カリスマ教師の履歴書

File.19 天川 美章先生(川崎市立富士見中学校)

部活動・生徒指導で生徒の声をきく極意

部活動の指導はどのようにすべきか、望ましい生徒指導のあり方は――教員なら一度は悩むこの課題に、川崎市立富士見中学校の天川先生は「ゼロから学ぶしかない」と答えます。共通項は指導の目的を意識すること。生徒の本音を引き出せてこそ成果が上がると、天川先生は言います。

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文・長尾 康子

部活動を指導する目的

3時間目のチャイムが鳴り終わってから教室に戻ってきた男子生徒に「遅い!」と天川美章先生の声が飛びます。生徒が「お腹が痛かったんです」と答えると「大丈夫なのか?」と先生。生徒は「はい」とうなずき、ほっとした表情で席に着きます。授業前のありふれた会話かもしれませんが、生徒の素直な答えぶりに天川先生との自然な距離感が見て取れます。

JR 川崎駅から徒歩15 分の市街地にある川崎市立富士見中学校は、昭和22 年に開校した市内で最も古い中学校の一つです。地域には、新興のマンション世帯や親子3代・川崎という家庭、外国につながる家庭などさまざまな家庭があり、校内には日本語指導が必要な生徒が5名以上在籍する学校に設置できる日本語教室(国際教室)も置かれています。

スポーツや学術が盛んな学校としても知られ、廊下に並ぶトロフィーや表彰状の多さは目を見張るものがあります。社会科の天川先生はここに赴任して10 年目。顧問を務める相撲・柔道部は、平成27 年度神奈
川県中学校相撲大会で団体優勝3連覇、全国都道府県中学校相撲選手権大会の個人軽量級準優勝・団体5位、今年は関東中学相撲大会3位と、全国レベルの強さを誇ります。

さぞかし練習は厳しいのでしょうと尋ねると意外な答えが返ってきました。

「周りが思っているほど私は部活人間じゃないんですよ。何事もやりすぎはよくありません。土日両日を練習にあてることはしませんし、他の部活動より下校が早い日もあります。」

若い先生方には部活動は毎日びっしり練習するもの、などと考えてほしくないと天川先生は言います。

「目標と目的は違います。優勝を目指すことは目標です。これは子供たちとよく話しますし、そのために練習も集中してやります。しかし、私たちは公立学校の教員ですから部活動を指導する“目的”はしっかりとらえなくてはなりません。生徒一人ひとりが自らの特性を生かせるようにすること、課題を乗り越えていく姿を応援することが目的なのです。」

 

相撲を通して心の成長を促す

相撲のぶつかり稽古では、天川先生が相手役を務めます。

「半端な当たり方をしてきたら押し出す、しっかりと当たってきたら受け止める。続けていると子供たちはその反応を励みに思うようになります。思春期に入り急に体が大きくなり、自我に目覚めようとしている中学生に、裸になって胸を貸す。これが子供たちの心に与える影響は少なくないと思います。」

体重100 キロを超す生徒に、跳ね飛ばされてしまったこともあるそうなので、先生も真剣です。これまで、卒業していった生徒や保護者から寄せられた「あの時、相撲のおかげで持ちこたえられた」「相撲と出会えたことで、あの子は道を誤らずにすんだ」という言葉の裏側には、“目的”を見定めた天川先生の信条に対する信頼が感じられます。

 

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生徒指導に通じる振り返り

部活動の練習後には「今日の練習はどうだった? 課題はあるかい? 頑張ったか?」と生徒に尋ね、語らせるのが実力アップの秘訣だと言います。

「自分はこうしたい、本当はこうなんだ、という思いが生徒の内側から出てこないと自己実現ができません。自己実現ができなければ、試合の結果にもつながらないのです。生徒が自分の言葉で語った方が、生徒の心も試合の結果も伸びると感じてから、説教めいたことはしなくなりました。」

この考えは、天川先生の生徒指導の方針とも重なります。同校で、いじめ・暴力防止に向けた取り組みを徹底しようとなったとき、天川先生をはじめとする生徒指導部は、生徒を中心にした「キャンペーン活動」を推進しました。学級会活動や学校議会を通じ、生徒たちが議論して作り上げた「いじめ・暴力防止スローガン」は、生徒自身にそれを守るモチベーションを持たせることに成功したと言います。

ゼロから教わり、学んだ

相撲・柔道部が全国大会に出場するときには、試合に注力するのと同時に、仲間と過ごす楽しさを味わい、自然に触れたり、見聞を広めたりする機会を与えたいと天川先生は考えています。そのため地方遠征では、生徒の声に応えて観光名所を見学することもあるそうです。

「若い時は、どんな先生だったのでしょう?」と尋ねると、「自分の思いを伝えることに先走っていた時期もあった」と言います。

実は天川先生、自身が中学時代は、相撲の全国大会で団体3位の成績を収めたことがあります。その実績を買われて、教員1年目から相撲部顧問を担当することになったそうです。

「経験者といっても中学生の時の話ですし、顧問になった頃には、まわしの締め方やルールもすっかり忘れていました。焦って相撲の指導書を買い込んできて、ゼロから勉強し直しました。」

川崎市は昔から相撲が盛んな土地柄。初任で相撲部顧問を任されたプレッシャーは大きかったに違いありません。そうした重圧を原動力に変えたのは、相撲に対するあくなき探求心。高校や実業団の練習を見学に行ったり、県内唯一の相撲部屋である春日山部屋に通って稽古の仕方を学んだりしたそうです。

「当時は先輩の先生方がまぶしくて仕方がなかったですね。技術を教えられるようになるまでは、多くの方の教えがあったと感謝しています。教員は、目の前の子供たちと一緒に学んでいくしかないのです。」

 

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Profile
天川美章(あまかわ よしあき)
1956年8月7日生
1981年3月……大学卒業
1981年4月……川崎市立大師中学校に赴任
1992年4月……川崎市立川崎中学校に赴任
2000年4月……川崎市立西高津中学校に赴任
2007年4月……川崎市立富士見中学校に赴任

座右の銘

不易流行

趣味
山歩き、スキー、ギター、写真、バイク、カラオケ

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