レポート教育最前線

子供の実態に即して考え、議論させる「特別の教科 道徳」

東京都武蔵村山市立第八小学校

P128

道徳教育は「学校の教育活動全体を通じて行う」(学習指導要領)ものですが、その“要”となってきた「道徳の時間」が、2015年3月の学習指導要領一部改正で、「特別の教科  道徳」(道徳科)となりました。小学校は2018年度から、中学校は2019年度から、検定教科書を使った授業が始まります。新しい道徳科の授業を、どのように作っていけばよいのでしょうか。

文・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

文部科学省の研究開発学校として
2015年度から「徳育科」を実践

7月8日、武蔵村山市立第八小学校では、小野寺恵美教諭による2年生の「徳育科」の研究授業が行われました。小野寺教諭は採用2年目ながら、東京都教育委員会の「東京教師養成塾」出身者として、初年次から校内研究の一翼を担っています。

使用する教材は、独自に作成した「あれあれペンタくん」。文部科学省作成の道徳教育用教材「私たちの道徳」にある「るっぺ  どうしたの」(内容項目=節度、節制)を、同校の児童の実態に合わせて改変したプリント教材です。ペンギンのペンタくんの1日が、①朝、なかなか起きられない、②学校に着いても靴などを適当にしまう、③手を洗った後、ハンカチで手を拭かない、④帰ってもゲームに夢中になって、宿題ができない――という4つの場面で構成されています。この日の授業は、これらの場面の絵を小野寺教諭が黒板に貼り付けていく形で進んでいきました。

このクラスでは、1年生の時、単元「ちゃんとの達人」で、学校での整理整頓について学習し、担任の先生から、言われたことができるようになった証しとして「シルバーベルト」をもらっていました。小野寺教諭は授業の冒頭、そんな前年度の学習を振り返りながら「今日は、ゴールドベルトにレベルアップするために、自分でできるようになるための勉強をします」と説明し、感情をたっぷり込めながらプリント教材を読み上げます。続いて、1つ目の場面について、①朝、早く起きなかったら、どうなるか(行為の結果や影響)②早く起きるためにはどうしたらよいか(解決策)――を、全員が意見を出し合う形で考えさせました。②のどうしたらよいかについて考える際には、「いつ」「なにを」「どうする」というポイントも示しています。考えることが苦手な児童への具体的な手立てです。

①について、「6年生になっても、遅刻するから困る」など、次々に意見が挙がると、小野寺教諭は「いいですね!」と相づちを打ちながら、児童の考えを引き出していきます。その間も、評価のために児童一人一人の特筆すべき様子を手元に書き留めたり、配慮を必要とする児童に机間指導を加えたりすることを忘れません。

残りの3場面は、各自一つを選ばせて、ワークシートに書かせます。その後、各場面について発表しながら、①誰が困るか、②きちんとした生活ができるようになると、どんなことがよいか――を考えさせた後、学習のまとめとして、ワークシートに「きちんとしたせいかつをすると、じぶんもみんなも〜」の後に続く言葉を書かせました。本時のねらいである、問題解決に向けての「思考・判断・表現」を育成する具体的な工夫が、そんなところにも表れています。

最後に、小野寺教諭は「先生も、よく忘れ物をします。みんなも、苦手なことがあって当たり前。どうしたらそれができるようになるのか、一生懸命考えることが大事です。今日は、そのための勉強が上手にできました。それを来週から、2学期、3学期と積み上げていってほしいと思います」と励まして、授業を締めくくりました。

授業の後、全教員と他校の教員4人、それに研究開発に当たって指導を受けている貝塚茂樹・武蔵野大学教授ら4人の講師を交えて、校内研究の協議会が行われました。協議会の開催は、今年度は既に5回目。論点を①授業のねらいは適切だったか、②ねらいに迫るための指導方法(問題解決的な学習)は有効だったか、③ねらいに迫るための支援は効果的だったか、④ねらいに達しているかを見取る評価は適切だったか――に絞り、4〜5人のグループに分かれて討論をします。グループ内での討論では、「低学年段階での“問題解決”をどう考えるかが難しい」などの課題も提示されました。
※東京都が教員志望者の大学生を募集して主宰する教師養成塾。塾生になると、教員採用試験の特別選考枠での受験が可能となる。

