レポート教育最前線

小中の9年間を見通し、児童生徒の発達と成長を促す 義務教育学校の実践

横浜市立義務教育学校霧が丘学園

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今年度の大きな教育ニュースの一つに、「義務教育学校」制度のスタートがあります。新しい学校種の創設は、「中等教育学校」(1999年度から)や「特別支援学校」(盲学校・聾学校・養護学校を一本化、2007年度から)に次ぐもの。「小中一貫教育」の一種として、小学校6年間(前期課程)と中学校3年間(後期課程)の9年間を一体として、柔軟な教育課程を編成することが認められています。実際に「義務教育学校」となった学校では、どのような実践が行われているのでしょうか。

文・ 渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

自治体独自の取り組みから
「小中一貫教育」として制度化

義務教育学校について説明する前に、まず、小中一貫教育とは何かを見ておきましょう。

もともと小学校と中学校を一体で運営する「小中一貫校」(通称)は、2000年代に広島県呉市や東京都品川区などで始まり、京都市、東京都三鷹市などに広がっていきました。ただし、正式な学校制度ではなく、あくまで自治体独自の判断で運営する、自主的な取り組みでした。そのため、品川区などは全国連絡協議会を作り、国に制度化を要望していました。

一方、2006年12月の教育基本法改正で「義務教育」条項(第5条)が設けられたことをきっかけに、義務教育の9年間を通して、どのように子供を育てるかという「小中連携」がクローズアップされてきました。その後、政権交代の曲折を経て、「教育再生実行会議」第5次提言「今後の学制等の在り方について」(2014年7月)と、それを受けた中央教育審議会「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について」の答申(同年12月)が出され、正式に「小中一貫教育」が制度化されるに至りました。

小中一貫教育には、新しい学校種として法制化された「義務教育学校」(2015年6月の改正学校教育法で第5章の2として規定)と、既存の小学校と中学校を一体で運営する「小中一貫型小学校・中学校」の2つの形態があります。小中一貫型の場合、組織上はあくまで別々の小学校・中学校であるため、それぞれの学校に校長をはじめとする教職員が配置されます(兼務あり)。教職員は、自身が所属する学校に相当する教員免許状を持っていれば事足ります。

これに対し、義務教育学校は一つの学校なので、校長は1人、教職員組織も一つです。ただ、小学校に相当する第1〜6学年は「前期課程」、中学校に相当する第7〜9学年は「後期課程」と位置付けられています。免許は、小学校と中学校の併有が求められますが、当分の間は、小学校免許を所持していれば前期課程を、中学校免許を所持していれば後期課程を、それぞれ指導できることとなっています。

施設形態としては、義務教育学校、小中一貫型小・中学校とも、「施設一体型」「施設隣接型」「施設分離型」の3種類があります。こうした措置は、小中一貫教育に転換する前の施設状況などを加味したものです。

小中一貫教育校には、教育課程の特例が認められています。どの形態の学校も、一貫教育に必要な独自教科を設定でき、前・後期間ないし小・中学校間で、指導内容を入れ替え・移行できるメリットがあります。児童生徒の実態に応じた9年間のカリキュラム編成を通して、義務教育の内容を着実に定着させたり、重複する内容を精選することで、特色ある教育活動など他の学習・指導に充てる時間を増やしたりすることも可能になります。

 

区切り方は学校の工夫次第
要は系統性・体系性

小中一貫教育校の多くは、小学校6年間、中学校3年間という学年の区切りを弾力化しています。小中一貫教育の制度化の狙いとして、学力向上などの他に、中学校に上がると小学校とは環境が大幅に変わって学校生活になじめなくなる「中1ギャップ」の解消があるからです。これまでの事例をみると、9年間を「4-3-2」に区切るパターンが、圧倒的に多くなっています。

しかし制度上、必ずしも「4-3-2制」にする必要はありません。「5-4制」や「4-5制」など、他の区切りを行う学校もあります。要は、9年間を見通した教育目標を設定し、系統性・体系性に配慮した教育課程を編成すればよいのです。

文部科学省の調べによると、制度化初年度となる2016年4月時点で、公立で義務教育学校となったのは、13都道府県15市区町の22校でした。このうち施設一体型が19校を占めています。学年の区切りを見ると、確かに「4-3-2制」が15校と多くなっています。

