レポート教育最前線

具体的な手だてで子供の 活動と思考を引き出す 「アクティブ・ラーニング」

埼玉県桶川市立加納小学校

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次々と出てくる新しい教育のキーワード。自分が体験していないことは想像がつきにくいものですが、教職に就いた瞬間から、主体的にその実践を担わなければなりません。先進校の事例を見ながら、具体的なイメージを膨らませていきましょう。第1回は、次期学習指導要領の目玉とされている「アクティブ・ラーニング」(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)です。「特定の型」ではない(2015 年8月の中央教育審議会教育課程企画特別部会「論点整理」)というのですが――。

文・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

 

先進県の埼玉、校内研究の伝統がある桶川市立加納小学校

ALは、2014年11月の文部科学大臣諮問に盛り込まれて以来、教育界の注目を一気に集めるようになりました。しかし、何をもってALとするのか、まだ現場の先生ですらイメージが固まっていないのが現状です。

ただ、今までとまったく違う学習・指導方法を取り入れようというのではなく、これまで積み上げてきた教育実践をバージョンアップして、変化の激しい21世紀に活躍できるための資質能力を育成していこう、という考え方が、その背景にはあります。そうした授業改善の取り組みを率先してきた自治体の代表例が、埼玉県教育委員会です。2010年度から一部の高校を皮切りに始まった取り組みは徐々に拡大・発展し、小・中学校でも2014~16年度までの3年間、「考え、話し合い、学び合う学習」推進事業が始まりました。県内に4つある教育事務所がそれぞれの市町村の教育委員会を指定して、近隣にある小・中学校で研究を進めてもらうというもので、計9校が推進協力校に指定されています。

そのうち南部教育事務所の管轄である1校、桶川市立加納小学校は、JR桶川駅からバスで20分ほど。創立143年の歴史があり、3世代同居も多い落ち着いた地域にあります。

桶川市の小中学校では、3年サイクルで教科を決めて校内研究に取り組んでいます。同校では、2012年度から桶川市教育委員会などの指定を受けて取り組んできた算数の研究が最終年度の3年目を迎えた2014年度に、県の教育委員会の事業も併せて受けることになりました(現在は2015~17年度、国語の研究と並行)。

同校は各学年2学級(他に特別支援1学級)という小規模校のため、低・中・高学年という2学年ごとのブロックで、計4人(1学年につき2人)の担任を単位として授業研究を進めるのが、基本スタイルです。

初年度は、①自己との対話を重ねること、②他者と相互に関わること、③自分や集団の考えを発展させ、共に実践に参加すること――という3つの事業の考え方に基づき、これまでの蓄積も生かしながら、ペアやグループ、全体で話し合う活動を工夫していきました。

画像02思考ツールの一つ「Y チャート」を活用した授業

 

他校の良さを取り入れて、自分たちなりに生かす

飛躍があったのは、2年目に入った2015年度初頭でした。県の推進検討委員会で、文教大学の嶋野道弘教授(元文部科学省主任視学官)から、関西大学初等部(大阪府高槻市)が開発した「思考ツール」を紹介されたのです。

関西大学初等部では、教科などとは別に、「ミューズ学習」という授業を実施しています。考える方法を教えるもので、そのために開発したのが、思考ツールでした。教科横断的に必要な思考スキル(技能)を、①比較する、②分類する、③多角的にみる、④関連づける、⑤構造化する、⑥評価する――という具体的な行動レベルで整理し、それぞれにベン図(①)、Xチャート・Yチャート(②、左写真参)、コンセプトマップ(④)など11 種類のシンキングツールを用意。考えたことや話し合ったことを書き込みながら、頭の中を「可視化」しようというものです。

加納小学校の柿沼康伸主幹教諭は、最初にシンキングツールを見た時、「分かりやすく説明するために、昔から授業で工夫してきたものと、そう変わりはないな」と思ったそうです。一方で、閑野千鶴校長は「これまで単に『深く考えなさい』と言っていたものが、『比較しなさい』『分類しなさい』と具体的な形で指示することで、子供たちは一層よく、多面的に考えられるようになり、友達の頭の中(考え)も見えるようになります」と、そのメリットを指摘します。

また、思考ツールだけではなく、ランダムに書いたカード(付箋)を内容の近いグループに分類していく「KJ法」も取り入れています。

同校のこうした経緯から、何を読み取るべきでしょうか。学校現場は、少しでも良い授業を実施しようと、常に近隣や全国の情報を集めることに熱心です。先生個人はもとより、その学校なりの事情に応じて、授業研究の体制を取っています。しかも、ただ他校の真似をするのではなく、それまで積み上げてきた自分たちの実践を基にしながら、うまく工夫して取り入れ、自分たちのものとし、子供の力を引き出し、伸ばそうとする姿勢が、国際的にも注目されている日本の学校現場の「強み」です。

ALは、まさにそうした日本の学校の強みを生かし、さらなる改革を進めようというものです。次期学習指導要領では、「何を学ぶか」だけでなく「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」を各学校で組み立て、未来を創る子供たちに育成すべき資質能力を育むことを狙っています。そこでは、学習・指導方法の改善が欠かせません。ALは、そのための「視点」だとされています。