P129プリントについて説明する小野寺教諭。「あれあれペンタくん」は、独自に作成した教材です。

国の動向をにらみつつ
学校現場の課題解決に取り組む

文部科学省は、従来の「道徳の時間」について、①各教科等に比べて軽視されがちだった、②読み物の登場人物の心情理解のみに偏った形式的指導になりがちだった、③発達段階を十分踏まえず、望ましいと思われる分かり切ったことを言わせたり書かせたりする授業になっていた――などと反省した上で、新しい道徳科について、“考え、議論する道徳”への転換を図ることで、児童生徒の道徳性を育むことを狙いとすると説明しています。

その上で、内容項目を小学校第1・2学年は19項目、第3・4学年は20項目、第5・6学年は22項目、中学校も22項目に整理するとともに、その内容を集約する視点として「主として自分自身に関すること」「主として人との関わりに関すること」「主として集団や社会との関わりに関すること」「主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること」の4つを示しました。

道徳科の実施に当たっては、こうした内容項目を網羅するとともに、それを通して、学習指導要領の道徳科の目標にある「道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度」を、着実に育まなければなりません。そのために、問題解決的な学習や体験的な学習などを取り入れて「考え、議論する」というのが、一部改正の眼目です。この点については、次期学習指導要領で導入されるアクティブ・ラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)を先取りするものだと言っても過言ではないでしょう。

しかし、一方では各学校現場において、どのように道徳科の授業づくりをしていくか、戸惑いや試行錯誤が続いていることも確かです。武蔵村山市立第八小学校の取り組みからは、そうした戸惑いに対する“ヒント”をつかむことができます。

同校が道徳の研究に着手したのは、文部科学省や教育委員会からの働き掛けではなく、現場目線での課題を解決したいとの思いがあってのことだったといいます。

同校では2009年度から、「午前5時間制」というユニークな時間割編成を行っています。登校時間を20分早め、給食の時間を15分遅らせることで午前に5時間の授業を行い、午後の授業は6時間目のみとする試みです。これにより、放課後に45分間の余裕が生まれ、それを活用して補習教室「八小なるほど塾」を開講している他、子供たちが地域の教育ボランティアや高校生と触れ合う「ふれッチャ・クラブ」も開催しています。

そうした取り組みを通じ、同校では一つの課題が浮かび上がってきました。「ふれッチャ・クラブ」の活動をする中で、あるいは登下校の際、地域の人たちにあいさつができなかったり、適切な言葉遣いができなかったりする子供がいたのです。同校の学区には核家族が多く、家庭教育における礼儀・作法の指導が行き届いていない実態が少なからずありました。折しも政府の教育再生実行会議が道徳の教科化を打ち出した(2013年2月の第1次提言)こともあり、同校では学習指導要領に縛られずに柔軟なカリキュラム編成ができる研究開発学校に名乗りを挙げ、こうした課題に対応していくことにしました。

その後、教育再生実行会議では「道徳を新たな枠組みによって教科化」するという方向性が示され、具体的な中身は、文部科学省の有識者会議(2013年12月報告)や中央教育審議会教育課程部会道徳教育専門部会(2014年3〜9月)での検討に委ねられました。学習指導要領の一部改正について答申が出されたのは2014年10月で、告示は2015年3月。同校の研究開発は、申請が2013年度中、指定が2014年度からで、いわば制度改正の動きをにらみつつ、並行する形で進めるというものでした。

研究開発の中で、同校が独自に設定した教科「徳育科」は、「道徳の時間」の年30時間と、「礼法の時間」の年15時間を合わせた、年45時間で構成されます。礼法の時間では、礼儀・作法に関する内容を以下の15項目に重点化し、系統的に育成しようとしています
①集中力を増す基本姿勢・気持ちの良い返事・挙手
②相手も自分も大切にする挨拶・身なり・態度
③時と場や目的に応じた言葉遣い・態度
④いじめを絶対に許さない(他の人との関わり方)
⑤温かい人間関係を作る(他の人との関わり方)
⑥整理整頓使いやすく(学校生活)
⑦みんなのための場所だから(学校生活)
⑧訪問する時・される時の振る舞い
⑨みんなが使うものだから(公共の場での使い方)
⑩人に迷惑をかけない(公共の場での振る舞い)
⑪「どうぞ」の心を大切に(公共の場での心配り)
⑫家族を敬愛し幸せを求めて
⑬尊敬・感謝を表す行事
⑭先人の生き方に学ぶ
⑮感謝をかみしめ、楽しくいただく(食事のマナー)