他にも、43自治体が今後、義務教育学校を設置する意向を持っています。現段階では、2017年度39校、2018年度37校の設置が予定されています(他に国立3校、私立2校)。今後、さらに増えることは確実ですが、やはり「4-3-2制」の導入を計画している学校が半数以上となっています。

一方、公立の小中一貫型小・中学校は初年度、21府県37市町村の115校(小・中学校の組み合わせ件数を1校とカウント、他に私立2校)となっています。ここでは施設分離型が89校と、4分の3を占めています。

改めて注意しておきたいのは、小中一貫教育校だから学年の区切りを変えなければならない、あるいは施設一体型でないと義務教育学校にできない、などと固定的に考えてはいけないということです。制度はあくまで制度であって、それをどう活用するかは、自治体や学校の判断によるのです。その好例を、今回取材した横浜市立義務教育学校霧が丘学園の実践から、うかがうことができます。

p129小学部と中学部の児童生徒による「交流タイム」の様子

 

一貫校にしたからといって
解消しない“学校文化”の違い

横浜市では義務教育学校が制度化される以前から、独自の取り組みとして、全市を挙げて「横浜型小中一貫教育」を展開してきました。2007〜2008年度に策定した小中一貫カリキュラム「横浜版学習指導要領」に基づき、2009年度以降、中学校と複数の小学校がブロックを組み、教職員が情報交換や連携を行い、学力観や指導観、評価観を共有することを通して、「横浜の子ども」(横浜教育ビジョン)の育成の実現を目指しています。

霧が丘学園の前身である霧が丘第一・第二・第三小学校と霧が丘中学校は、同市緑区霧が丘地区の人口増に対応して、いずれも1982〜1984年度に相次いで開校しました。その後、地区の少子高齢化に伴い、2006年度に第一・第三小学校を、道1本を挟んで中学校に隣接する第二小学校の校地に統合した「霧が丘小学校」が開校します。これによって、各学年3学級(他に個別支援4学級)の学校規模が確保できました。中学校も各学年3学級(同2学級)です。

そうした立地上の利点に目を付けた横浜市教育委員会が、横浜型小中一貫教育のさらなる進化のため、2010年度「霧が丘小中学校」として、西金沢小中学校(金沢区)とともに、併設型小中一貫校に指定します。

ただし、小学校と中学校は、あくまで別々の組織です。小中一貫校になっても、7〜12歳の児童の初等教育を担う小学校と、13〜15歳の生徒の前期中等教育を担う中学校では、学習指導や生活指導など、さまざまな面で“学校文化”の違いがあるため、お互いの壁を乗り越えるのは容易ではないのが現実です。たとえ1人の校長が両方を兼務することにしても、学校運営上の工夫とともに、教職員の意識改革も不可欠です。こうした課題は、全国共通のものと言えるでしょう。

中学校教員出身である同校の酒井徹校長が2014年度、横浜市教育委員会人権教育・児童生徒課長から霧が丘小中学校に異動となったのも、そんな同校を「本当の小中一貫校」にすることを期待されてのことだったと言います。

「本当の小中一貫校」づくりが軌道に乗り、義務教育学校が制度化されたことに伴い、横浜市の条例を改正し、同校は「義務教育学校霧が丘学園」として今年4月から再スタートを切ることになりました。それに先立ち、2010 年には小・中学校を隔てていた道も閉鎖され、霧が丘学園の敷地に編入されています。敷地面でも一つの学校になったわけです。

校長はもちろん、酒井校長1人。小学部(前期課程)には准校長(横浜市独自の制度で、校長と副校長の間の職)と副校長各1人、中学部(後期課程)には副校長1人を配置しています。校長室は、中学部の校舎に置きました。

p130_1中学部教師による小学生への授業

 

「4-3-2制」から
「6-3制」に“戻す” !?

