学校不祥事の顛末

給食中のアレルギー事故で女子児童が死亡

【今月の事例】
給食中のアレルギー事故で女子児童が死亡
A県教育委員会は、B市の小学5年の女子児童が給食を食べた後、アレルギー症状を起こして死亡した事故で、当時の担任だった男性教諭(29)を同日付で停職1カ月、校長(57)を戒告の懲戒処分とした。県教委によると、死亡した児童が給食のおかわりを申し出た際、担任は児童がアレルギー症状を引き起こす食品かどうか確認を怠り、校長も教諭への指導監督を徹底していなかったという。

 

【法律家の眼】

取り返しのつかない事故
そこから何を学び生かすか

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 アレルギー事故から何を学ぶか

学校給食は食育の場であると同時に、友達と一緒に楽しく食事をすることができる大切な時間です。食物アレルギーを持つ児童生徒にとっても、他の子供たちと同じメニューで食事できることは、大きな楽しみと言えるでしょう。
しかし、本事例のような取り返しのつかない事故が発生する可能性があることも事実です。痛ましい事故として終わりにするのではなく、そこから何を学び生かすかが問われています。

 

2 学校給食とアレルギーに関する裁判例

学校でのアレルギー事故については、有名な裁判例があります。市立小学校6年生の男子児童が、学校給食でそばを食べたところ、そばアレルギーによる喘息発作により死亡した事故で、裁判所は担当教諭と市教育委員会の過失を認めました(札幌地方裁判所平成4年3月30日判決)。
同判決では、
○ 児童調査票で給食の注意事項として、「そば汁」と申告があったこと
○ 男子児童から「そばが食べられない」と言われていたこと
○ 健康診断書に気管支喘息の疾病が存在すると記載されていたこと
○ これまでそばの給食時にそばを食べていなかったこと
等から、児童がそばを食べないことに重大な事情が存在し、それが疾病に関連すると考えることを要求してもあながち不可能を強いるものではないとしました。また、そばアレルギーを警告し、対策を示す書物が多数出版され、その危険性が新聞等でも指摘されていたことから、予見可能性および結果回避義務違反が認められるとして、担当教諭の過失を認定しました。
この判決から25年近くが経過した現在、各種食物アレルギーの危険性は、当時と比べて格段に広く一般社会に浸透しています。したがって、学校側の予見可能性は、当時より一層認められやすくなっていると考えられます。

 

3 「過失」とは何か

法的な意味での「過失」とは、何らかの注意義務があったにもかかわらず、それに違反したこと(=注意義務違反)を言います。注意義務違反は、結果を予見することが可能であったのに(=予見可能性)、回避手段をとらなかったこと(=回避義務違反)と言い換えられます。
本事例の場合、前述したそばアレルギーの裁判例と異なり、食物アレルギーを引き起こす食品が何かを把握できており、その食品を含む食事を摂ればアレルギー症状が出ることは予見できる状況にありました(予見可能性あり)。そして、アレルギーを引き起こす食品が含まれるかどうかを確認する手段があり、確認は容易であったにもかかわらず、これを怠ってしまったのです(結果回避義務違反あり)。こうした過失が、停職1カ月という懲戒処分の根拠と考えられます。

 

4 そのとき自分だったらどうするか

アレルギーのある児童生徒への給食提供にあたっては、担任、栄養士(栄養教諭)、養護教諭、管理職など学校関係者により、知識や方針を共有するための研修を実施することが必要です(こうした態勢を整えていなければそれ自体が過失と評価されるでしょう)。危機管理としては、事前の問題として「アレルギーを引き起こす食品を食べさせない」、事後の問題として「迅速かつ適切な処置(応急手当て・救急搬送等)をする」ことが必要です。ただし、いくらこうしたシステムや研修を充実させたとしても、最終的にはそれに関わる人の問題に行き着きます。「そのとき自分だったらどうするか」という当事者感覚をもって研修に臨み、一瞬の気の緩みが教え子の命を危険にさらすという緊張感を忘れず、子供たちの笑顔を支えていただきたいと思います。

 

【教育者の眼】

かけがえのない命を守るために
学校と教職員に求められること

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

食物アレルギーを有する児童生徒への対応は、日々の健康管理を行う学級担任や養護教諭はもとより、教職員全員で共通理解を図り、校内体制等を確立していく必要があります。具体的には、以下のような取り組みが求められます。

 

■食物アレルギーを有する児童生徒の把握と対応

食物アレルギーを有する児童生徒の情報を正確に把握するため、希望する保護者に「学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)」を提出してもらいます。学校はこれを参考にしながら、保護者や主治医、学校医等と相談しながら、適切に対応していくことが求められます。
食物アレルギーへの対応は、あくまでも医師の診断と指示に基づいて行う必要があります。管理指導表については個人情報の取扱いに十分留意しつつ、緊急時には教職員がすぐに見られるような形で管理することが大切です。

 

■緊急時の対応

「アナフィラキシー」とは、アレルギー反応により、じんましんや腹痛や嘔吐、呼吸困難などの症状が、同時にかつ急激に出現する状態のことです。児童生徒に起きるアナフィラキシーの大半は、食物に起因するものです。
症状が重篤で、意識障害などが見られる場合は、足を頭より高く上げた体位で寝かせ、嘔吐に備えて顔を横向きにします。そして、意識や呼吸、心拍、皮膚の色などの状態を確認しながら、必要に応じて1次救命措置を行い、医療機関への搬送を急ぎます。
「エピペン(アドレナリン自己注射薬)」がある場合は、なるべく早期に注射するのが効果的です。そのためにも、教職員全員が「エピペン」に関する一般的知識と使用方法などを共有し、「アナフィラキシー」に対して“いつでも”“誰でも”適切に対応できるようにしておく必要があります。

 

■学級担任としての対応

担任は、誤食事故等が起きないよう、献立内容の確認、給食当番の役割確認、配膳時の注意、おかわり等への注意、片付け時の注意などについて、確認作業等が形骸化しないようにする必要があります。日常的に、健康診断記録、学校生活管理指導表、保護者からの事前調査票、個別面接や個別指導の記録を確認し、対象となる児童生徒の健康状態を把握することも大切です。また、食物アレルギーを有する児童生徒に対して、児童生徒自身で誤食のないよう判断できる能力を育成していくことも大切です。

 

■遠足や宿泊を伴う校外活動等における対応

特に注意が必要なのは、遠足や宿泊を伴う校外行事です。事前に見学場所や宿泊先と情報交換を行い、食事面での配慮を依頼する必要があります。校外での活動は、普段の授業に比べて学級担任等の目が十分に届きにくい側面があります。そのため、参加する教職員全員が、食物アレルギーを有する児童生徒の状況や緊急体制について共通理解を図っておくことも大切です。教師を目指す皆さんは、かけがえのない子供の命を預かるわけで、そのことを肝に銘じてください。

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