教職感動エピソード

Vol.18 あなたたちは宝の山だったよ

阿部 洋子(広島県小学校教諭)

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子供たちとの出会い

私がその5年生の子供たちと出会ったのは,異動した年の4月でした。お互いに探り合うような状態だったかもしれませんが,私は子供たちに「みんなは宝の山」「お互いの良さを見つけ,磨き合おう」と話し,高学年として良いスタートが切れたと思いました。

異動当初,私には子供たちの情報が少なく,宿題一つとってもどれくらいが適量なのか分からず,出し過ぎているためにできない子供が多いのかなどと,判断に悩んでいました。また,始業前の号令かけも時間がかかるので,日直による号令はやめにしました。子供たちのできない部分ばかりが気になり,気付かないうちに毎日のように,「今日からこうしよう」「ああしなさい」などと言うようになっていました。

それまでの私は,押さえつけ,声を荒げることで,ある程度学級をまとめることができると思っていました。しかし,このとき私が出会った子供たちは,そんなやり方を許してはくれませんでした。次第に子供たちの不満が沈殿し,クラス内での靴隠しが相次いだり,「この子の指導は難しい」と聞いていたA君が,こちらが叱るとにらんで出ていく,気に入らないと立ち歩くなどの行動に出るようになったりしました。いったいどうしたらよいのか,じっくり考える余裕もありませんでしたが,とにかく私は,「大きな声で叱らない」こと,そして子供たちを「揃えない」こと,の2点を実行することにしました。この「揃えない」ということが,私にはとても難しいことでした。子供たちには,同じことを同じようにさせるのが当たり前だと思っていたからです。

さて,その学校では6月の終わりに宿泊学習がありました。学校の課題として,ゲストティチャーや保護者の参加型授業をするというものがあったため,私は子供たちが楽しみにしていたこの宿泊学習の準備にも,「調べる」「練習する」といった参加型のグループ活動を多く取り入れました。すると,今までばらばらに見えた子供たちに協調性が感じられるようになったのです。その様子を見て,私は普段の教科学習の中でもペアや班学習を取り入れることにしました。無理に揃えようとするのではなく,子供たちがそれぞれの力を発揮して関わり合うことで,伸びていくことができないだろうかと考えるようになったのです。

放送劇を作ろう

2学期に入り,国語科教材として「マザー・テレサ」を取り上げることになりました。伝記は,思春期に向かいつつある5年生の子供たちが出合う題材として,何か意味があるように思いました。そして,何かを成し遂げた偉人の話としてではなく,少年・少女時代にどんな子供だったのか,どのように成長して夢を実現したのかを,「生き方メッセージ」として受け取れるような形で,伝記の読み方ができたらと考えたのです。

この学習を計画するに当たって,私はA 君の顔を思い浮かべました。本を読んでも長続きせず,自分ができないと思うとすぐにやめて立ち歩いてしまうA君。彼がやりたいと思うだろうか,彼が続けられるようにするためには,どうしたらよいのだろうかと考え,授業計画を練り直していきました。本当は子供たち一人一人のことを考えて計画すべきだったのでしょうが,当時の私にそんな力はなく,彼のことを考えることが他の子供たちのことを考えることにもつながるんだと思うようにしていました。

まず,伝記を「メッセージとして読む」ことについて理解するため,スーザン・バーレイの絵本『わすれられないおくりもの』を読みました。この絵本は,物ではなく思い出や知恵なども,かけがえのない贈り物となるということをテーマにした物語です。次に,ベルの伝記をモデルとして作った放送劇のテープを聴かせ,伝記の人物から受け止めたメッセージをみんなで放送劇にしようと伝えたのです。

放送劇は子供たちにとってなじみのないものでしたが,テープから聞こえてくる劇風な話の展開には興味を持ったようでした。そして,教材「マザー・テレサ」の一場面を選んで,班ごとにシナリオを作ってみました。その際,「シナリオ名人」によるシナリオ作りのアドバイスなどが書かれた「手引」を渡しました。この「シナリオ名人」については,「名人って,先生のことでしょう? 」と聞いてくる子供もいましたが,実際には演劇をやっている知人にアドバイスを受けながら作成したものです。そのことを伝えると,子供たちは先生以外の大人との交流に,刺激を受けたようでした。子供たちはグループで頭を寄せ合い,「手引」を参考にシナリオ用紙に台詞やナレーションを一生懸命に書いていきました。

時間がかかっても

「マザー・テレサ」でシナリオを書くコツをつかんだ子供たちは,次に自分たちが選んだ人物についてのシナリオを書きました。こうして書くと,簡単なことのようですが,その作業には結構な時間がかかりました。各自がブックリストを見て人物を選び,その人を選んだ理由をメモし,グループでどの人に決めるかを話し合う。グループ全員が最初から同じ人物を選ぶような偶然はほとんどないため,推薦する理由をはっきりさせ,他のメンバーを説得するという難題が課せられています。

人物を決めたら,次はどの場面をシナリオにするかを決めるため,各自がその人物に関するさまざまな本を読みます。本は,いろいろな種類のものを集め,場合によっては他の教科書会社の教材や私がリライトしたものも用意し,個々の読む力に応じられるようにしました。これは子供たちを「揃えない」ための私なりの工夫でしたが,子供たちは自分が読める本を自分で選んで読んでいました。

それらの本を読んでからシナリオを書くのにも,かなりの時間がかかりました。しかし,その頃になると子供たちは,自分たちで書き上げたシナリオで演じ,録音したいと思うようになっていました。雑音が入らないように放課後の図書室で録音するグループ,効果音を工夫しながら何度も録り直すグループ,ベートーベンの「月光」を音楽の先生に弾いてもらうグループなど,子供たちは進んで工夫を凝らし,録音テープを完成させていきました。そうして完成した放送劇は,お昼の放送で順次流してもらい,大きな達成感を味わうことができたのです。

「みんな」の基本は

翌年の3月,私が再び異動することになったとき,A 君が「先生にあげる」と手塚治虫の漫画をくれました。放送劇で手塚治虫のことを知り,読んでみたのだと言います。たった1年の付き合いでしたが,押さえつけ,声を荒げていた私の姿勢にストップをかけてくれた子供たち。「みんな」の基本は揃っていない子供一人一人であることを示し,頭を寄せ合って考えたり作ったりすることのすばらしさを教えてくれたクラスでした。「あなたたちはやっぱり宝の山だったよ」と今でも思っています。

 

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