カリスマ教師の履歴書

File.16 及川 栄恵先生(埼玉県立和光国際高等学校)

  コンセプトは「海外に行きたくなる世界史」

興味がわく授業で,学ぶ意欲に火をつける

授業が始まると,立て板に水のごとく話し始める世界史の及川栄恵先生。日本人には覚えるのが難しい外国人の名前や歴史的な事件名も,その裏にあるストーリーや文化などの背景を説明することで,自分たちと変わらない人間が起こした物語として身近に感じることができる。それを楽しんでほしいと話します。

及川先生 メイン

文・平野 多美恵

 

民族衣装に手製の旅行記…生徒が興味を持つ仕掛け満載の授業

「授業は全ての基本です。生活指導でどんな立派なことを言っても,授業が面白くなくて興味が持てないと感じれば,生徒は心を閉ざしてしまいます。信頼関係のスタート地点が授業なのです。」

及川栄恵先生の世界史の授業は,先生が作成したプリントを使って行われます。A3 サイズのプリントの左半分は授業の要点が穴埋め式で書かれており,右半分にはメモ欄とまとめ欄。生徒は事前学習で左半分の空欄を埋めて授業に臨み,及川先生の説明をメモ欄に記入していきます。そしてまとめ欄にはテスト前に学習した内容を記入し,自分だけのプリントに仕上がるようになっています。

「メモ欄は『凄い』や『酷い』など自分の感情も交えながら記入するように指導しています。『そんなことがあったんだ!』と心揺さぶられることが,学習への興味・関心をかき立てることに結びつくからです。」

興味・関心をかき立てる工夫は,授業の随所に見られます。プリントの裏に歴史の裏話に関連するコラムを掲載したり,先生が訪問先の国で描いたスケッチブックやおみやげを見せたり。時には授業に関連する国の民族衣装を着て,授業することもあるといいます。プリントの裏のコラムは大人気で,「家族で楽しみな
がら読んでいる」と話す生徒もいるそうです。

「授業のコンセプトは『海外に行きたくなる世界史』です。歴史を,覚えなくてはならない文字情報としてしかとらえられないのなら,それはとても辛いこと。相手の国を知りたい,交流したいと思えて初めて世界史の勉強が生きてきます。歴史上の人物にも人生があったのだと思うと,身近に感じ,興味が湧いてくる。その面白さを伝えたいと思うのです。そのためには自分自身が世界史を楽しむことも大切にしています。『先生,本当に楽しそう。私もその国に行ってみたい!』と生徒が感じ主体的に調べるようになったら嬉しいですね。教師は自主的に学ぼうとする生徒の扉を開ける役目です。」

 

カリスマ サブ1

 

何か起きてからでは遅い日々の積み重ねを大切に

及川先生が教員を目指したのは高校生の時。当時,子供の頃に読んだ本の背景が世界史の授業で説明されることに興奮し,教科書に出てくる歴史上の人物の人間的な魅力,そこで繰り広げられたドラマなどを友人に語って聴かせるなどしていたそうです。一方で,部活動や学校行事に熱中し,周りの友人ほど勉強をしていなかったため,大学受験は思うような結果が残せませんでした。

「先生になろうと思ったのはその頃です。挫折感を味わったからこそ,伸び悩む生徒の気持ちやつまずきの原因も分かる。この経験は,教師として役に立つだろうと思いました。」

とは言うものの,当時は採用倍率が厳しい時代。社会科の教員になるには,40 倍という難関を突破しなければなりませんでした。大学4年次の採用試験に合格することができず,大学院に進学しながらさらに2年採用試験に挑戦しました。

「先生の仕事は楽ではありません。特に担任の仕事は,壊れやすい生卵を数十個,抱えているようなものです。子供が好きなだけではやれない仕事だと思います。だからこそ,本当に教員になりたいのか,自分に問い直す機会があったことは,良かったと思います。」

年度初めのクラス開きの日,及川先生は自身が担任をするクラスの生徒に,次のように宣言するそうです。

「クラスはランダムに集まったメンバーでできています。だから,仲間になるには自分たちで努力することが必要です。私は担任としてクラスで悲しんでいる人がいたら絶対に許しません。」

こうしてクラスの結束を促す一方で,及川先生は毎朝必ず8時前に教室へ行き,早く登校してきた生徒と話をする時間を作ってきたと言います。

「授業の後などにも声をかけますが,どうしても問題行動を起こしがちな生徒に目が行ってしまいます。そうすると,真面目な生徒は埋没してしまうのです。」

朝早く学校に来ている真面目な生徒たちと話をしてクラスの状況を聞くことは,学級運営上も重要だと及川先生は言います。また,朝の教室に及川先生が来ているという情報が生徒たちに知れると,相談事のある生徒は早めに登校してくるようになります。毎朝早めに登校するのは大変でも,何もしないでいると気付けることにも気付けなくなる。いじめや学級崩壊は,起きてからでは修復が難しい。だからこそ,事前に信頼関係を作っておくことが大切だと及川先生は言います。

「何か起きてから相談しろと言われて,自分の傷を打ち明けられるでしょうか? 自分が生徒だったときのことを思い出せば相談したいと思う先生はどんな先生か分かるはず。教師も生徒時代の気持ちを忘れないことが大切です。そして教師となった暁には,先生になってこうしたいと思うことを,『経験を積んでから』とか『いつか』ではなく,新人時代から迷わず実行してほしいです。」

正直しんどさもあるでも,卒業生のたったひと言で頑張れる

現在,及川先生は毎朝早朝に登校し,自習室の鍵を開ける日々を過ごしています。

「家庭の事情で,国公立大学でないと進学させられないと親に言われました。今から国公立に変えて間に合うでしょうか…」そんな相談をしに来る生徒も,少なくないといいます。デリケートな相談も,毎朝欠かさず自習室を開け,そこに居てくれる及川先生だからこそ,生徒たちは打ち明けてきます。何十年と教員をしていても,入学してくる生徒,受け持つ生徒たちは毎年入れ替わるのが学校の現場。及川先生は教員の仕事を自分の経験値によるルーティーンとせず,日々新しいこととして真摯に向き合っています。そんな及川先生は,教師としてのやりがいを次のように語ります。

「教師という仕事の成果が出るのは10 年後,20 年後のことです。また,教師は常に生徒や保護者に“見られている”仕事なので,正直大変だなと感じることもあります。でも,卒業生が『頑張っています!』と一言くれるだけで,十分励みになるものです。先生とは『先に生きる』と書くように,大人のサンプルのようなもの。挫折も失敗もある節だらけの人生の方が,生徒に寄り添えるのではないでしょうか。苦労も含めて全てが役に立つ仕事です。」

 

及川先生 顔

Profile
及川 栄恵(おいかわ さかえ)
1965年(昭和40年)7月31日生
1988年 日本大学文理学部史学科卒業
1990年 日本大学大学院博士前期課程修了
1990年 埼玉県立三郷高等学校着任
1997年 埼玉県立志木高等学校着任
2005年 埼玉県立和光国際高等学校勤務(現職)
座右の銘
生徒は教員の鏡
日々進化する

趣味・特技
合唱,フィギュアスケート
観戦

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