そんな好例を、同校の事例から学ぶことができそうです。閑野校長は、「やはり自校の、自分の学級で、児童の実態を踏まえてスタートするのが基本です」と話します。

画像03子供たちが、思考ツールの一つ「イメージマップ」を活用し、大豆についてまとめた発表資料

 

画像04思考ツールは、あらゆる学年のあらゆる授業で取り入れられています

 

計画的な授業で資質能力を着実に高める

研究指定から3年目を迎えた現在、同校ではどのような実践を行っているのでしょうか。

各教科の指導計画には、単元ごとに「学び合いマーク」(㊫)を入れて、計画的にALを行うように工夫しています。

もう一つの工夫は、「学び合いの事例」を整理していくことです。各学年で2学級のうち1学級を「検証クラス」に設定し、教科を決めて、学び合う学習を授業のどの段階で、どんな狙いで実施したかを、ブロックごとに1年かけて見学し合いながら検証します。さらに、各学年で2本ずつ、計12本を「研究授業」として、校内で発表・検討します。そうして得た事例を、①〈見通す〉段階=導入、②〈取り組む〉段階=展開、③〈振り返る〉段階=終末――に分類・整理し、一覧表にしていきます。これによって、対象とした教科や学年にとどまらず、他の教科や学年の授業を工夫する際にも、参考にすることができます。

次期学習指導要領では、各教科・領域を、学校教育法第30条の「学力の3要素」に沿って、「個別の知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」という3つの柱で、教科横断的な資質能力を育成しようとしています。そのための学習・指導方法の改善を進めるにあたっても、同校の一覧表作成は、注目される事例です。

各学級でどのような授業を展開するかは、今も「全員が手さぐり」(閑野校長)です。しかし、自ら学び、共に学ぶ状況を作り出す思考ツールを取り入れることで、子供の学びが活性化し、全員参加型の授業になった、という実感はあるといいます。昨年12 月に行った校内アンケートでも、「学習意欲の向上が見られた」と回答した教員が71%と、5月に比べて約10ポイント増え、「途中で飽きてしまう児童が、学び合う場面で活躍するようになった」という回答も、15%から41%に伸びました。

一方で、児童の回答では、5月段階では多くを占めていた「友達の考えを聞くことが楽しい」「自分の考えを話すことが楽しい」「学び合う学習をすると友達と仲良くなれる」といった回答(「好き」「まあ好き」を選択)が、少し減る傾向が見受けられました。ただ、「実態として、子供が伸びているという実感はあります。学習の積み重ねで、子供たち自身が自分に厳しくなったことの現れではないでしょうか」というのが、築根英治教頭の見方です。

閑野校長も、「まだまだ子供たちが『できるようになった』と実感しづらいようです。私たちも今後、成果をどう測るかが課題です」としながらも、「思考ツールに整理することで、意見が言えなかった子も、言えるようになっています」と、着実な手ごたえを感じています。

画像05タブレット端末を活用したアクティブ・ラーニング。物の温度と体積についてまとめる子供たち

画像06同校では、ICT 機器も積極的に活用し、子供たちの学習意欲向上に寄与しています

 

次代のAL 授業に期待される教員養成課程の学生

埼玉県教委は、「AL学習観6則」として、ALを①単なる手法や技術・型ではなく、学びの視点(学習観)である、②ALを行うこと自体が目的ではない、③他者との協働を通じた主体的な学び合いになること、④講義型の授業や一斉指導型の指導方法を否定するものではない、⑤新たな取り組みを始めるものではないが、何も変えなくてもよいというものでもない、⑥教員自らが協働の中で、深く考え、学びを通じて変容することが求められる――との考えを各校に示しています。

これを受けて、同校ではALのイメージを▽授業中、児童の頭の中がチカチカとアクティブになる授業▽全員参加の授業▽特に思考力、そして判断力・表現力(いわゆる活用する力)を高め、学力向上につながる授業▽ただし、基礎的・基本的な知識・技能を身に付ける学習も十分に行う――ととらえました。

閑野校長は、今後の抱負として児童の学力を「プレゼンテーション能力や、相手の意見を受容しながら上手に反論できるような力にまで高めたいと思っています」と話します。「主体的・対話的で深い学び」を実現するためのALには、目指す目標にも高いものがあるのです。

そうした授業を担うのは、他ならぬ教員です。子供に思考ツールの書き込みや話し合いなどの活動を漫然とさせているだけでは、求められる資質能力を確実に育成するALにはなりません。

中央教育審議会の論議でも、ALを担う教員の研修のみならず、教員養成にも期待が高まっています。教職課程でも今後、ALの指導力育成に力が入れられることでしょうし、それが教員採用試験でも有利に評価される可能性は大いにあるでしょう。

閑野校長は、「ALは、これから必要不可欠な学習観になります。教職に就こうとされる方も、意識的に取り組むとよいでしょう」とアドバイスします。そのためにも、自分が受験する校種・教科だけでなく「いろいろな実践を見て、学ぶことが大切です」と話します。

同校では、校内研究でKJ法やYチャートなどを使うことが当たり前になっているそうです。子供だけでなく、「先生方もアクティブになる必要がある」(閑野校長)というのが、ALの真骨頂なのだと言うことができるでしょう。

 

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