの超高層ビル、ワールド・トレード・センターの2つのビル間を、命綱なしで渡るというものでした。もちろん、それは法律違反・犯罪です。にもかかわらず、路上で歌を歌っていたアニーらを巻き込み、知り合った仲間に支えられながら、夢の大計画を実現させようとします。

命綱も救命ネットもない中、超高層ビルの間に張られた1本のワイヤーロープ上を歩くというのは、高い所が好きな私でも想像できない大冒険です。

フィリップにとって、綱渡りは「生きること」そのもの。周囲の「何故そんなことをするのか」という疑問を超越した情熱と夢、志があるのです。その実現のために、仲間を巻き込み、綿密で周到な計画を立て、全てのエネルギーを注ぐ。その純粋でひたむきな生き方には圧倒されます。何かを恐れ、自分本来の思いや感情の発露さえためらうような、私も含めた多くの小心者に「喝!」を入れる魅力的な映画です。

彼の偉業の舞台となったワールド・トレード・センタービルは、2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件により崩壊・消失します。このビルは1993年2月にも、反米テロリストの標的とされ、爆破物を満載した車が地下駐車場で爆発し、6人が死亡するという事件が起きています。この事件では、駐車場火災で発生した煙が両タワー全階に広がり、管内の全員が緊急退去するという事態に陥りました。事件後、セキュリティを徹底的に強化し、「最も安全なオフィス環境」と言われてきましたが、憎しみの連鎖が再びこのビルを襲いました。

フィリップのひたむきな情熱と夢、そしてワールド・トレード・センタービルにまつわる絶望と恩讐。本作を見ると、それらが複雑に交錯するがゆえ、いろいろと考えさせられます。

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