義務教育学校に移行して、変わった点があります。それまで、同校では併設型小中一貫校として「4-3-2制」をアピールしてきましたが、それを「継ぎ目のない9年間の義務教育」としたのです。文部科学省にも、同学園の区切りは「6-3制」であると報告しています。小中一貫教育といえば学年の区切りを変えることだ、という固定観念を持つ人にとっては、逆行しているようにさえ思えるでしょう。

しかし、酒井校長は「義務教育学校にしたのは、『小中一貫教育の実施』が目的ではありません。児童生徒や教職員の成長が目的なのです」と強調します。新しい制度を導入する場合、導入すれば即、何かが変わると思ってしまいがちです。しかし、制度の実施を優先するあまり、肝心の教育がおろそかになっては、何の意味もありません。会議のための会議をやっても、負担感が増すばかりです。逆に、取り組みによって児童生徒の成長や、他の教職員と協力できていることが実感できるなど、「やりがいや満足感を得られているとき」には忙しくても負担を感じない、ということが、横浜市の調査でも明らかになっています(2014年6月の調査報告書)。

例えば「4-3-2制」を導入するとして、「4年」「3年」「2年」のブロックにこだわるあまり、各ブロックが断絶してしまっては、意味がありません。むしろ、子供の発達にとって「小学校6年間、中学校3年間という制度は、よくできている」(酒井校長)面もあります。

そこで、小中一貫教育の特性を①長期間、児童生徒の成長に関わることができる(学力の向上、生徒指導、特別支援教育など)、②年齢幅のある児童生徒が交流できる(心の成長、社会性の獲得など)── ととらえ、効果的なタイミングで必要な活動を織り込んでいく「フレキシブルな異学年交流」ができるのが「継ぎ目のない9年間の義務教育」のメリットだというのが、同学園の考え方です。

小・中学部の共同授業は、年間約40日間にも上ります。例えば、道徳で校長が中学部の7〜9年生に講話を行う際には6年生を加える、7年生の国語に5年生を参加させて言語活動が後の学年でどう展開するかを実感させる、といった具合です。小学部の児童と中学部の生徒との交流活動は、年少者にとっては年長者が「ああなりたい」というロールモデルになりますし、年長者にとっては、思いやりの心とともに、自己有用感を育むことにもなります。そうした活動を仕掛けやすくできるのが義務教育学校だ、というのが同学園の考え方です。
とりわけ特別支援教育で、その効果が発揮されるといいます。芋掘りや調理実習で、2年生と7年生が共同で作業をすれば、7年生は「ヒーロー」になれます。特別支援に限りませんが、少子化で子供同士の人間関係が希薄化する中、意図的・計画的に教育活動を行っていくことが、今どきの子供たちには必要になっています。

p130_2生活科の「学校探検」で,中学部の授業を見に来た小学部1年生の児童

 

次期学習指導要領の実施で
ますます必要になる校種間連携

次期学習指導要領は、「資質・能力の三つの柱」という共通の視点で、教科・領域等を横断する「横のつながり」と、学校種間を縦断する「縦のつながり」によって全体の構造を可視化することを目指しています。

これまで以上に、隣接する学校種のことを理解するとともに、幼・小・中・高の長いスパンの成長を見越して、指導に当たることが各学校段階で求められます。普通の学校でも、学校種の違いを越えて、義務教育学校をはじめとした小中一貫教育校や、中高一貫教育校に学ぶことは多くなりそうです。それには、お互いの教職員の頻繁な人的交流が欠かせません。

「夏休み期間中は、1日1万歩強にしかなりませんね。学期中だと1日2万歩はいきます。」取材当日、酒井校長は万歩計を見せ、笑いながらそう話しました。教職員や子供たちの顔を見ること、そして自身の顔を見せること──。酒井校長の姿勢は、学校経営における基本中の基本であるといっても過言ではないでしょう。多忙化で会議の時間もままならない中、互いが“顔を突き合わせること”は、今後ますます重要になります。

2015年11月から、同校では小学部の6年生も、中学部の部活動に参加できるようにしました。放課後、隣の校舎からランドセルを背負って小学生がやって来る── そんな光景が当たり前になったのも、子供たちにとって大きな変化だといいます。

「制度をどう活用するかは、校長や教職員の考え方次第です。『無理なく、あせらず、ゆっくりと、できることから』が、本校の合言葉です」と、酒井校長は話します。一貫教育に限らず、学校の教育活動全般に共通する言葉ではないでしょうか。

最後に、これから教員になろうとする人たちに対して、酒井校長は「困った時は同僚と一緒に相談して取り組むことが必要です」と、宇都宮桂准校長は「子供たちと楽しく過ごしたい、という気持ちを忘れずにいてください」と、アドバイスを送ってくれました。

p131小学部・中学部の教員による合同の児童生徒指導部会

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