教職感動エピソード

Vol.17 “チャーハンクラス”誕生

今村 信哉(元さいたま市公立学校校長)

感動エピソード

 

先日、小学校6年生の時に担任していた教え子の結婚式に行きました。やんちゃ坊主だったA 君が素敵な女性を人生の伴侶とし、皆の前で堂々と結婚を宣言した姿を見て、親ではない私も誇らしい気持ちで胸が一杯になりました。披露宴では、1テーブルを当時の同級生が占めていました。私はこれまでも何回か卒業生の結婚式に参列させてもらいましたが、こんなにたくさんの同級生が来ていたのは初めてでした。しかし、彼らがやって来たのは式が始まるギリギリの時間。参列者が式場に向かおうと席を立ち始めた頃、ようやく息せき切って登場しました。幾つになってもやることは変わっていません。

私が彼らの担任をしたのは22 年前。当時、私は担任を外れ、教務主任をしていました。高学年の理科の授業を担当していたので、各クラスの状況はよく分かります。その中に集中力がもたず、学級経営は相当苦労するだろうなと思われるクラスがありました。そのクラスにA 君、そして彼の結婚式に参列した同級生たちがいたのです。

1学期が終わってすぐの頃、私は校長先生に呼ばれました。そのクラスの担任が病休に入ったので、私が担任になるように言われたのです。私は担任という仕事が好きでした。また、それなりに自信も持っていました。やんちゃ坊主が1人や2人いようが、「このクラスは楽しいぞ」と思わせるような学級づくりをすることはお手の物だと思っていたのです。しかし、その時ばかりはそんな思いを持つことができませんでした。さまざまな要因が複雑に絡まったクラスの状態。それを解きほぐし、担任が思い描くような学級をつくり上げる見通しが持てなかったのです。夏休みの間、先輩や同僚に相談したり、教えを請うたりしたのですが、具体策のないまま、2学期を迎えることになってしまいました。

2学期の始業式で、校長先生が担任の変更を告げた後、私は子供たちを体育館から引き連れて教室に入りました。新しい担任がどんな人間か、私は子供たちが多少は興味を持ってくれるだろうと思っていましたが、そんな淡い期待は見事に打ち砕かれてしまいました。誰一人として、私の方を向いてくれなかったのです。理由はさまざまだったでしょうが、少なくとも私に対する期待を子供たちから感じることはできませんでした。

そうした様子を見て、私は踏ん切りが付きました。ゼロからではなくマイナスからのスタート。それがはっきり分かったのだから、思いついたことは何でもやってやろうと、開き直りに近い気持ちになったのです。

その日から、私は何日間も「この学級をどのような学級にしていきたいか」を子供たちに問いました。椅子と机を取っ払い、車座になって問い続けました。当然ながら初めは誰も口をききません。しかし、何度も続けているうちに、子供たちはぼそぼそと語り出しました。出てきた言葉は「協力するクラス」「仲の良いクラス」など、自分の言葉ではない一般論でした。これでは駄目だと思い、何かクラスのシンボルのようなものを決め、学級に名前を付けることにしたのです。

「今のクラスはみんなバラバラ。もっとまとまらなくてはならないので、ねばねばした『納豆』をシンボルにしたらいい。」

私は「納豆クラス」を提案しました。

「そんなの臭そうで嫌だ。」

B 君が、これまでにない早さで反応しました。この発言を機に、子供たちがどんどん意見を出してきたのです。最後に候補として残ったのが「チャーハンクラス」と「ミックスジュースクラス」でした。ここに至るまで、散々好きなことを言ったり、やったりしてきた子供たちですから、そう簡単には決まりません。どちらも一歩も退けない状況になってしまいました。そんな状態の中、普段、あまり発言しないC さんが手を挙げ、こう発言したのです。

「ミックスジュースだと元がオレンジなのか、バナナなのか、桃なのか分からなくなってしまう。でも、チャーハンならハムやピーマンがちゃんと見えて、何が入っているか分かるでしょ。私は『チャーハンクラス』の方がいいと思います。」

その子が言い終わった瞬間、教室に走った空気を、私は忘れることができません。皆がその意見に心から納得したのです。全員一致で「チャーハンクラス」となりました。

それからは、クラスのシンボルマークを決めてシールにしたり、新年には学級のカレンダーを作って全員が持ったりと、「チャーハン」を中核とした活動が次から次へと始まりました。

「集まろう、一粒一粒おいしいクラス」

プロのコピーライター顔負けのキャッチフレーズは、みんなで言葉を出し合い、紡いでできたものです。もちろん、その元になっているのは「チャーハンクラス」に決まった時の、あの決定的な意見です。「個性の尊重」、「一人一人を大切に」という教育の本質がその意見には集約されていました。そして、その精神は子供たちの心にしっかり根付いたのです。そうでなければ、こんなに素敵なコピーはできません。

チャーハンクラスは卒業後に何回かクラス会を行いましたが、ある時、あの決定的な意見を出したC さんのことが話題に上りました。すると、卒業してから10 年以上が経っていたにも関わらず、そこに居合わせた同級生は皆、その時の状況を詳しく覚えていたのです。それからさらに10 年が過ぎ、A 君の披露宴の席で、私はスピーチをさせてもらいました。その中で私は、A 君や参列していた同級生たちに対し、打ち合わせなしに突然話を振りました。

「チャーハンクラスのキャッチフレーズを覚えているかな? 皆で言ってみましょう。」

もちろん、A 君も含めた全員が、しっかり声を揃えてキャッチフレーズを言ってくれました。

私は今、大学で教員を目指す学生たちの指導に当たっています。私は彼らに「子供は元来、良くなろうとする方向性を持っている」ことや、「子供は意欲を持つと凄い力を発揮する特性を持っている」こと、そして何より、「教員は子供の変化と可能性を信じ、待つことをためらわない」ことを伝えています。教員の努力は絶対に必要です。しかし、変わるのは子供たちです。子供が持つ素晴らしい力を、チャーハンクラスは私に教えてくれたのです。

教セミちゃんねる 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご紹介