編集長コラム

時代と共に変化する言葉 教育用語もまた例外ではない

“言葉の乱れ”を嘆いた吉田兼好

言葉は時代とともに変化します。その昔は誤用とされていた言い回しが広く一般に広がり、正しい日本語として定着していった例は少なくありません。「情緒(じょうちょ)」はその昔「じょうしょ」と読んでいたものが変化したものですし、「立ち居振る舞い」の誤用と言われる「立ち振る舞い」は、 古い時代には正しい言葉として使われていたそうです。また、 誤った言葉遣いの代表格とされる「全然」+肯定形の表現も、 明治以前には使われていたとの記録もあります。
かの吉田兼好は「徒然草」の中で、当時の“言葉の乱れ”を嘆いたといいます。それから700年近くが経った今、 私たちの日本語を聞いたら、兼好はどのように思うのでしょうか。もはや、「 乱れ」という言葉を通り越して、 別の言語に映るに違いありません。そう考えると、 言葉の乱れには一定の歯止めをかけつつも、 変化を徐々に受け入れていくというのが、 人間社会の姿なのでしょう。

学校教育で使われる言葉も、 日々変化し続けています。例えば、 その昔は子供が学校へ行かない状態を「登校拒否」と言っていました。しかし、当の本人が必ずしも「拒否」しているわけではなく、 状態を正しく指していないとの指摘を受け、現在では「不登校」と呼ばれるようになっています。

「不登校」が正式用語として広まる中、「登校拒否」という言葉は、 公文書等に出てくることはほとんどなくなりました。ただ、 一般の人たちの日常会話には未だ出てくることも多く、 言葉として絶滅したとは言えない状況があります。ただし、公的には「不登校」が正しく、 教員採用試験の論作文等で「登校拒否」を使うと、 減点対象になるので注意が必要です。

 

特定対象への“配慮”から変化する教育用語

学校では日々、 国語の時間等を通じて、 子供たちに正しい日本語を教えています。その点で、 学校の先生方は言語を正しく使うことに対し、 一般の人たちよりも注意を払っています。そうした意識や配慮があったからこそ、「登校拒否」は「不登校」に置き換えられていったのでしょう。

同様の例は、 他にも見られます。例えば、 最近は「父兄」という言葉を使わなくなりました。以前は「父兄会」「父兄参観」などの言葉が普通に使われていましたが、 そもそも「父兄」は「父」や「兄」だけを対象としているわけではありません。加えて、 世間には父親のいない家庭もあります。そうした配慮から現在は「保護者」が広く使用されるようになっています。

また、 最近は「落ちこぼれ」という言葉も、 学校関係者の間では使われなくなりました。「落ちこぼれ」には、 授業について行けない脱落者・落伍者的なニュアンスがあります。しかし、 これは教える側の一方的な理屈ではないか、 むしろ分かりにくい授業で一部の生徒を“落ちこぼし”ている張本人は教師ではないか…、そうした指摘が挙がるようになりました。ただ、 これに代わる言葉は今のところ生まれておらず、 便宜的に「授業に遅れがちな児童(生徒)」などと表記しているケースが多いようです。

また、「特殊教育」は近年、すべて「特別支援教育」という言葉に置き換えられました。ただ、この変更については、「特殊」という言葉に差別的なイメージがあるからというのが、主たる理由ではありません。学習障害やADHD(注意欠陥多動性障害)等の発達障害の存在が明らかになるにつれて、障害の存在を特別視することなく、「特別な支援」でもって対応していこうというのが、主たる趣旨です。いわば、障害児教育そのものの質的転換であり、単なる言葉の置き換えとは言えないでしょう。

「父兄」も「落ちこぼれ」も、明確な差別用語というわけではなく、一般書では普通に使用されています。しかし、教育の専門書では、まずもって使われません。こうした状況を見ても、教育関係者が言葉により敏感なアンテナを持っていることが分かります。

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今後、使われなくなりそうな言葉

こうして淘汰される言葉があるということは、今は使われている言葉の中にも、使われなくなる言葉があるということです。個人的に、そうなるのではないか(なってほしい)と思う教育用語を2つほど挙げてみたいと思います。

①モンスターペアレント
不条理な要求を突き付けてくる保護者を指す言葉で、10年くらい前から使われるようになりました。しかし、「モンスター=怪物」の意味で、やや過激すぎることから、専門家の中には「使うべきではない」と言う人も少なくありません。また、この言葉が広く知られるにつれ、保護者の中には「モンスターと言われたら嫌だから…」との理由で、正当な主張すら引っ込めてしまう人も増えています。こうした弊害が目立ち始めれば、いずれは別の言葉で言い換える必要も出てくるでしょう。

ちなみに、たびたび苦情を述べる保護者をアメリカでは「ヘリコプターペアレント」(常に子供の上空を飛んでいて、何か起きると降りてくる)と呼んでいます。類似する言葉があることからも、保護者対応は各国共通の課題であることが分かります。

②ゆとり世代
一部のネットユーザー等が使っていたものですが、次第に一般の人たちも使うようになりました。学習内容が大幅に削減された「平成10・11 年版学習指導要領」の教育を受けてきた世代を指す言葉で、よく「基礎学力が足りない」「競争の厳しさを知らない」などと揶揄されます。

しかし、「ゆとり教育=学習内容の削減」というイメージで捉えられがちですが、この学習指導要領が目指したのは「知識」「技能」の量を絞る代わりに、その「活用力」を高めるということです。その方向性は、次期学習指導要領でも示されており、現代社会を生きるために重要な力だと言われています。そう考えれば、この世代を「ゆとり」という言葉で括り、あたかも能力が足りていないかのように指摘するのは間違いだと言えるでしょう。弊害の大きさを考えれば、個人的には淘汰されてほしい言葉の一つです。

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