これらの礼儀・作法は市の教育委員会との連携により、「武蔵村山市立学校 小学生のための礼儀・作法読本」として、市内全校に配布されました。しかし、同校の実践自体は、決して礼儀・作法の“形”を教え込むのではありません。その時々に相手がどんな気持ちになるか、どのように行動すればよいかを子供たちに考えさせ、判断できるようにするのが目標です。

授業づくりでは、「何が分かるか」から「何ができるか」という概念も打ち出しました。この言葉は、次期学習指導要領の基本概念としても示されていますが、期せずして同校が先行する形で実践していたことになります。

P130チョークでの板書と張り紙を織り交ぜながら、児童の興味関心を引きます。

P131_2自身の考えをプリントに書き込む児童。“考える道徳”を踏まえた活動が行われています。

学校の実態に応じた教育課程編成と
授業づくりがますます重要に

道徳が教科化されても、道徳教育が学校の教育活動全体を通じて行われることに変わりはありません。道徳的実践力を効果的に育むには、具体的な実践が不可欠です。それを具体的に指導する時間を、学校の実態から、「礼法の時間」として特設すべきだと判断して独自の教育課程を編成したことは、これも次期指導要領で求められる「カリキュラム・マネジメント」の先行実施だと言ってよいでしょう。

そして、次期学習指導要領ではカリキュラム・マネジメントを、管理職(校長・副校長・教頭)や教務主任だけでなく、すべての教職員が意識するという方向性が、中央教育審議会の教育課程部会で固まりつつあります。次期学習指導要領では、全ての教科・領域等を、共通した「資質・能力の三つの柱」(①何を知っているか、何ができるか=生きて働く「知識・技能」の習得、②知っていること・できることをどう使うか=未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成、③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか=学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の育成)に整理して構造化し、カリキュラム・マネジメントによる教科等横断的なつながりの中で、資質・能力を育成しようとしているからです。すなわち、個々の教員は、どの教科等の授業を行うにも、他教科等とのつながりを意識することが求められているわけで、学校教育全体を通して行う道徳教育と、その“要”である道徳科の実施が、次期学習指導要領の先取りになると言っても過言ではないでしょう。

もう一つ、着目すべき点は“評価”です。次期学習指導要領では、教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性を持った形で学習評価も改善することを目指し、従来の4観点から、資質・能力の3つの柱に合わせた「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理することにしています。同校では、徳育科で育てたい力を、学力の3要素に沿った「道徳的認識・理解力」「道徳的思考・判断力」「道徳的実践意欲・態度」と設定し、評価も「知識・理解・技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の3観点で行っています。これらは、当初から道徳の教科化に向けた専門家会議に加わっていた貝塚教授らの指導の下、中央教育審議会の論議と並行して練り上げてきたものです。今後、次期学習指導要領の告示が年度内に出れば、見直しが行われる見込みで、礼法の時間の15項目も、10項目に整理していく予定です。

大切なのは、あくまで学校の実態を基にカリキュラム・マネジメントを行い、主体的に授業づくりを進めることです。研究主任の嶺井勇哉主任教諭も、「評価の観点が明確になることで、ねらいを意識し、授業の展開を考えるよう、教員の意識も変わってきました」と話します。

これからの教員には、「社会に開かれた教育課程」(中央教育審議会「審議のまとめ」)を実現する授業づくりが求められています。道徳科は、その試金石です。牧一彦校長は、教職志望者に「子供に対する熱い思いを持つとともに、道徳教育はもとより、新しい教育の流れの大事なポイントを勉強しておいてほしいですね」とエールを送ってくれました。

P131_1研究授業の後に行われた協議会の様子。先生同士がグループとなり、授業の成果や課題について話し合います。

教セミちゃんねる 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご紹介