映画・ドラマに学ぶ教育の本質

「0.5ミリ」

p134

2013年/日本/196分
監督・脚本:安藤 桃子
出演:安藤サクラ 柄本明 坂田利夫 草笛光子 津川雅彦 他

 

幸福をもたらす “押しかけヘルパー”

吉田 和夫(玉川大学教師教育リサーチセンター客員教授/教育デザイン研究所代表/元東京都公立中学校長)

見終わって、何とも切ない気分が残りました。上映時間196分という大作ですが、不思議と長い印象はありません。それより、何かひたすら切ないのです。決して暗いだけの映画ではありませんが…。

介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)はある日、派遣先で寝たきり老人の娘から、唐突に「どうか冥途の土産に、おじいちゃんと寝てほしい」と頼み込まれます。サワは「一晩添い寝するだけ」との条件で仕事を引き受けますが、その晩、思いもよらない“事件”が発生します。そのせいで職場も住居も失い、無一文になってしまったサワ。住み慣れた街を離れ、各地を転々とする日々となります。そして、駐輪場の自転車をひそかにパンクさせて回る茂(坂田利夫)、エロ写真集を本屋で万引きする元教師の義男(津川雅彦)など、ワケあり老人の元へ“押しかけヘルパー”として入り込んでは、不思議な絆を結んでいきます。

男物のコートをまとい、いすず117クーペ(懐かしい!)を駆って、家から家へとさすらい、押しかけるサワ。そんな調子の良い一面がある一方で、働き者で、掃除・洗濯・炊事もよくできる。加えて、仕事だけでなく、孤独な老人の心を慰める不思議な力も備わっている。いいんじゃない、と思える。そんなサワに、最初は迷惑がっていた老人たちも次第に穏やかな心になり、別れ際には「ありがとう」と礼を言うまでになります。
風の又三郎のように、どこからともなくやって来て幸福をもたらし、どこへともなく去って行く彼女の存在により、「死」に近い老人たちの「生」が輝き出します。「そんな、介護士がいるといいな」と、年寄りになりつつある私は思うのです。

本作は、安藤桃子の小説(自身の介護経験に着想を得て書き下ろした作品)を、2014年に同名タイトルで映画化したものです。監督・脚本は作者である安藤が担当し、主役には実妹の安藤サクラを迎え、エグゼクティブプロデューサーは実父の奥田瑛二、フードスタイリストは実母の安藤和津が務めるなど、家庭的な作品でもあります。

作品名「0.5ミリ」の意味については「静電気が起こるくらい近い、人と人との距離感が0.5ミリ」と安藤桃子が語っています。昨今の情緒的で説明過多な映画とは真逆に、説明もなく、観る人が“感じること”を大事にする映画です。

一面では、高齢者介護の社会的問題を暴き出すような作り方にも思えますが、その辺の主題は明確ではありません。加えて、作品の中で主人公・サワのことはまったく語られず、彼女がどんな人なのか、どこへ向かおうとしているのかは、最後まで分からないのです。でも、何となくそんな人生に共感する“私”がいることに、きっとあなたも気付くでしょう。何はともあれ、年を取ってから、エロ写真集を万引きする元教師にはなりたくないなと思います。

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