学校不祥事の顛末

水泳指導中の事故により教諭を処分

【今月の事例】
水泳指導中の事故により教諭を処分
A市教育委員会は、中学の水泳授業中に男子生徒に飛び込み指導をし、頸椎(けいつい)骨折などの大けがをさせた男性教諭(34)に6カ月間の減給10分の1とする懲戒処分を発表した。生徒は飛び込み台からプールに飛び込み、頸椎骨折や脊髄に損傷を負った。
市教委によると、2012年度から改訂学習指導要領により飛び込み指導が禁止されているが、教諭は指導要領を読んでいなかったという。生徒は首から下がまひし、手足を動かせない後遺症が残っているが、既に退院。本人の強い希望で4月から通常学級に復学している。

 

【法律家の眼】

悔やまれる
学習指導要領の見落とし

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 授業中に発生した重大事故

水泳の飛び込み指導の際、頸椎損傷などの重大事故が発生する例は従前から多く(独立行政法人日本スポーツ振興センター刊『学校の管理下の災害』)、危険性が指摘されていました。そのため、2012年度から小中学校では改訂学習指導要領により、同指導が禁止されるに至りました。本事案は、それにもかかわらず飛び込み指導がなされ、痛ましい事故が起きたというものですが、避けられない事故ではなかったはずです。

 

2 本事案における法的責任

(1)行政上の責任
本事案では男性教諭が減給処分を受けています。これが“行政上”の責任です。
(2)民事上の責任
事故が発生すれば、いかなる場合でも民事上の損害賠償責任が問われるというわけではありません。例えば、不可抗力の事故の場合、道義的責任は別として、学校側が法的な意味での結果責任を負うわけではありません。
しかし、本事案の場合、学習指導要領で明確に禁止されている指導を行い、それによって事故が発生しているため、仮に裁判で指導の適否を争ったとしても、男性教諭に過失があったことは認められるでしょう。
そうなると、学校側は損害賠償責任を免れません。重篤な後遺障害が残存した場合は1億を優に超える高額賠償となるケースもままあります。

【国公立学校の場合】
◯国家賠償法第1条
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた時は、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずる。
【私立学校の場合】
◯民法第415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者はこれによって生じた損害の賠償をすることができる。
◯民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
◯民法第715条(使用者等の責任)
第1項 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

 

3 男性教諭の問題点

(1)学習指導要領とは
文部科学省は、全国のどの地域で教育を受けても一定水準の教育を受けられるよう、学校教育法等に基づき、各学校で教育課程を編成する際の基準として、学習指導要領を定めています。このように、学習指導要領は法律そのものではありませんが、前述のとおり、裁判になればこれに準拠した指導をしたか否かが過失の判断に大きく影響します。
(2)本事案から学ぶべきこと
男性教諭は学習指導要領の改訂を知らなかったとのことです。仕事にも慣れ、漫然と従前の授業計画を踏襲していたことから、改訂に気付かなかったのかもしれません。飛び込みをさせなければ事故は起きなかったわけで、男性教諭が学習指導要領の改訂を見逃していたことが悔やまれます。
ただし、ここで注意すべきは、学習指導要領に従ってさえいれば、指導にあたって特段注意を払わなくても免責されるわけではないことです。裁判になれば、具体的な指導にあたり、どのように危険を予見し、どのように回避措置をとったかが争点になります。皆さんには、「学習指導要領に注意を払い、安全かつ適切な指導を行う」ことをベテラン教師になってからも忘れないでいただきたいと思います。

 

4 「学校事故対応に関する指針」

2016年3月、学校事故の未然防止や事後対応に関する「学校事故対応に関する指針」が公表されました。本事例とは少し離れますが、学校内で何らかの事故が発生した場合、大切なのは「事実を隠さない」ことです。このことも心に留めておいてください。

 

【教育者の眼】

右手にチョーク、
左手に学習指導要領を

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■教えるプロ意識の欠如

今回は、中学校体育教師の水泳指導中の事故。男子生徒が頸椎骨折や脊髄損傷を負って後遺症が残り、本人と保護者等の人生を大きく変えてしまった事故です。担当教師が学習指導要領の改訂を知っていれば防げた事故であり、その点でも“人的事故”と言えます。教師個人の問題だけでなく、学校が全ての教職員に周知・徹底していれば、やはり事故は起こらなかったはずです。当然、「知らなかった」「確認していなかった」という理屈は通らず、学習指導要領に則った指導を怠ったことから、「法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」(地方公務員法第32条)や「職務に専念する義務」(同法第35条)に抵触します。減給6カ月の懲戒処分は妥当なところでしょう。さらには、刑事上・民事上の責任を問われる可能性もあります。
学校は子供たちの夢や未来、生命を託されている場所です。その意味でも、教師としての自覚や使命感の欠如から起こる事故は、残念極まりありません。さらに言えば、学校が「教えるプロ集団」として最善を尽くしていたのかとの疑念も抱きます。この生徒が復学後、元気に学校生活を送っていることを祈るばかりです。

 

■学習指導要領は学習指導の拠り所である

教師は授業を進める際、学習指導要領の内容や指導上の注意点等を熟知し、指導方法の工夫改善を図り、授業を展開していかなければなりません。「教育課程の基準」である学習指導要領は、各教科等の目標やねらい、内容等を示しており、いわば授業時数との関連において総合的に組織した各学校の教育計画と言えます。
なぜ、このような計画があるのでしょうか。それは、子供たちに「生きる力」、すなわち、確かな学力、豊かな心、健やかな体の「知」「徳」「体」を各校の実態に即してバランスよく育んでいくことが、全国のどの地域・学校においても保障されなければならないからです。
「学習指導要領」は約10年ごとに改訂されており、改訂時には各自治体で説明会が開催され、各学校に改訂の趣旨等が周知・徹底されます。本事例の「飛び込み指導の禁止」は、死亡・後遺障害等のけがが頻発している状況を受けて行われた重要な改訂であり、各学校には十分すぎるくらいの申し送りがなされたはずです。果たしてこの学校が、きちんと校内で説明会等を行い、担当教師に周知・徹底していたのか、疑問は残ります。
「小事は大事」。たとえ改訂が小さくとも、それを見落としたりおろそかにしたりすると、大事につながることを理解し、熟知しようとする姿勢が必要です。教師を目指す皆さんは、「右手にチョーク、左手に学習指導要領」を持つくらいの気持ちで、日々の授業に臨んでください。

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